吾輩は、ACである。特に問題は無い。㉕
★小説★霊感商法のカモ・カモ子(18)が街で釣られて、謎の研修会に参加するまでのお話。
この小説は「カモ子が霊感商法のカモになるまでの流れ」を俯瞰するために読むという目的があるので、前回の設定を読んでから、今回の内容を読んでください。よろしくお願いします。
*追記:設定を、このお話を読んだ後に読んでみてもいいのかもしれないです。
(注意事項)霊感商法、自己啓発セミナーへの勧誘などの表現を見ると耐えられないという方は、ここで読むのをやめてください。
***
ツリ姉(ねえ)に出会ったのは、駅前の商店街を歩いてる時だった。その日は雨で、あたしはバイト先のそば屋から帰る途中で、傘が無くて。
「お姉さん、びしょ濡れじゃない! 傘、貸してあげる!」
そう言って、水色の傘をさしかけてくれたのが、ツリ姉だった。
あたしは思わず「いいです」と断ったんだ。いきなり知らない人から話しかけられて、驚いたから。
だけどツリ姉は「私、車で来てるからいいの。さ、どうぞ!」って、私の手に傘の持ち手を握らせて、走り去ってしまった。
変な人だな、というのが、ツリ姉の第一印象だった。
それから、三日後かな。駅前の商店街で、バインダーの書類に何か書きこんでいる男女がいて。二人は色んな人に声をかけていて、「いいです」って感じで断られていた。
そのうちの一人を見てあたしは、叫んだんだ。
「お姉さん! この前は傘、ありがとうございました!」って。
「わあ、この前のお姉さん! 私の事、覚えててくれたの? あなたって、今の世の中ではめずらしい、温かい心の持ち主ね。私、あなたに出会えた事は、グレートマザーのお導きだと思うの……ごめんなさい、私、泣き虫で……」
あたしの手を握りながら涙するツリ姉を見て、あたしまで泣いちゃったよ。大げさな人だな、でもいい人。あたしはツリ姉の事を、そんな風に思ったんだ。
それから、半年。
あたしは、ツリ姉が働いている「あじさい」で、たまに、子供たちの食事を作るボランティアをしている。あじさいっていうのは、地域の子供の居場所の事だよ。
ある日、ツリ姉がこんな事を言ったんだ。それは「カモ子ちゃんも、正式なスタッフとして働いてみない?」という話だった。
あたしは、ここのスタッフみたいにはなれないと思って、ツリ姉の誘いを断ったんだ。
「あたし、高卒だし、頭悪いし。子供に勉強教える事もできないし。それに、あたし自体が困ってて、ここでご飯作るのだって、自分の食費が浮くと思ってやってる。そんなあたしが、人助けなんかできないよ。ごめん」って。
ツリ姉、さみしそうな顔してたんだ。それを見たら、あたしは辛くて。でも、スタッフなんかできっこないって思った。
そしたら、その日の真夜中。あじさいで仲良くなった友達の「ミア」と二人でドライブしてたんだけど、その時ミアが、スタッフ研修に一緒に行こうって誘ってきて。あたしそれ聞いて、すごく驚いちゃって。言ってはいけない事を思わず言っちゃったんだ。
え、あんたみたいな女でもスタッフになれるのとかあたし言っちゃって、ミアと少し喧嘩したんだけど、ミアなんかに負けたくないとか思っちゃって。結局、ミアと一緒に研修受ける事になっちゃった。
ミアは、あじさいのスタッフの田中さんっていう、イケメンのお兄さんに誘われたらしい。ほんと、ミアはイケメンに弱いよね。
***
ここまでのお話の中に、おっとこれは怪しいぞ、というポイントがいくつかあるんですが、読者の皆様はお気づきですか。良かったら、探してみてください。
今日のお話は、ここでおしまい。続きはまた、次回という事で。
読んで下さって、ありがとうございます。それでは皆様、良い週末の夜をお過ごしください。
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