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お腹から15cmほど腸がはみ出てますが、問題ありません(オストメイト)

「ストーマ脱出なんて聞いてないし!」
まやさん(私)は、ある日、買い物に行く支度をしながら叫んだ。

ストーマが身体の外に出てしまうことをストーマ脱出という。今、まやさんのお腹からは、15cmほど腸がはみ出ていて、別に痛くはないが、できれば買い物をしている時は、お腹に入っていてほしいと思う。

さて、一体なんの話なのか。簡単に経緯を説明しよう。

まやさんは4月に小腸に穴が開き、ストーマ造設術という手術を受けた。手術は3時間もかかり、悪くなっていた腸を20cmほど切り取った。

けれど、分断された腸がすぐにはくっつかないということで、ストーマ(人工肛門)を造った。このストーマは、おへその右下にあり、腸の一部が外に出た状態。そこから排泄する。

ストーマは最初、むくんで直径5cmくらいあったけれど、しばらくすると4cmくらいに落ちついた。食事はふつうにできる。でも排泄に大腸と肛門は使わない。

ずっとこんな感じなの? と不安になっていたが、退院間際に「1年くらいしたらストーマ閉鎖術という手術をします」と、言われた。

その手術によって、分断した腸をくっつけるらしい。

ということで、まやさんは退院し、自宅でストーマケアがはじまったというわけ。

実は、このストーマという排泄口には、肛門のような筋肉がない。それでパウチをかぶせて過ごす。大腸を経由していないので、けっこう水っぽい液がたまる。

それが、人参を食べたら人参がそのまま出てくるし、コーンポタージュのコーンも出てきた。ある日、胡麻和えを作って食べたら、パウチの中がふやけた胡麻でいっぱいになってしまった。胡麻が水分を吸って、大きくなって出てきたわけだ。

まやさんは、なんと体重が35kgになってしまった。食べても、全然、吸収してくれてないみたい。けれど病院の栄養士さんは、気にすることないと言う。

困ったことは他にもいろいろあった。例えばまやさんは、シャクシャク食べるサラダが大好き。でも繊維が多いと、パウチ(※)の出口が詰まってしまうから、レタスもキャベツもセロリも、ほどほどにしないといけない。サラダくらい爆食いしたっていいと思うのに・・・

(※ ストーマの種類によって、パウチもいろいろ。まやさんはイレオストミー(回腸ストーマ)なので、パウチの出口が狭い)

・・・と、そんな生活をしていたある日、見るとストーマが飛び出していた!

最初は5cmくらい、サーモンピンクの太い腸がにゅっと出ていた。次に見ると、10cm、次は定規で計ると15cmを記録。写真に撮って、ストーマ外来に行って見せた。いや実物があるのに、写真なんて撮らなくてもよかったんだけど。

ストーマ外来の認定看護師さんは、皮膚・排泄ケアのプロで、プロの手技によって、ストーマはお腹に戻った。でも家に帰ったらまた10cmくらい出ている!!

まやさんは、諦めた。もう出たいなら出ればいいよ。そんな諦念の境地になっていたら、ストーマが自然にお腹に入るようになった。もちろん、すぐに出てくるけれど、ストーマの気分によっては勝手にお腹に入る。なんだこの生き物は?

まやさんは、自分とは別の人格をもったストーマという生き物が、お腹から顔を出したり、その日の気分でお腹にもぐったりすると感じた。それでストーマに話しかけてみた。

「いいこね、お買い物行くから、ちょっと中に入ってくれるとうれしいな」
ストーマはくねくね動きながら、入ろうとしない。それで冒頭のシーンとなる。

「ストーマ脱出なんて聞いてないし!」

実際、入院中、誰もそんなことは教えてくれなかった・・・

でも出てくるものはしょうがない。仕方がないから、ズボンのポケットごしに右手で腸を支えて、買い物に出かけた。

腸を支えながら、スーパーで買い物をしている女性。世の中には考えもしないことがたくさんあるようだ。

今、まやさんのストーマは、6cmくらい顔を出しているのがデフォルトになっている。これだけ出ていると、うっかりお布団の中でうつ伏せになった時、押しつぶしてしまう。

「あ! ごめん、つぶしちゃった? 大丈夫?」
まやさんはあわててストーマを点検する。大丈夫みたいだ。ストーマには痛覚もないから、仮に押しつぶしてしまっても、痛いとは言ってくれない。だから気を遣う。

これって、来年の閉鎖術でちゃんとお腹の中に入るんだよね? 

主治医が言うには、この小腸をくっつける手術の際、ついでにS字結腸も「ちょんちょん」と切り取るそうだ。

実はそこに悪性ではないポリープがあるが、その部分が細くなっているから、腸ごと切ってしまう方がいいらしい。

「ちょっと腸の長さが短くなるけど、別に問題ないからね」と、主治医。

もうソーセージは食べたくないな、と思うまやさんだった。

(おしまい)

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