スマホを捨てたい子どもたち
1998年生まれの私は俗に言う「Z世代」の若者だ。「デジタル・ネイティブ世代」とも言われ、生まれたころからインターネットがある世代だ。
事実、私も小学校1年生からインターネットを利用していた。小学校5年生のとき、当時同級生の間で流行っていた「アメーバピグ」というアバターを使ってチャットするサービスで、タイピングが速くなった記憶がある。
スマホは高校生になってから使い始めた。中学生のときにはすでに携帯電話を持っていたが、スマホを手にした時の感動はこの上ないものだったのを覚えている。
でも最近はこんなことを思う。
自分はスマホを通して見たい世界だけを見ているのではないか。
1年前、将来は成長産業であるIT企業で働きたいという漠然とした思いがあった私は、世界の大企業GAFAについて調べていた。
なるほど、世界を牽引する企業はビッグデータやAIを駆使しているのか。Googleは世界最高峰の検索技術、Amazonは優れたレコメンド機能、Netflixに至っては、コンテンツ制作のキャスティングやストーリー構成にビッグデータを活用しているという。とても驚いた。と、同時に、自分が世界の大企業にコントロールされている気がした。
個人の趣味嗜好のビッグデータをAIを使って活用することによって、私は見たい世界だけを見させられている。
小学校3年生のときに父にGoogleEarthを教えてもらって、田舎の家から世界中の映像を見た。そのとき世界の広がりをとても感じた。自分の知らない世界に出会えるワクワク。とてもエキサイティングだった。
でも今はどうだろうか。インターネットによって私たちはどんどん閉じた世界に向かっている。見たい世界だけを見る、インターネットの世界が途端に窮屈に感じられた。
Amazonを使う前にまずはあえて書店に向かう。
ニュースはスマホやテレビからではなく、紙の新聞で見る。
そんなふうに、スマホから離れることが多くなった。
作者の山極寿一氏はゴリラ研究の世界的権威である。本作はそんな作者の長年のゴリラ研究の視点から科学技術が発展した世界に生きる人間を捉え、生物として進化してきた人間本来のコミュニケーションとわれわれ人間の未来の生き方を綴っている。
序盤にある文が印象的だった。哲学が生物学と情報学に乗っ取られ、情報学が人間を知能偏重に変えた。そしてそれによって本来決して分かるはずのない「好き嫌い」や「共感」、「信頼」といった感情さえをも情報として「理解」しようとするようになったとある。
恋愛マッチングアプリが出てきたのはその例の一つだと思う。そして作者はまた、人間のコミュニケーションについてこのように記す。
今の人間社会は、不変のルールに従うことが日常生活になっています。言葉が先行しているから、身体が感じていることより言葉を信じる。
言語によるコミュニケーションが高度に発達した人間が、情報学が世界を牛耳る社会システムの中で生きる現代はフィクションと言ってもいいだろう。
就活もその好例だろう。就活ではその界隈で求められるスキルの一つに「言語化力」がある。そして、面接では大抵の場合、一緒に時間を共有したことも、何の共同作業をしたこともない大人にESと面接での言動で判断される。
もちろん、面接官はその道のプロであるから、長年の経験による判断もあるだろう。
ただ昨今は、人と人が同じ時間を共有して仕事をするという共同作業である仕事の採用活動にさえもAIによる採用ツールが活用されるようになった。
判断の補助材料として活用していると公言しているものの、実際のところはわからない。
コロナ渦以前はまだましだっただろう。
面接でのリアルな対面によって、わずかな時間ではあるが、リアルに時間を共有することができた。だから入室から退室までの所作、面接での言動を通して能力だけではなく、人となりを判断できていたのかもしれない。
ところがコロナによってそれは難しくなった。
合説はもちろん、個別の企業説明会、面接までもがオンラインに移行していった。
どうしても対面で面接をしたいという企業は採用スケジュールを後ろ倒しにした。
ところがZ世代の私たちの多くは、そういった会社を「オンライン化が遅れている企業」、「時代の変化に臨機応変に対応できない企業」として評価した。
本作にもあるように、情報学によって知能偏重になった今の社会システムでは効率化が是とされることが多い。
先の例のように就活生がそのような判断をしたのは事実だ。
でも、私たちは生物だ。効率だけで判断できるほど単純ではない。
感情があって理性もある、そして身体機能的な制限もある。
私はそれが人間だと思う。
ココロ、アタマ、カラダ。
これらから発せられる信号が複雑に組み合わさって、私たちは生きている。
今、世界ではさまざまな問題が起きている。
格差社会、貧困、環境問題、ジェンダー、食糧問題、人種間不平等、戦争。
これらはまだほんの一部だ。
発展していく技術革新は今後ますます飛躍していくだろう。
科学技術の発展は止めることができない。だからこそ、今、私たち一人ひとりが考えるべきは、その科学技術をいかに活用していくか、それによってどんな世界をつくっていくかということだと思う。
これは効率だけでは判断できないことだと思う。倫理や環境、経済発展、いろいろな側面から考えなければならないと思う。
だからこそ、私たちは互いの違いを理解して、協力しあっていく必要があるのだと思う。
正解がないからこそ、今、みんなで考えることが大事だと思う。