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『劇場版 其ノ灯、暮ラシ』

MOROHAのツアーを追いかけるエリザベス宮地監督が、自分の話やライブのお客さんを交えながら撮り上げたドキュメンタリー。
MOROHA密着ツアーを伝えつつ、宮地監督自身を含めたそれに関わる人々の人生ドキュメントにもなっています。

MOROHAは、まぶしすぎる。
私にはまぶしすぎる。
映画の中で、「MOROHAはホントのことしか言ってない」と話すファンの男の子がいる。それはとても正しいと思う。彼らは全部ホントのことしか言ってない。
こんなに真っ正面からホントのことだけを臆面なくド直球で投げられて、すごく戸惑う。恥ずかしくなる。照れ笑いで隠れたくなる。
彼らの叫びは上段から見下ろす言葉じゃなくて、彼ら自身にも向けられていることが分かるから、よくもそんなふうに戦えるなあと、見ていて苦しくなる。決して「教祖様」ではない。
そしてそんなMOROHAの音楽に呼応するように、彼らの周囲に集まってくる人たちもまた正直だ。

この映画は、「地に足をつけている人たちのお話」。もしくは、地に足をつけようともがいている最中の人たちの物語。私にはそんなふうに見える。
ここに出てくる人たちは、みんな真っ直ぐで、MOROHAの音楽と同様にまぶしい。でも、私も地に足をつけて暮らしたい。

昔は、暴力的なまでに激しいものや刺激的なもの、わけの分からない実体のないものに心惹かれた。平凡で地道なことは、ひどくつまらないことだと思っていた。今はもう、そういうのには、まったく魅力を感じなくなってしまった。年をとったせいかもしれない。
それでも、いつでも新しくありたいし、いつも次へと進んでいきたい。あきらめて過ごすことと、足元を見てしっかりと暮らすのとは違う。
私が目指すのは「地に足をつけながら浮かれてる人」。ただ単に「浮かれてる人」にはなりたくない。すごくカッコいいことだと思う。そういう人に憧れている。

でも、まだまだ自分は浮かれているだけの人にすぎないような気がする。面倒でイヤなことからは目を背け、ウキウキすることだけを視界に入れて、地面から10センチ浮いたところでふわふわ生きているような気がする。
この映画は、全体的にまぶしい。ここに出てくる人たちは、きちんと根を張って生活しているように見えたから。笑ったり泣いたりしながらも、自分の日々の暮らしを真面目に営もうとしているように見えたから。それはとても素敵なことだ。

この映画にも出てくる、宮地監督が制作したMOROHAの『バラ色の日々』。自分と元彼女とのプライベートな時間を収めたMVである。
それについてMOROHAのギタリスト・UKさんが「自分の大切な人と共有する二人だけの時間を人目にさらすなんて、普通できない」と語るシーンがある。そしてこの映画には、MV完成後の彼女と宮地監督の関係も描かれている。
このMVをこつこつ編集している時の宮地監督をあらためて想像した。「特別なプライベートを作品にしたスゴさ」よりも、過去の彼女の笑顔と向き合い、今はもう失ってしまったものの大切さを思い知る痛みを選んだスゴさ。その力は並大抵じゃないと思う。だから、その後の二人のシーンも泣いてしまう。私は別れたら速攻でアドレスを抹消するタイプであるにも関わらず、宮地監督の頑張りに泣いてしまった。他にも何回か泣いたけど。

それからつい最近、この映画に出てくるある状況と同じことが偶然、自分の身に起きた。細かい状況も酷似していて、そこに重ねて強い思いに駆られてしまう。
ひとつひとつのカット、一枚一枚のスチール写真の間にあるもの。カットとカットの間にも、実際は流れているはずの時間。そこにあるはずの人々の思い。そういうものが全部見えてしまった。
それはあくまで私が過ごした時間であり、宮地監督が過ごした時間ではないのだけど、映っていない時間のことまで想像して胸が締め付けられた。作品として残してくれてありがとう、という気持ち。
映画は終わっても物語は続いているし、彼らは今日も生活していると思う。MOROHAも歌っていると思う。私の日々も続いている。

真正面から切り込んでくるMOROHAの音楽に乗せて、描かれるすべての人がまぶしいし、すべての人が愛おしい。なんかね、わからんけど頑張ろう!って思える映画でした。

***
おまけ

最後に、あえて映画とは関係ないMOROHAのMVをひとつ貼ります。コレ、初めて昨夜見たのだけど、よかったです。MOROHAのMVは全部エリザベス宮地監督かと思ってて、感動しつつよく見たら、監督は松居大悟さんでした。笑
でもMOROHAって、まさにこんな感じ。こっ恥ずかしい人たちなのに、無関係な通りすがりまで戦いに巻き込んで迫ってくる人たちだと思う。いつのまにかすり替わって、歌わされてる感じ。
だからみんな巻き込まれて、こんなドキュメンタリーができたんだと思うよ。泣いちゃう。



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miyabi yamaguchi
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