上海旅行記5

 バスを降りて歩いていると、大人のおもちゃの店を発見した。中国にこんな店が出来ているとは! 思わず入りそうになったが、やめておく。これこそ罠かもしれない。
 やがて外灘に到着し、一段高くなった遊歩道の向こうに、目指す東方明珠塔が見えた。わかっていたことだから、胸を突かれるような感動とか驚きはなかったけれど、期待にたがわぬ俗悪さ、チープさ、なまぬるさ、に笑いがこみあげるようだった。中国語ができれば、そのへんの人に「あのデザインをどう思いますか」と聞いてみたいところだ。
 観光客で混雑する歩道を抜け、一段上の遊歩道へ上がると、いきなり目の前に巨大な顔が、ぬっと現れておどろく。三階建ての家ぐらいの顔である。反射的に「カッコイイ!」と声を出していた。
 それは川に浮かんだ船に搭載された液晶の広告塔で、巨大な画面いっぱいにコマーシャルを流しながら、観光客の前を横切っていくところだった。まさに「ブレードランナー」の強力わかもとである。観光客たちは、写真を撮るのにたいそう邪魔がっていたけれど、私はむしろ、ポンポン銃と強力わかもとの相乗効果にクラクラした。出会いがしらの顔は、すぐに別の映像に変わってしまって、迫力は半減以下になってしまったけれど、そんな船を走らせる発想に拍手だ。
 旅慣れてくると人は、このように俗悪で、有名で、誰でも知っているような観光スポットに行くことを恥だと思うような境地に到達しがちだが、そんな考え方は窮屈だ。どうせ世界のどこへ行ったところで、テレビカメラの入ったことのない場所なんてありゃしないのだ。自分だけが個性的な旅をしているつもりになっている人は、恥ずかしい。それより、この有名観光地のなまぬるさを、なまぬるいままに味わうほうが、よほど愉快だと思うがどうだろう。年中が縁日のような観光地の包容力、そぞろ歩くだけでなんだか晴れがましい。
 川べりの柵には、観光客が多くもたれかかって、ぽんぽん銃を眺め、遊歩道沿いには、そこここでジュースだのポップコーンだのが売られている。おばさんが何かぶにょぶにょしたものを地面に叩きつけていて、何かと思えばスライム状のおもちゃだった。叩きつけられてべちゃっと広がったそれは、やがて自力でもとの丸い形に戻る。その奇妙な動きはチープでくだらなすぎて日本にも探せばありそうだけど、欲しくなった。

未完

ここまで書いたところで終わっている。消化不良で申し訳ない。続きを書こうにも、もうこの先のことをよく覚えていないのだった。 
  

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