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【連載企画】青島観"考"

 本県を代表する観光地である宮崎市青島。最近、地元有志によるイベント開催や行政による整備が進み、観光再生への流れが生まれつつある。この動きを捉え、年間を通じて青島を考える連載を展開する。
※このコンテンツは、2014年8月1日~2015年3月29日まで宮崎日日新聞社・県央版に掲載されたものです。登場される方の職業・年齢等は掲載当時のものです。ご了承ください。


第1部は、青島を訪れた人を対象に宮崎日日新聞社が行ったアンケートを分析し、現状をつかむ。

第1部・アンケートから

■「自然・景観」に好印象
 アンケートは7月20日、100人(男性50人、女性50人)を対象に実施。市政担当記者4人が、青島参道商店街(調査人数12人)、青島海水浴場(同34人)、県立青島亜熱帯植物園(同10人)、ANAホリデイ・インリゾート宮崎(同44人)に分かれて聞き取りを行った。
 青島の良かった点(複数回答可)で、最多は「美しい自然・景観」と「南国らしい雰囲気」でいずれも55人。続いて「青島神社」18人、「その他」15人など。具体的には、「トゥクトゥクに乗って南国気分が味わえた。鬼の洗濯板も今までに見たことがない風景」(大阪府の40代女性)、「島と陸が一本の道でつながっている神社はほかにない。何度でも訪れたい」(鹿児島県の20代女性)と、青島ならではの自然や雰囲気が好印象であることが分かった。

「駐車環境」改善望む
 一方、青島の悪かった点(複数回答可)を聞いたところ、最多は「特になし」の37人。「駐車環境」の24人、「その他」の18人が続いた。「子ども連れだと荷物が多くなるので、広々とした駐車場が欲しい」(宮崎市の30代男性)、「夜食事できる場所や遊べる場所が欲しい」(鹿児島県の40代男性)、「せっかくイベントがあっても実施後にニュースで知ることが多い。告知をしっかりしてほしい」(都城市の20代女性)といった要望があった。
 訪れた目的は、「観光」が45人で最も多く、「海水浴」が39人、「その他」(結婚式やたまたま立ち寄ったなど)が8人、「サーフィン」が6人で続いた。「また来たいか」という問いへの回答は、「ぜひ来たい」が64人、「機会があれば来たい」が36人。「来たくない」と答えた人はおらず、満足度が高いことが分かった。
 また、青島を訪れた回数について、「複数回ある」と答えたのは73人と、4分の3近くに上り、うち「10回以上」は23人いた。一方で、「初めて」の人も25人いた。

 宮崎大教育文化学部の根岸裕孝准教授(経済政策・地域経済)は「海を中心とした自然や景観といった夏の青島が持つ魅力が、観光客に強くアピールできていることが分かる。リピーターも多く、海水浴やサーフィンなどを目的とした根強い青島ファンがいる」と分析。その上で、「今回のアンケートは夏のハイシーズンに実施されたもので、対象者は青島の自然を満喫できた人が多い。海水浴など海のレジャーができない時期に同じ結果が出るとは限らず、同様のアンケートを冬場に実施することも必要だろう」と指摘した。
 居住地は、「宮崎県以外の九州」が最も多く48人。次いで「宮崎市」21人▽「宮崎市外の県内」20人▽「九州外」11人だった。年代は10代2人▽20代26人▽30代33人▽40代22人▽50代9人▽60代6人▽70代以上2人-だった。

遊びや休憩の場要望
 「青島にどのようなものが加われば、より魅力的な観光地になると思うか」(複数回答可)で、最も多かったのは「子どもたちや家族が青島の自然と触れ合える遊び場や休憩スペース」の36人。「海だけでなく、プールや道の駅のような場所もあるといい」(鹿児島県の40代男性)、「日よけスペースや椅子が欲しい」(大阪府の20代男性)などの要望があった。次に多かったのは「気軽に青島に立ち寄れる無料駐車場スペースの充実」は33人。「ちょっと寄りたいという時に500円の駐車料金は高い」(鹿児島県の40代女性)という声があった。
 「その他」(19人)では「シャワーやコインロッカー、トイレが不足」(福岡県の20代女性)などの意見。「地元の素材を使った飲食施設」を求める人も15人おり、「宮崎ならではのものが食べたかった」(大阪府の30代男性)といった内容があった。

 交通手段は「自家用車」が84人とダントツ。「レンタカー」9人が続き、県内、県外にかかわらず、観光客にとって、青島は車で訪れる場所になっていることが分かった。
 宮崎大教育文化学部の根岸裕孝准教授(地域経済)は「十分な駐車スペースを前提に、特産品を買ったり味わったりでき、青島の情報発信の拠点となる施設が求められているのだろう」と考察。「交通手段に見るように、車社会を基調にした空間をつくることが必要。海のレジャーに来た人を、青島の文化や食に触れさせる仕掛けができたとき、青島の通年の魅力が出てくるのではないか」と話す。
 「誰と来たか」で最も多かったのは「家族」66人。「ビーチが遠浅で小さい子どもも遊ばせやすい」(小林市の50代男性、大分県の40代女性、新潟県の50代男性)のように、家族で来る海水浴場として好適地と受け止められていることが分かった。「友人」17人、「恋人」14人が続いた。
 「青島にどのようなイメージを抱いて来たか」(複数回答可)で多かったのは「リゾート」42人、「マリンスポーツ」37人。海の印象が強いことを裏付ける結果となった。一方で「神秘的」と答えた人は12人にとどまり、神話や伝説をPRしていながらも、海ほどは強くアピールできていないことが分かった。

印象良いは9割近く
 「訪れてみての印象」は「とても良い」と「良い」が合わせて9割近くに上った。「あまり良くない」は2人で、「神秘性を求めて来たが、約30年前に来たときと比べて商売につなげる感じがして残念だった」(兵庫県の40代男性)という意見があった。
 「何を見て青島に来たか」は「特になし」が最も多く40人。「雑誌」27人、「SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)」15人、「口コミ」12人が続いた。
 「青島でいくらぐらい使ったか」については、「千~5千円」が最も多く31人で、「昼食におにぎりを持って来て家族で食べる」(都城市の60代女性)のように、気軽に出掛けられる身近な行楽地として位置づけられているようだ。「1万~5万円」28人、「5万円以上」19人、「5千~1万円」14人が続いた。アンケート対象者100人中、44人はホテルで取ったもので、支出の内訳としては、宿泊代が多いとみられる。

 宮崎日日新聞社が行った100人アンケートでは、青島を訪れた人が感じている青島の魅力や求めているもの、改善すべき課題が明らかになった。青島の活性化に取り組む行政や団体の代表、観光関係者ら6人に、アンケート結果の感想と、結果を受けて今後取り組みたいことを語ってもらった。

■催しの独自色強化
 青島再勢プロジェクト会長 長友安隆さん(38

 良かった点で、イベントを挙げた人はいなかった。この時期は県内どこでもイベントが行われており、今後は青島の独自色を出し、差別化する必要を感じた。飲食店の案内を工夫、夜も楽しめるような演出を仕掛けて、通過型の観光ではなく、滞在を促すような取り組みをしたい。

■魅力をさらにPR
 青島ビーチセンター「渚の交番」センター長 藤田和人さん(38)
 青島に持つイメージで、「神秘的」や「縁結び」が予想より少なかった。神話や伝説などの魅力を伝えきれていない。フェイスブックに加え、メディアに取り上げてもらえるようアクションを起こし、いろいろな機会を捉えPRしたい。

■「ロコモ」事業に力
 青島観光六社会会長 冨森信作さん(55)
 九州外からの来客が少ない。全国に青島をPRするため、今後「ロコモリゾート」事業に取り組みたい。加齢などで足腰の機能が低下する症状「ロコモティブシンドローム」を予防、改善する滞在型のリゾートプログラムを作り、温泉、青島パークゴルフ場なども活用した集客を目指す。

■土産や食事で工夫
 青島参道商店街会長 杉田和義さん(59)

 使ったお金は千~5千円が一番多い。増やしてもらうには独自色のある土産や食事を提供する必要がある。まずは青島漁港の「ハモちゃんバーガー」が参道でも食べられるようになるといい。毎月第2土曜日に開く青島街市に、もっと地元の出店者が増えると来場者も喜ぶだろう。

通年の集客施設を
 宮崎市観光協会会長 菊池克賴さん(63)

 PRが十分と言えない中、リピーターが多く驚いた。20~40代も多く、青島はマリンスポーツというイメージが強いようだ。夏場は好印象だが、それ以外の季節は家族連れや年配の方でも楽しめる施設が求められる。水族館などがあると年間を通して足を運んでもらえるのではないか。

■駐車場整備が必要
 宮崎市長 戸敷正さん(61)
 車で訪れる人が8割を超え、駐車環境へのマイナス意見が多い。神社や海水浴場の近くに車を止めたいという客が多く、周辺駐車場の整備を進めなければならない。土産品の満足度も低い。宮崎らしい商品を増やし、もてなしを手厚くすることが経済効果を生み出すのではないか。

■記者提言「まずあるもの生かせ」
 母の実家がこどものくにの近くにあったこともあり、子どものころは、家族でこどものくにや青島海水浴場によく出掛けた。大勢の人でにぎわっていたのを覚えている。アンケートを行った7月20日、その20年前の記憶と変わらないあまりの人の多さに驚いた。「今までに見たことがない風景」という声があったように満足度も高く、久しく言われている青島観光の落ち込みを不思議に思ったほどだった。
 一方で、詳しく話を聞いて感じたのは「もったいない」ということ。例えば、「商店街の店が閉まっていて夕食を食べるところがなく、結局ファミリーレストランに行った」「面白いイベントを開いてほしい」というような声だ。
 商店街から少し歩けば夜営業している飲食店はけっこうあるし、この夏もイベントは盛りだくさん。県外客でも分かる案内板や案内人がいたり、イベントをしっかり告知したりすることができれば、取り込める観光客がいるということの表れだ。青島が持つ独自の景観・雰囲気を含め、あるものを生かさない手はない。
 要望の多かった「駐車環境」や「遊び場や休憩スペース」の整備には大いに議論があるべきだし、実現には時間やお金もかかる。だが、先ほど挙げたもののように、お金や時間をそれほどかけずにできるものもある。できるものから着実に取り組むことが必要だろう。
 アンケートである程度の課題は見えてきた。あとはそれをどう改善・解決し、アピールするか。今後展開する連載を通し、ともに考えていきたい。


第2部・胎動

 青島観光再生に向け、イベントやハード面整備など新しい動きが生まれている。胎動する青島の今を捉える。

■「若い力」魅力発信へ企画次々
 宮崎市青島は「海を渡る祭礼」や「みやざき青島国際ビールまつり」、「青島神社裸まいり」など年間を通じ、さまざまなイベントや祭りが開かれる。最近、そこに地元の若者らによる新たな試みが加わっている。
 その一つが8月25日から30日まで開かれる「青島トゥクトゥク食べ飲みデイズ」。三輪タクシー「トゥクトゥク」に乗り青島の飲食店を回れるイベントで、各店舗では割引価格での飲食物の提供や限定メニューの販売などがある。
 企画したのは、同市青島2丁目の会社代表、伊藤智彦さん(32)。26日から木崎浜海岸で開かれる全日本サーフィン選手権大会に合わせて、来県するサーファーらを青島の飲食店に呼び込もうと初めて企画した。
 高校生のころにサーフィンを始めた伊藤さん。海と人々の暮らしが一体となっている青島の魅力にひかれ、8年前に移住した。「おいしいお店も楽しいイベントも、体験型のアクティビティーもあるのにお金を落としてもらう仕組みがない」と伊藤さん。イベントを通して「青島の良さを知ってもらい、また来てもらいたい」と意気込みを語る。

25日から開くイベントに向け話し合う伊藤さん
(右から2人目)ら             

 今年新たに生まれたイベントは他にもある。旧青島橘ホテル跡地の折生迫広場を活用し3月からスタートした朝市「青島街市」は、住民や商店主らの若手が中心となり、実行委員会を結成。5月からは第2土曜日に開催している(8月は台風のため中止)。
 同市青島1丁目の自営業、福島麻紀さん(42)はこれまで2回、雑貨などを集めたハンドメードマートを開いた。「青島に来るきっかけをつくりたい」と、移住者らに出店してもらい、手作りのアクセサリー販売やマッサージの体験コーナーを設け、住民と移住者の交流にもつながっているという。
 若い人々が中心となり、自らの力で運営するイベントが広がりを見せる一方で、伊藤さんは「今は主催者それぞれが情報発信している状態で、目的がどこまで達成されたかも分かりにくい」と問題点も指摘。「イベントやお店など青島の情報を網羅した発信の在り方、告知の方法を探り、青島の魅力を一体となって伝えていかなければならない」と、今後の課題を話す。

■「行政の動き」ハード面整備に着手
 マリンスポーツや神社参拝などを目的に、年間約80万人の観光客が訪れる青島。最大の魅力ともいえる自然景観を武器に、宮崎市はハード面の整備に力を入れ始めている。
 市は2007年度、青島地区のにぎわいを取り戻すため「青島地域活性化基本計画」を策定、ハード、ソフトの両面から各種事業を盛り込んだ。これに基づき、整備した青島参道南広場=同市青島2丁目=が今月オープン。同計画のハード面での初の目玉事業だ。無料駐車場やトイレ、芝生広場を設け、地元の祭りやイベントで広く利用される。広場からは海岸を一望でき、市観光課は「地元住民や観光客が気軽に立ち寄り、青島の魅力を実感できる場所」と位置づける。
 県も今秋から、老朽化が進んだ青島亜熱帯植物園の大温室を改修する。1965(昭和40)年の開園当初は年間約14万人が訪れていたが、近年は約10万人前後で推移しており、県都市計画課は「南広場でのイベントに合わせて植物園でも園芸教室などを開き、集客につなげたい」と話す。
 徐々に整備が進みつつあるが、「基本計画に盛り込まれた事業はほとんど進展していない。策定時期と今のニーズが合わなくなってきており、今後計画を見直す必要性がある」と市観光課。本年度、同計画の検証作業に入る。

宮崎市が整備し、今月オープンした青島参道南広場。
16日には地元の祭りが開催された        

 同計画には参道の景観改善、シーフード・レストランや足湯の整備などが含まれるが、未着手のまま。策定後の約7年間で同課は青島整備費として約1億8千万円を予算計上、このうち同南広場の整備費が約1億900万円。これまで観光案内板の設置や植栽などにとどまっていた。
 現在、一時的に駐車場として利用されている旧青島橘ホテル跡地の利活用も課題だ。市は活用方法を検討中で、具体案は固まっていない。無料駐車場の要望も多いが、時期的な変動がある。市観光協会の菊池克賴会長は「駐車場や宿泊施設を整備しても観光施設に魅力がなければ集客は難しい」と指摘する。地元の食材を堪能できる飲食店や水族館など、じっくりと楽しめる環境を求める声も多い。
 また昨年4月に閉館した青島観光ホテルは、競売入札で買い手が現れなかった。戸敷正市長は「今のままでは魅力を感じてもらえない」としながらも、「旧青島橘ホテル跡地の活用次第によって、青島観光ホテルにも動きが出るのでは」と期待を見せる。
 ハード面の整備を着実に進め、官民が連動したソフト面の充実が誘客やリピーターの獲得につながる。

■「参道商店街」新規開店で盛り上げ
 青島参道商店街にも新しい動きが生まれている。昨年4月、商店街入り口にカフェバー「ろぎ茶屋」(興梠洋平店主)、今年5月には商店街の中ほどにカフェ「ストランドカフェ」(富田靖生オーナー)がオープンした。
 興梠さん(31)は「店の少ない街に魅力はない。活気ある商店街になるため少しでも力になれたら」、富田さん(40)は「商店街を盛り上げたい。訪れた人がゆっくりくつろげる場所を作りたかった」と熱い。興梠さんは青島ビーチセンター(渚の交番)でライフセーバーとして働いていた経歴を持ち、富田さんは趣味のトライアスロンの練習のため頻繁に青島を訪れていた。いずれも青島を愛する若手経営者だ。
 興梠さんは青島街市など新しいイベントに、「人の集まる催しが増えてうれしい。協力していきたい」と好意的。富田さんは今月完成した参道南広場=宮崎市青島2丁目=について、「集客できる環境が整ってきた。広場から青島と商店街を回遊できる道も整備してほしい」と行政の次の展開に期待を寄せる。

夏休み期間中は家族連れなど大勢の人でにぎわう
青島参道商店街               

 観光再生へ向けた明るい兆しがある一方、商店街を見渡すと老朽化した店が目立ち、店頭には青島を象徴するような魅力的な土産物は少ないとの声も聞かれる。店主が高齢になるなどして約30店舗あるうち約2割は空き店舗のまま。「改装は考えていない」「現状を維持できればいい」など、経営に消極的な意見も多い。「新規に開店したいという人が年に10人ほど商店街を訪れる」(ある店主)というが、休業している店の敷地内に店主が居住しているなどの理由で、新店舗の開店に至らないのが現状だ。
 商店街の一角である旧青島橘ホテル跡地では3月から青島街市を開催。跡地を所有する折生迫財産区の椎芳弘議長は「今の商店街は時代のニーズに合っていない。美観や空き店舗の解消など、法律や条例の整備、行政の指導が不可欠。地元任せにしていては状況は好転しない」と話す。
 もちろん、自助努力も必要だ。富田さんは「神奈川県鎌倉市の由比ケ浜など活気ある観光地を視察に行くと店主の意識が変わるかもしれない」と希望を抱く。「また青島に来たいと思ってもらえるよう、もてなしの心でお客さんを迎えたい」と興梠さんは、商店街全体にもてなしの心が広がることを期待する。

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