地方自治体職員のメンタルヘルスの状況について
自己紹介
ベターオプションズ代表取締役の宮中大介と申します。メンタルヘルスや組織開発関連ビジネスの開発支援、人事・健康経営関連のデータ分析に従事しています。慶応義塾大学でメンタルヘルス、ワーク・エンゲイジメントに関する研究教育にも従事しています。株式会社ベターオプションズ:
はじめに
近年地方自治体職員の退職の増加、人手不足が話題になっています。
退職には様々な理由がありますが、メンタルヘルス不調がきっかけになることもあります。そこで、今回は地方自治体職員のメンタルヘルスの状況を概観してみます。
総務省による調査結果を概観する
総務省による「令和2年度 地方公務員のメンタルヘルス対策に係るアンケート調査結果」を見てみます。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000784249.pdf(調査結果概要)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000784253.pdf(調査結果本文)
この調査は、地方自治体1,788団体、首長部局の職員(959,811人)を対象としたものです。なお、首長部局とは、地方自治体で首長の直接の指揮監督を受けて働く部局です。教育委員会、考案員会、警察、消防部局などは、首長からは一定程度独立した業務、人事が行われているため、今回の調査対象となった首長部局には含まれていません。
令和2年度のメンタルヘルス不調による休務者は21,676人(職員10万人あたり2250人)となっています。したがって、地方自治体職員に占める休務者の割合は2.25%となっています。
少し古いデータですが、財団法人 労務行政研究所が2008年に公表した調査(https://www.rosei.or.jp/attach/labo/research/pdf/000008234.pdf)によると、民間企業におけるメンタルヘルス不調による1か月以上の休職・欠勤者の割合が0.5%前後となっています。両調査で休務・休職の定義が一致していない点や地方自治体や民間企業の代表的なサンプルではない点は留意が必要ですが、民間企業と比較して地方自治体ではメンタルヘルスの問題を理由として休職している人の割合は高い可能性があります。
地方自治体の休務者の割合を区分別に見てみると、都道府県が1.9%と最も低く、次いで、指定都市が、2.3%、市区町村が2.4%と最も高くなっています。
休務者に占める割合を役職別に見ると、係員が72.5%、係長級が18.4%、課長補佐級が6.0%、課長級以上が2.4%、その他が0.6%となっています。
一方で地方公務員(首長部局)の役職別の割合は、係員が44.8%、係長級が27.3%%、課長補佐級が15.5%、課長級以上が12.3%となっていることから、係員が休職しやすいことが分かります。
メンタルヘルス不調で休務に至った主な理由を見ると、職場の対人関係(上司、同僚、部下)が最も多く、次いで業務内容(困難事案)、本人の性格の順となっています。この質問は休務した本人や医師ではなく、調査回答者(=人事・健康管理担当部局の担当者と思われる)による回答ですが、実情をある程度反映していると思われます。
職場の対人関係が休務理由に挙がっている背景としては、地方自治体では、中途採用が増えているとは言え、新卒中心の同質性の高い人員構成で勤務地も限られているため、人間関係のこじれ、相性の問題が長期化しやすく、メンタルヘルスの問題に発展しやすい可能性があります。
業務内容(困難事案)が休務理由に挙げられている背景としては、突発的な事件の発生や制度変更の影響で特定の部門の職員の業務負荷が急激に高まった可能性があります。近年では新型コロナウイルス対応や、マイナンバー対応に従事する職員には業務負荷が高まっている可能性があります。
地方自治体では採用後は特定の資格を必要とする業務を除くと、ゼネラリストとして多岐に渉る業務に従事することになります。技術系として採用とされた職員であっても、大学等での専攻とは異なる技術系の業務を担当することもあります。そのため、近年の一部業務の専門化、高度化のため、地方自治体職員の業務スキルが追いつかないまま業務に従事している可能性も考えられます。
近年のメンタルヘルスの対策に関する部分の結果を見ると、メンタルヘルス不調による休務者の増加傾向があると回答した割合は全体で78.2%となっています。都道府県では93.6%、指定都市では100%、市区で88.1%となっています。比較的休務者の割合が低い都道府県や指定都市で休務者が増えている傾向があることが分かります。
自由記載の結果を見ると、新型コロナウイルス対応による業務増加や、人員削減、権限移譲等によって担当職員の業務負荷が増したことによるメンタルヘルス不調の発生が挙げられています。
予防や早期発見に関しても、いきなり休務してしまう職員がいる、メンタルヘルス不調を防ぐための具体的な対策が分からないといった回答が含まれており、メンタルヘルス対策の困難さを地方自治体の現場の担当者が感じていると言えそうです。
地方自治体でメンタルヘルス対策をどのように進めるか?
以上のような状況を受けて、地方自治体においてメンタルヘルス対策をどのように進めて行けば良いのでしょうか?弊社としては、メンタルヘルス不調の未然防止、早期発見、休復職支援の3本柱を実施していくという基本的な考え方に変わりはないと考えています。注意すべきは、それぞれの取り組みが形骸化していないか、実質的な効果を生むものになっているかという点検し、取り組みが実効性のあるものにすることだと考えます。
たとえば、地方自治体においても労働安全衛生法によるストレスチェック制度の実施が義務化されており、面接指導の希望者に対する面接指導、ストレスチェックの集団分析が実施されていると思いますが、その結果が十分に分析され、問題があると思われる部局へのヒアリング等によって実態を把握し、必要な改善が実施されているでしょうか?ストレスチェックの結果から組織の業務負荷を把握し、人員配置の見直し等に活かせているでしょうか?あるいは、メンタルヘルス研修の内容が当該地方自治体の課題に即した内容となっているでしょうか?休復職支援態勢は実際に機能しているでしょうか?こういった点を、一つ一つ点検し、実効性のあるものにしていくことが、たとえ時間がかかったとしても、地方自治体のメンタルヘルスの状況を改善することにつながると考えています。
以 上