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10年前の読書日記13

2013年11月の記

 自室のベッドに、いつもビジュアル本を1冊置いて、寝る前になんとなく眺めている。現在の枕元本は、文:島泰三、写真:阿部雄介『日本水族館紀行』(木楽舎)。

 もともとはANAの機内誌連載だったそうだが、これほど写真が充実した水族館の本は、初めてではないか。おたる水族館のガンギエイの写真には、ぐいぐいツボを圧され、私も今すぐ水族館めぐりがしたくなった。海の生き物に関する知識を子供にも読みやすくまとめてあったりとか、最新水族館情報がコンパクトにまとまってたりとか全然していないところもいい。こういう本は、著者の興味本位で作ったほうが面白いからだ。それでいて趣味が偏らず、ちゃんとガイドブックになっているのは、作り手のバランス感覚の良さだろう。個人的には、全国地図がどこかに欲しかったんだけど、なくてもまあいいや。これで2800円はかなりお得。

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 このところ、読書欲がだんだん復活してきて、読みたい本だらけで困っている。とくにこうして執筆している関係上、本誌の見本誌が毎月届くのには困惑する。ひとたびページを開くや読みたい本が倍増するからである。

 全部買ってられないので、人文書はともかく、小説はなるべく文庫を待って買おうと、涙を呑んで先送りするのであるが、その間にも、次から次に見本誌は届き、手にとって開いたが最後、読みたい本はさらに倍。と同時に、先々月ぐらいに強烈に読みたいと思った本を片っ端から忘れていくのであった。

 忘れるならいいじゃないか、と読者は思うかもしれないが、忘れたのは、絶対にこれだけは読みたいと一度は思った本なのである。やっぱり文庫になったら読みたい。どこかにメモしたような気もするのだが出てこない。
 おかげで、不意に本屋でその単行本を発見したりすると、そうだそうだ、これだったこれだった、また忘れてしまわないうちに買っちゃえ、って勢いで買って帰って調べたら先月文庫になってたりして、ううう…。

 そんなときは、私も同じ文筆家として、単行本で買ってもらったときのありがたみを胸に乗り切るしかないが、実はこの「見本誌届く」→「読む」→「読みたい小説増える」→「文庫を待つ」→「読みたい小説忘れる」という悪循環を解決する画期的方法をこのたび思いついたので、誰にでも有効というわけではないが、紹介したい。

 私の家には、ここ何年分も本誌『本の雑誌』が整然と本棚に並んでいる。であるならば、単行本が文庫になる期間を見込んで、だいたい3年ぐらい前の見本誌を読めばいいということにならないだろうか。

 すなわち「見本誌届く」→「3年以上前の見本誌読む」→「読みたい小説発見」→「文庫ですぐに買う」という作戦だ。ためしにやってみると、効果覿面。さっそく、めちゃめちゃ読みたいと思ったのに忘れていた下川博『弩』(講談社文庫)を発見したりして、おお、なぜこんな凄い方法を今まで思いつかなかったのか、自分の聡明さに陶然となったのであった。
 買う量が増えただけという気もする。

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 青山のビリケンギャラリーで、敬愛する漫画家逆柱いみりの個展があると知り、仕事をほったらかして行ってきた。
 好きな漫画家をひとりだけ挙げよ、言われたら、逆柱いみりと即答するぐらい好きなんだが、世間ではそれほど知られていないようだ。

 どんな作品を描いてるかというと、どれもストーリーはほぼないと断言してよく、主人公がひたすら迷宮のような世界を徘徊するという、ただそれだけの漫画である。徘徊するのは、和風とも東南アジア風とも、あるいは昭和レトロっぽいとも見世物小屋っぽいとも言える混沌世界で、見どころは、物語ではなく、この圧倒的な世界描写のほうなのである。

 レトロな混沌世界が舞台の漫画は少なくないけれど、逆柱いみりの漫画は、そこが舞台というより、そればっかり。それしかない。主人公の表情のアップみたいなコマさえも滅多になく、とにかく全コマ迷宮的風景がこれでもかこれでもかと続くのだ。

 私は、増築が繰り返されて迷路になったような古い旅館が好きで、そういう宿に泊まると、地球温暖化のこととか、国際社会のこととか、そのほか銀行預金残高のことなんかも全部どうでもよくなって、一時的に現実逃避できるのだが、逆柱いみりの漫画を読むと、それと同じ効果が得られる。
 実際、数年前、いろいろあって凹んでいたときも、『MaMaFuFu』と、『ケキャール社顛末記』(ともに、青林堂)を読んで立ち直ったぐらいだ。

 ギャラリーで見た逆柱いみりの絵には、まさに増築した旅館のような錯綜した廊下が執拗に描かれ、それがポップな色に塗られて、退廃的なんだか明るいんだか、意味不明の無国籍な味わいが爆発していた。絵は暗い調子なのに、原色で塗りまくるところが凄い。
 ますますファンになり、著者ご本人がおられたので、サインもらって帰ってきたのである。

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 今月に入って、単発の仕事がどかどか入ってきた。こんなことは珍しい。内容も、ジェットコースター、巨大仏、温泉、エビ・カニとバラエティ豊か、というか私の趣味を尊重してもらって大変ありがたいわけだが、この状況がひょっとしてアベノミクスというやつだろうか。ついに私の元にもアベノミクスがやってきたのか。
 昔に比べて単価が安く、仕事は3割増えるわりに収入は1割しか増えない、みたいな感じが気になるが、たぶんそれこそが、実はアベノミクスの正体なんじゃないだろうか。
        
 

2014年本の雑誌より

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