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戦中のカトリック神父暗殺をライフワークにされた佐々木宏人さん ―過去をふり返ることが将来に責任をとること
元毎日新聞の経済部長の佐々木宏人が23日晩に天国に旅立った。2019年8月18日にカトリック吉祥寺教会で、佐々木さんが講師の「戸田帯刀(たてわき)神父を偲ぶ追悼平和祈念ミサ」に出席した。佐々木さんは、2018年『封印された殉教〈上・下〉』(フリープレス)を著わし、終戦から3日後の1945年8月18日に何者かによって射殺された戸田カトリック横浜教区長のリベラルで、平和を求めた生き方を長年にわたるインタビューや膨大な資料を駆使して紹介した。戸田神父は太平洋戦争開戦後に「英米は強国」と発言して特高警察に逮捕されたり、終戦の翌日に海軍桜隊に教区長館の返還を求めたりした。佐々木さんは著書の中で戸田神父の非業の死を検証してこなかったカトリック教会に、歴史や、戦前・戦中の時代に真剣に取り組むことの必要を訴えたが、19年8月のミサの話の中でも「過去をふり返ることが将来に責任をとること」と話されていた。荒唐無稽な歴史修正主義がはびこる中で佐々木さんが一貫して訴えるところの意味は重たかった。
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佐々木宏人さんの『封印された殉教』は、終戦の3日後に何者かに射殺された戸田帯刀神父の半生を綴りながら昭和20年までの激動の歴史を追っている。インタビューや読み込んだ資料も実に豊富で、まさにライフワーク的な力作、労作だった。戦中に受難した神父の死を検証しようとしてこなかった日本のカトリック教界に、その歴史や時代に真剣に取り組むように訴えたは、普遍的な重要な意味をもつものであり、荒唐無稽な歴史修正主義がはびこる中で、カトリックだけでなく、キナ臭い現代に生きる日本人全体に向けられた主張、アピールのように思われた。
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学生時代に観た筑紫哲也氏の「こちらデスク」という番組の中で戦中の言論弾圧事件である横浜事件で拷問を行った特高警察官は、戦後30年余り経って事件の被告たちに会うと、「当時の時代状況の中で仕方なかった」と語っていた。ある元被告は、日本はドイツのナチス狩りのように過去の責任を厳しく問うことがないことが残念だと語っていたことを佐々木さんの著書に接して思い出した。わたしたちは戦前、戦中の負の歴史を知り反省するとともに、若い世代に正確な歴史を伝え、記憶してもらう責任がある。その意味で戦中の生き残った人々に多数のインタビューを試みた佐々木さんの業績は貴重だった。
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佐々木さんは当方主催の中東イスラム・シンポジウム、イラン映画の上映会、ベリーダンスやオリエンタル音楽の鑑賞などのイベントに実に良く参加してくださった。米軍のドローン攻撃によって自身が負傷して、祖母が殺害されたパキスタンの少女のシンポジウムにも2015年に参加してくださった。その参加した際の感想を佐々木さんは下のように、フェイスブックに書き込んでくださった。正義感が強く、知的好奇心が旺盛で、バイタリティがあって、優しく思いやりがあった佐々木さんにはまだまだ元気で、政治や社会への警鐘を鳴らしてほしかった。ご冥福をお祈りします。
元毎日新聞経済部長・佐々木宏人氏のシンポジウムに関する感想
「日本は平和です。ワシントンも平和でした。でも私たちの町の空にはドローンの飛ぶ音が聞こえる。なぜ戦争をするの、私たちは教育を受けたい。でもドローンが妨げている。なぜ戦争のお金を教育に使わないの!」
今日、都内のホテルでイスラム学者の宮田律先生の主宰する現代イスラム研究センターが開いたフォーラム。パキスタンの北部の数百の部族が混在する地域、イスラム原理主義のタリバンが部族の対立をあおり、勢力を伸ばしている。
そこに登場するのが米軍の無人爆撃機ドローン、その攻撃で多くの民間人も巻き込まれ、当時8才のナビラ・レフマンさんは祖母と一緒にオクラ摘みをやっていて、目の前で祖母がドローンからの攻撃を受けて無残な死を遂げた。
現地スパイの情報で学校での集会がタリバンの会議とされて、爆撃を受けて80人もの小学生が死んだケースもあるという。同行したパキスタンの人権派弁護士、アクバル氏は明確な主権侵害、国際法に違反する行為と指摘する。国際的な非難の世論を作っていかないといけないーと力説していた。
パリのテロ、シリアの空爆、欧州への難民、そしてパキスタン、アフガニスタンのイスラム原理主義のタリバンへの攻撃、なにか世界はすでに第三次世界大戦に突入しているかのようだ。
その中で「平和をもたらすものは教育にしかない」という今11才のナビラさんのつぶらな瞳で訴える声は、切実だ。
日本の子供達に聞かせてあげたかった。女性の識字率3%という彼女の住む地域だけに、教育の重要性が本当に身に沁みて分かるのだろう。
本当に勉強になった。日本のやれることはまだまだある。本当に戦争の根っ子を無くすために取り組まなくてはいけないことを、ナビラさんに教えてもらった。
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