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コピーライターとデザイナーの理想の関係とは?『田中一光とデザインの前後左右』

コピーライターという仕事がよくわからなかった。一方でアートディレクターという人もよくわからなかった。そんなぼくにその秘密を教えてくれたのは、コピーライターの小池一子さんとデザイナーの田中一光さんとのやりとりを知ったときだ。

二人は西武やパルコ、いわゆるセゾングループのクリエイティブを支え、そして、「無印良品」を生み出したレジェンドだ。消費社会へのアンチテーゼとして無印良品の思想を作り上げたのがこの二人だった。

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この二人のやりとりで、とても刺激的なエピソードがある。

『田中一光とデザインの前後左右』という書籍に小池一子さんが寄せた短い文章に書かれている。このエピソードを数年前に読んでから、ずっと頭から離れなかった。

コピーライターとデザイナー/アートディレクターという関係性がわかるエピソードだ。

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ある日、田中一光さんの青山のデザイン室に呼ばれた小池さん。「モリサワ」という写植/フォントの会社のポスター制作の相談だった。机の上に広げられていたのは、漢字が一文字ずつ書かれたたくさんの紙切れ。

漢字をこういう風に置いていきたいんだけど、どうかな」と一光さん。それは、横8列、縦10行で、漢字を並べる、というアイデアだった。写植を扱う会社にとって、漢字のフォントが際立つアイデアに、小池さんは「漢字のグラフィックで遊ぼう」と誘われている、と思ったそうだ。

そこからがすごい。8×10の80文字の漢字をランダムに並べていくのだが、一光さんから、「じゃあ、最初は"一"で、最後は"十"」と制限を作られる。小池さんは「えっ、その間の字を選ぶ理由を見つけなきゃ」と戸惑う。しかも「和英併記」がいいという要望。コピーライター小池一子のクリエイティブが刺激される。

この難しいお題に、小池さんはすかさず「英語のしりとりにしましょ」と返す。つまり、One(一)からEar(耳)のように、アルファベットでつないでいく。制限に対して、さらに新たな制限を課すことで応答する。

ほんの些細な会話のやり取りの中に、田中一光と小池一子のクリエイティブな"組み手"が垣間見える。

この難題に小池さんは四苦八苦する。英語はしりとりルールで簡単に選べても、その漢字が美しいものか、かぶらないものか、和訳が漢字一文字で伝わるかなど、悩みはつきない。

しかし、田中一光は「迅速を美徳」とするらしい。どれだけ考えたのかと思ったら、小池さんは翌日仕上げて、持参したらしい。(このスピード感がおそろしい)

そこで生まれたのがこのポスター。左上の「一」から右下の「十」へ。漢字に英語が添えられ、しりとりになっている。シンプルなものから画数の多いものまで、柔らかいものからほの暗いものまで、具体的なものから抽象的なものまで、80文字が並ぶ、

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一文字ずつに色が添えられ、写植・フォントが際立つ。そして、最後に田中一光の味付けが最高にかっこいい。その隠し味に気づいただろうか?

左下の「東」「西」という漢字が一つの色で結ばれているのだ。80文字でつながっているのはこの文字だけ。小池さんはこんなアウトプットになるとは思っていなかったため、偶然の産物らしいのだが、田中一光はその中からこの二文字を見逃さなかった。

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漢字/英語併記の「東西」、英語フォントと日本語フォントをつなぐ「東西」、歌舞伎の掛け声で使われる「東西」、様々な意味がたった一つのアクセントで表出する。小池一子の言葉のクリエイティブに、デザイナーとしての最高の応答。

最初は田中一光さんのアイデアから始まった。そのときどこまで想像していたかはわからない。制限するルールを伝えつつも、相手が考える余地も残す。さらに、その難題に「しりとり」でこたえる小池一子。そして、一晩で仕上げるプロの技術。最後に、デザイナーの遊び心。

これがコピーライターとデザイナーの究極のやりとりだと思った。感想や批評ではなく、常に新しいアイデアで前進する。空手家が組み手で相手の力量を最大限引き出すように、お互いが呼応し、「クリエイティブ」と呼ばれるものを生み出していく。

こんなやりとりをしたいから、ものづくりはやめられないなあ、とつくづく思う。

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