推しは推せるうちに推せ『Bar citr0n 閉店します』
長くなります。コーヒーでも淹れましょうか。
寒い日が続いていますね。
最近どうです?眠れてますか?
そうですか、それはよかった。じゃあ、少しずつ話していきますね。
citr0nとは?
2021年11月に東京、恵比寿に正式オープンしたBar citr0n 通称「失恋バー」
恋の悩みを相談したり、人間関係の難しさの吐露したり、
時には愚痴を零せる心のデトックスを目的としたバー運営を行っています。
2021年に実店舗を構えるまでは、友人のバーなどを間借りし
定期イベント開催を行い、店舗の収容人数を大きく超える反響を呼んでおりました。
バーのオーナーは私MIYAMU。
バーテンダーはこれまでに累計9名が在籍。
働きながら俳優業やモデル業、学生生活に勤しむ個性豊かな面々です。
私には実店舗運営の経験はありませんでした。
暗中模索しながらバーの経営はスタートしました。
一代目バーテンダーのみんなとは日夜相談を繰り返し、必要な道具を揃え、オリジナルカクテルを開発し
どうやったらお客様にこのバーでの時間を楽しんでいただけるかを思案しながら、なんとかオープンに漕ぎ着けました。
失恋バーは、“気の弱った人たちの溜まり場”ではありません。
コンセプトは「自分を強くできる場所」 弱さとは相対するコンセプトを掲げています。
「弱いままでいいよ、あなたはあなたのままでいいよ」なんて優しい言葉だけを応募者全員サービスしているバーではないのです。
”貴方は誰のための貴方でいたい? どんな自分でありたい?
恋も愛も、まだ誰もその難しさを解明できていない
ひとりで泣いていなくていい
生きて、生きて探そう”
というメッセージを掲げています。
これはコーチングのライセンスを持っている私が運営するバーだからこそ
お酒を飲んでバーを後にする頃には、前向きな気持ちになっていてほしいという願いを込めてこのコンセプトにしています。
二年半前にオープンしたこのバーが、この春、終わりを迎えます。
儲からなかったからやめるの?
運営している27ヶ月中、赤字になったのは6ヶ月
総合すると黒字経営はできていました。(純利は本当に僅かですが)
初期費用に1500万円ほど投資しているので、その額の回収には至りませんでしたが、お越しいただけるお客様に支えられて、なんとかここまでやってこれました。
「儲からなかったからやめるの?」という問いに対しては
「そんなことないよ。でも恵比寿駅徒歩3分の新築ビルに、店舗経営初心者がスケルトンからオープンするのはおすすめしないよ」
とだけお答えしておきます。
やめる理由は?
少し回り道をしながらお話しするので
お時間ある方だけお付き合いください。
コーヒー片手に、散歩しながらでも話しましょう。
寒風吹きすさぶ道すがらですが。
やめる原因は、灯火となって、貴方の心に火をつけるためです。
…噛み砕いて説明しますね。
まずは、私が創作活動に専念するためです。
物語を、プロダクトを作るのが大好きです。これが生き甲斐だと、胸を張って言えます。創作こそが私の生きる道です。
生きる道の先で、あなたの人生との交点が生まれれば、それ以上に嬉しいことはありません。
直近始まったyasunaさんとの連載漫画「セレセフ」を始め、
小説や脚本の執筆、フレグランスブランドWAKAの商品を
もっと多くの方に手に取ってもらう方法を模索するために時間を費やそうと思いました。
これまで
「citr0n存続のためにWAKAの購入をお願いします」
といった宣伝文句を何度か使ったことがあります。お願いするたびに心は痛みました。
私にとっては失恋バーもWAKAも、同じように愛するプロダクトです。
自分の我が子のような存在です。
citr0nも、WAKAも、それぞれに立派に育ってくれるのが一番嬉しいのですが
なかなかそうは上手く伸ばせない私の力量の無さを恨みました。
WAKAには伸び代があります。もっと多くの方々の手に取られるべき
日本を代表するフレグランスブランドになるべきだと確信しています。
WAKAにcitr0nの経営を委ねるのではなく、きちんと切り分け、注力して推進するためにこの決断に至りました。
次の理由ですが…ここからは例え話が多くなります。
まだ少しお時間いただけますか?
温かいお店、ここらへんにあるかな…あ、そうだ。いいところがあります。着いてきてくれますか?
ありがとうございます。それではお話ししますね。
世に生まれ落ちた命には終わりがあります。人でも、物でも、建物でも。
1000年前に建てられて今残っているものが、来年同じようにそこに残っているかは誰にもわかりません。
終わりに向かって進む時間の中で、”どれだけの思い出を抱えて逝くことができるか”が人生の価値でしょう。
我々は、終わりが来ることから目を背けてはいけません。
南の島に逃げても、スペースシャトルに乗って宇宙に逃げても、終わりだけは追ってくるものです。怖いですね。
愛別離苦という言葉にもある通り、終わりはいつだって苦しく悲しいものです。
「失恋」
それは私たちが経験したことのある一番身近な ”終わり” の形ではないでしょうか?
「なくしてから初めて気づく」
「あの人は実はすごく優しかったのかもしれない。他の人と比べて気づいた」
私がcitr0nでお話を聞く中で何度も耳にした言葉。
あなたも一度はすれ違ったことのある感情ではありませんか?
万葉集が紡がれた時代から言われ続けていることです。
「嗚呼、あなたがここにいてくれさえすればいいのに」
「いつかあなたに会いにいきたいと願いながら袖を濡らしています」
「いつかあなたがきてくれるのではと待つのも苦しいです」
1300年前に生きた人々と、今を生きる我々とで、何も変わらない恋の悩みを抱えているのです。
ああなんと、我々は学ばない生き物なのでしょう。
でもこの経験こそがきっと、人生に厚みを持たせていくことにつながるのでしょう。一度経験したら二度目は失敗することがない、なんて完璧人間でいられる人はごく少数でしょう。
失敗したからこそ、恥ずかしい自分に出会ったことがあるからこそ
誰かの悲しみを優しさで包み込める人になれるのでしょう。
痛みを知って、悲しみを覚えて、人は強くなります。
振る舞いを知って、言葉を覚えて、人は美しくなります。
失恋は、終わりは、人を強く美しくしてくれます。
「失恋=悪いこと」という先入観を変えるために、私はcitr0nを始めました。
「終わりが来るとわかっていながらも、行動を起こせないまま、不遇だけを嘆いている」
そんな姿を肯定するつもりは微塵もありません。
欲しければ行動しなければならない。行動できないならば己を磨かなければならない。
無い時間は作らなければならない。作り方がわからなければ学ばなければならない。
学ばなければ、失恋に飽きた頃、また人は失恋の入り口に踏み込む。
成就して青い空を見上げているとき、足元のぬかるみに気付かずにいる。
人生、”いつか”は禁物だということ。
希望のフリをした、逃避なのかもしれないということ。
「いつかcitr0nに行きます」
この言葉を幾百といただきました。
嬉しかった。誰かの未来に仮の予定として組み込まれたのが嬉しかった。
嬉しかったけれど、同時に寂しかった。
さて、いつかとはいつなのでしょうか。来月?来年?さては来世?
失恋バーは「あのときああしていれば、を人生で二度と犯さないために」という役目を以て終えます。
「推しは推せるうちに推せ」
何度も口酸っぱくして私が唱えてきた言葉です。
失恋は大抵、言わなさすぎか、言い過ぎか、あるいはタイミングを逃すかがきっかけです。
「いつかあなたとこうなれたら」
「いつか好きだと伝えられたら」
そのいつかを決めてくれるのは誰でしょうか?
他の誰でもなく、あなた自身です。
いつか、を”いつかじゃなくする”のはあなたです。
ここで気付けないと、一生気付けないままかもしれません。
失恋バー Bar citr0n自身が、あなたの最後の”失恋”になります。
「ああ、やっぱりこうやって、いつか行きたかった場所というのは消えていってしまうものだな。今私の心にある”いつか”は行動に移しておかないとな」
と思ってもらう引き金になれますように。
citr0nの灯火は残り一ヶ月半で消えます。
失恋バーとしての役目を終えます。
この灯火が、あなたの未来に、想いに火を移し替え、
あなたの心の中で末長くcitr0nが生きてくれることを願っています
感謝を伝えたい人
まずは、citr0nを愛してくださったお客様
2年半、恵比寿という一等地で営業させてくれてありがとうございました。日頃の営業もイベントも、Instagramへのリアクションも
すべて嬉しかったです。お客様同士で交流してくれて本当に嬉しかった。みんなが仲良くなってくれて、ときにはケンカもして
あるときには恋が生まれて、それでもやっぱり「失恋バーにふさわしい話があるよ」と肩を落としたりして。
たくさんの思い出をありがとう。焼き芋を持ってきてくれたりモンスターエナジーを差し入れしてくれてありがとう。
スタッフを愛してくれてありがとう。スタッフのことを心配してくれてありがとう。
常連のみんなが、私が出勤しても何も驚かず、「おう、今日MIYAMUさんいるんだ、おつー」とフラットに話してくれるのちょっと嬉しかったよ。
次はどこで会えるかな。またイベントでもやろうかな。何も予定は立てられてないけど、みんなにまた会いたいと思うよ。
たくさん飲ませてくれてありがとう。たくさん愛してくれてありがとう。
数十年後、「なんだっけ、あの、恵比寿にあったバー…店内が緑色の…なんかあったんだよ、そういうおしゃれなバーが。楽しかったなーあそこ」
と思い出話として話してくれている未来があるといいな。
citr0nを見つけてくれて、通ってくれて幸せだったよ。
愛していますみんな!ありがとう!
新旧スタッフ
おつかれさまでした!私がcitr0nにいなくとも、創意工夫してバーの雰囲気作りをしてくれたこと本当に心強かったです。
私に至らない点が多々あり、その都度衝突しながら、議論し、本音を曝け出し、前に進もうと心を整えてくれたこと、嬉しかったです。
もっとみんなとやりたかった気持ちももちろんあります。楽しかったからね、citr0nでの時間は。
みんなそれぞれの道で躍進してくれる人材だと思っています。
ゼロからこのバーを築いてきて、普通の人では到達できないほどの相談量をこなしたあなたたちです。
人生経験は並ではありません。自信と矜持を持って人生を歩んでください。私もみんなに負けないように頑張ります。
いつか作品が実写化された暁には、citr0nと同じセットを作ってもらいます。一緒に見学しに行きましょう。
「少しの時間だったけど、あの時間は青春だったね」と笑い合えるよう
未来を強く生きていきましょう。みんななら大丈夫です。
助けられてばかりだったな。本当にありがとうございました。
WAKAを購入してくれたあなた
「いつか」は禁物!なんて先ほどの文章では言いながら、「すぐにはcitr0nには行けないから、WAKAを買って応援します。いつかcitr0nに行きたいです」と
言ってくれるあなたのことを、心の支えにしていました。涙が出るほど嬉しかった。私なかなか泣かないんですけど、嬉しかったんです。
愛されている実感をもらえました。こんなに優しくされていいのか私は、と目頭を押さえました。
ここから先、WAKAは多岐に渡るチャレンジを行います。
次の夢に繋げます。あなたの心を、少しだけ私にください。
必ずあなたの人生を前に進めます。背中は任せてください。
私は、WAKAは、あなたの味方です。
最後に
ここまで着いてきてくれてありがとうございます
寒かったでしょう
鼻先、赤くなってますね
こちらです、温かい場所
冬場は26度にしています
コートをおかけしますね
お預かりします
段差お気をつけください
どうぞこちらの席に
ここまでお付き合いいただいたので一杯サービスさせてください
残り少ない時間ですが、ごゆっくり