見出し画像

学術知見にもとづく高ストレス者対応

自己紹介

ベターオプションズ代表取締役の宮中大介と申します。メンタルヘルスや組織開発関連ビジネスの開発支援、人事・健康経営関連のデータ分析に従事しています。株式会社ベターオプションズ:



はじめに

今回は、最新エビデンスでストレスチェックにおける高ストレス者フォローアップを強化する方法について説明します。

ストレスチェック制度における高ストレス者

ストレスチェック制度においては、一定の基準にもとづき、ストレス度の高い高ストレス者を選定することが求められています。高ストレス者の中で、医師や保健師といったストレスチェックの実施者が必要と認めた人から申し出があれば、企業は産業医等の医師による面接指導を実施しなければなりません。

高ストレス者基準は、ストレスチェックマニュアルの選定基準が一般的に用いられています、この基準は、ストレスチェックを受けた集団のうち約10%が該当するとされている基準です。詳しくは下記「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度 実施マニュアル」の43ページを参照。

https://www.mhlw.go.jp/content/000533925.pdf

高ストレス者に対しては、医師や保健師といったストレスチェックの実施者が面接指導を勧奨する等のフォローアップすることが推奨されているのですが、1万人規模の大企業の場合は高ストレス者が1,000人近くなり、高ストレス者全員に対するフォローアップをするにはリソースが足らないことが通常です。

面接指導を申し出る高ストレス者はごくわずか

一方で、高ストレス者のうち、医師や保健師といったストレスチェックの実施者が面接指導が必要と認めた人のうち、面接指導を申し出る人の割合はごくわずかです。たとえば、公益社団法人全国労働衛生団体連合会による調査結果「平成30年全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書」では、面接指導の対象者となった人のうち面接指導を実施した者の割合は、8.2%となっています(下記報告書の24ページ参照)。

http://www.zeneiren.or.jp/cgi-bin/pdfdata/20190925114437.pdf

高ストレス者を優先度付けするには

そこで、高ストレス者を、ある基準に沿って優先度付けし、優先度の高い者にフォローアップすることが考えられます。その際に参考になるのは、産業医科大学の井上准教授(論文公表時は北里大学講師)らによる高ストレス者基準に仕事の満足度の基準を加えることでその後の病気休職を予測することを検討した論文です。https://www.jstage.jst.go.jp/article/eohp/advpub/0/advpub_2020-0002-OA/_pdf/-char/ja

Inoue et al.(2020)の概要

この研究では、日本の金融関連の企業に務める従業員のうち、2015年7月に実施されたストレスチェックを受けた従業員約1.5万人を約1年間追跡して、その後1か月以上の診断書が提出された長期病気休職の発生を検討しています。

同研究においては、高ストレス者(合計点数を用いる方法で判定)の中で、仕事の満足度の高い人と低い人でその後の1年間での1か月以上の長期病気休職の発生を比べると、仕事の満足度の低い方が1か月以上の長期病気休職が多かったというものです。

なお、仕事の満足度の高い/低いは、ストレスチェックで用いた職業性ストレス簡易調査票(57問)の「D 満足度について」の「仕事に満足だ」の回答を「満足」「まあ満足」を満足が高い、「やや不満足」「不満足」を満足度が低いとして分析しています。

この結果を活用すると、ストレスチェックで高ストレス者のうち、「D 満足度について」の「1. 仕事に満足だ」の回答で、「やや不満足」あるいは「不満足」となっている者については、特に高ストレス者フォローの必要性が高いと判断出来ます。

実施者による優先順位付けの具体例

医師、保健師等のストレスチェックの実施者はストレスチェックを受けた従業員の個人の結果を見ることが出来ますので、「1. 仕事に満足だ」の回答で、「やや不満足」あるいは「不満足」となっている者については、面接指導の申し出を勧奨するといった積極的なアプローチが望まれます。

なお、高ストレス者数が多い場合は、「やや不満足」あるいは「不満足」と回答した人も絞っても対象者数が多いかもしれません。その場合は、次の図のように、「やや不満足」の人と「不満足」の人で優先順位に差をつけても良いかもしれません。なお、医師、保健師等から対象者にアプローチする際には、周囲の人に当該対象者が対象者であることが知られないようにアプローチすることが重要です。


株式会社ベターオプションズ作成

さて、利用しているストレスチェックのシステムの仕様によっては、ストレスチェックの実施者であってもストレスチェックの受検者の生の回答を得ることが出来ず、素点換算表によって換算されたレーダーチャートの結果のみ把握できるという場合もあるかもしれません。

その場合は、レーダーチャートの「仕事や生活の満足度」の部分を参考にすることが考えられます。たとえば、高ストレス者の個人結果のレーダーチャートを見て「仕事や生活の満足度」の得点が1または2(※)に該当している場合は、リスクが高いと簡易的に判断することが考えられます。

http://www.tmu-ph.ac/topics/pdf/sotenkansan.pdf

なお、この場合も、上記と同様に「仕事や生活の満足度」の得点が1の対象者と、2の対象者で優先順位に差を付けることが考えられます。

おわりに


今回は、最新の研究成果にもとづいて、ストレスチェックにおいて高ストレス者フォローアップを強化する方法について説明しました。

現在、ストレスチェックの実施が企業によってはよく言えばルーチン化、悪く言えばマンネリ化している企業もあるかと思います。「高ストレス者は数百人存在するものの、面接指導の申し出者は毎年1人か2人程度。一方で休職者は一定数発生しており、休職する前に事前に対応出来ないかと考えている」という企業においては、今回紹介した方法を参考に、高ストレス者に対して将来休職するリスクの高さにもとづいて優先順位を付けて、リスクの高い従業員に対しては積極的なアプローチをしては如何でしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?