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バーイベント後記|「わたし」役を降板しよう
昨日、新宿にある学問バーkisiというお店で、1日バーテンダーを務めた。
そこは、研究や実践をアカデミックな場所で行っている人が日替わりバーテンダーとして立つお店。
広義での研究と実践はしてきたし、それを来年から大学で実際に論文を書こうとしているし、そういう意味ではイベントの企画趣旨もズレていないし、店長さんにお願いして立つことにした。
劇場じゃなくて、ギャラリーじゃなくて、オルタナティブスペースでもない場所での発表は、今後ひとつの軸になっていくだろうなと考えていたので、第一弾という意味でもすごく大事なイベントになった。
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権利や行為を買える?特別メニュー
イベント中に行った「研究発表(という建付け)」は、このイベントを支える大事な要素だった。わたしが取り組んできたことを知ってもらった上で、このイベント中に起こっている様々な「上演」をみんなで目撃してみたかったからだ。
メニューとその効果
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この中で一番注文いただいたのは、「代理で自己紹介を宮森に委託」だった。
代理で自己紹介を宮森に委託
お店の中に話してみたい人がいるけれど、勇気が出ないあなたへ。私が代わりに自己紹介を、そのお相手に上演します。
と書かれたメニューは、「バーなら誰かと喋ってみたいのでは?だけど席が離れているとできなかったり勇気が出なかったりするのを、私が文字通り媒介してみたい」と思って考案したものだった。
最初の注文者
一人目の注文者から想定が崩れ、私が全員に向かって、(注文者の)自己紹介を上演することとなった。そうそう、こういうメニュー通りじゃないことをニュアンスオーダーできるのも、居酒屋っぽくて良いなぁと思った。
「関心事が宮森さんと重なるのでは」と語るその人からオーダーを受け、わたしはカウンターの内側(バーテンダーの場所)から出て、その人へ近づいた。近づくと声は小さくなり、公共性が少し失われる。
お名前を尋ねると、その答えと学年を教えてくれた。私はいくつかの質問をし、上演をするためにカウンター内に戻る。
「滞りのない自己紹介」を上演しようとすると、「足りない情報」を意識する。聞いたことをなんとかふくらませるように自己紹介を進め、最後は注文者の目を見て「関心事が似てるかもしれないので、仲良くできたら嬉しいです」と告げ、上演を終える。
上演が終わると、まずは本人の感想にみんな興味があった。注文者は、「私が使わないボキャブラリーがたくさん出てきて不思議だった。私の情報を言っているはずなのに、自分とは思えない部分もある。」と言う。
それを受け、みんなが口々に起きたことの考察を言う。それってめっちゃ、パフォーマティブだ。
上演の最後、注文者の目をみて言った「仲良くできたら嬉しいです」という言葉は、私のものだったのだろうか?それとも注文者のものだったのだろうか。
次々に注文が入る、中に一人
一人目を終わると、注文した後に何が起きるのかわかったからか、他の人からの注文が続いた。
そんな中、知り合いが連れてきた初めましての人から、こんなオーダーを受けた。
嘘をついて良い権利を5つと、その状態の私の自己紹介を上演してほしい。
まるでトランプゲームのように、買える手札でできることを考えた、クリエイティブなオーダーだった。
名前も、住んでるところも、何もかも、情報はあっても嘘。「その中で一つだけ、本当のことを答えた」と注文者は言う。
これは一体なんの上演になるんだ?実在しない人の自己紹介?なのだろうか。
私は混乱の中でなんとか頭をぐるぐる回して「滞りのない自己紹介」を目指す。
気がつくと、私は「父親に車を出してもらって今日新宿まで来た、彼女がほしいと悩む、男の人」になっていた。
何が起きたんだろう、と考えると、あの上演は「名前の情報(嘘かもしれない)から、色々な偏見を孕んだ類推を行い、なんとか上演」したものだった。
上演を終えると、注文者は「弟の名前だったんですよ」と言った。
「身近な人の名前を語る、身近じゃないのにちょっと親近感がある?のかな、変な感じでした」とも。
その他の注文者
上演後の注文者の言葉はとても興味深かった。それをみんなが聞きたがったことも含めて、重要なことだったと感じる。
「自分のことを、変わってる人間だと思ってた。だけど人にやってもらったのを見ると、ぜんぜん変じゃなくて安心した」と言った人。
「(就職に悩む)自分の思いを、宮森が言語化してくれるような感覚があった」と言った人。
本イベントの意義のようなもの
昨日は予定してたものも予定してなかったものも、いろいろなレイヤーでの上演が起こった。
高校時代の同級生が来て、「本名のわたし」をお客さんに見られたこと。
その場にいる誰かの自己紹介を宮森みどりが上演したこと。
それをバーに居るみんなで目撃したこと。
それについてみんなで話したこと。
それから、ポートフォリオスライドを使って、全部で3回の活動発表をしたこと。
台本はなくて、スライドだけが一緒。3回の全部を目撃してくれた人が居て、毎回違ってそれも面白かったと言っていた。
そんなストイックな目撃の仕方が発明されるのも面白かった。
作品と呼んでしまえるほど再現性はないけど、これは私が作品やプロジェクトの中で考えていることと大きく重なる。これからも、イベントという形式での発表にチャレンジしてみたい。
上演と再演、語りの始まり。それが誰かの日常の一時に入り込むようなイベントになっていたら嬉しい。
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