【連載企画】みやざき考福論 第3部
夫婦や家族、地域…。暮らしはいろいろな結び付きで成り立っている。人々に幸せをもたらす、さまざまな形のつながりを見詰める。
このコンテンツは2017年の年間企画として、宮崎日日新聞社・本紙1面に2017年1月1日~10月1日(第3部・5月21日~6月4日)まで掲載されました。登場される方の団体・職業・年齢等は掲載時のものです。ご了承ください。
第3部~つながりのカタチ~
1.里親(上)
わが子同様愛情注ぐ/「どんな境遇でも前へ」
机の上で組んだ両腕に力なく顔を乗せ、白目でぐっとにらみ付けてくる4歳女児と1歳の弟。「幼い子どもとは思えない目に、鳥肌が立つほどぞっとした」。県里親連合会会長の本山浩平さん(74)=国富町岩知野=は、最初の面会で目にした29年前の光景を今もはっきりと覚えている。
実の両親から虐待され児童養護施設に預けられていたきょうだいを、本山さんと妻智恵さん(80)は家庭に迎え入れた。わが子と変わらぬ愛情を注ぎ、実子の4人も親子ほど年の離れた2人をかわいがった。それでも、白目がなくなるまでには3年かかった。
最初の1年が過ぎ、5歳になった姉が何か言いたそうにしている様子に気付いた本山さんは「おじちゃん、おばちゃんにできることは何でもしてあげるから、心配せんで言ってごらん」と促した。ためらった末にようやく口を開いた姉は、小さな声でぼそぼそと言った。「お父さん、お母さんと呼んでいいですか」
本山さんは今も、このときのことを思い出すと涙が込み上げてくる。「ずっと呼びたかったんじゃろなあ。なんで気付いてやれんかったんかな」。小さな体を抱きしめたまま、離すことができなかった。
◇ ◇
保護者がいなかったり虐待を受けていたりして、親と暮らせない社会的養護が必要な児童らを受け入れる里親制度。里親普及促進センターみやざき(宮崎市)の坂元貢センター長は「特定の大人との愛着関係の中で子どもは自己肯定感を育み、基本的信頼感を獲得できる」と意義を語る。
同センターによると、県内で里親登録しているのは123世帯で、うち41世帯で51人の子どもが生活している(昨年11月1日時点)。ただ、昨年3月末時点の里親等委託率は13・1%(全国平均17・5%)にとどまり、児童養護施設などが9割近くを占める。「子どもを取られる気がする」といった思いから、里親家庭ではなく施設での養育を望む親も少なくないという。
◇ ◇
少年時代からいじめられっ子を助けるようなガキ大将で、責任感が強かった本山さん。「どんな境遇に立たされても前向きに進むことのできる徳を子どもに残してやるのが親の務め」との強い信念から、里子の受け入れに手を挙げた。「困っている子どもに手を差し伸べる里親が増えてくれたらありがたい」と願う。
きょうだいは成人と同時に養子縁組して戸籍上も本山家の家族になり、それぞれ結婚して家庭を持った。わが子同様に育ててくれた本山さん夫妻へ感謝の思いを抱き続けている。
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