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書けなかった迷路の話
以前、「建設の匠」というホームページで、迷路の連載をしていた。
『迷路は人生のインフラである』と題し、迷路的なスポットを旅してルポする連載だった。
今見るとページが見られなくなっており、もったいないのでそのうちどこかで個人的に復活させたいが、日本各地の迷路スポットを次々と踏破しながら、あるスポットを重点的に見て回ったら面白いんじゃないかと考えていた。
それは自動車教習所である。
自動車教習所のコースレイアウトには前々から惹かれていた。
まるで迷路みたいだと思うからだ。
思えば子供のころ、近所に交通公園があって、自転車で疑似信号や疑似横断歩道、疑似踏切の置かれた道を走り回って楽しんでいた。交通公園は子ども心をくすぐるものがあった。
大人になって、それを思い出し、自分はあの迷路っぽさに惹かれていたのだと再認識したとき、同じ匂いが自動車教習所にも感じられるんじゃないかと思いついた。
迷路の連載で使えるのでは?
そう考えてさっそく調べてみた。全国の自動車教習所を調べ、グーグルマップの航空写真で検証していく。
はじめのうちは素晴らしい思いつきに思えた。とくに迷路度の高い教習所があれば、そのコースを設計した人に話を聞きにいければ面白そうだ。あの疑似コースを作るときの設計の条件や秘訣、知られざる工夫などが聞けるのではあるまいか。
ということで、まずは片っ端から航空写真をキャプチャして、集めていった。
見続けるうちにだんだんわかってきたが、まず基本はだいたいこんな感じである。
周回コースの中に、交差点やクランク、S字のクランクのほか、上からはよくわからないが踏切や坂道なんかもあるのだろう。8の字に見えるのは、あれはバイク用だろうか。
場所によって、三角形の道路が敷かれているところもある(写真の下のほう)。
この写真では、バスが止まっている(走行中?)。厳しいV字コーナーの練習だろうか。
変則的な敷地の教習所はさらに面白い。こんなのとか。
ちょっとかわいいと思ってしまった。
立体交差をつくっていたり、
長い周回コースを走れたり、
幾何学模様がきれいだったり。
とりわけ、運転試験場のコースレイアウトは巨大で、しびれた。
これとか、
池があるなんて最高じゃないか。
と盛り上がったのは盛り上がったんだけど、その一方でだんだんわかってきたこともある。
それがつまり私がこの記事を書くのを断念した理由なのだが、よくよく見ると、どのコースもパーツはほぼ同じなのである。
どんなに変則的な敷地であっても、練習する内容が同じなのだから、コースレイアウトに含まれるパーツも同じであり、ただそれをどこにどう配置するかだけの違いなのだ。
正直もっともっと多様なコースを期待していた。迷路だと感じるためには、やはり複雑さが必要だが、多くの航空写真を見ているうちに、どれも同じに見えるようになってしまったのである。一見多様に見えるこれらの写真もじっくり見れば枠が違うだけで中身は同じだった。
私の自動車教習所熱は急激に冷めていった。
設計者に話を聞いても、突拍子もない話は出てこないだろう。
そうこうしているうちに「建設の匠」の連載も終わることになり、今ではそれまでに書いた他の記事も見られなくなっている。
花火のように一瞬で消えた迷路企画であった。
「建設の匠」では、もうひとつ狙っていたけど書けなかった企画がある。
その話もいずれしてみたい。