見出し画像

大規模マンションの総会:出席者の議決権を3倍に(2)

■前回コラムのあらすじ:
東京都八王子市にある「アクシア八王子ピュアマークス管理組合法人」の総会に出席したところ、予算4億円程度の大規模修繕工事に関する議案が含まれるにもかかわらず、出席者は理事会役員を除くと15名。
審議前すでに欠席者による議長委任と議決権行使で過半数の賛成が確保されている中、欠席票ですべての議案が可決されてしまい課題意識の高い出席者の声が全く考慮されないような雰囲気。
これは日本の現役世代、特に若者に蔓延する「どうせ政治家に何を言っても意味がない」「声を上げても届かない」という無力感と同じように感じた…という話でした。

※前回コラム「大規模マンションの総会:出席者の議決権を3倍に(1)」はこちら

「シャンシャン総会ではまずい」と立ち上がるカイゼン委員会

アクシア八王子ピュアマークス管理組合法人には、理事会の中のワーキンググループのひとつに「カイゼン委員会」というチームがあります。理事会役員の中から5名+管理会社フロント担当者のチーム構成で、先の総会で採用が承認された当社(マンション管理士・メルすみごこち事務所)から僕を含め2名が加わり、8名のチームです。

先の総会後に開かれたカイゼン委員会の会合で、管理会社のフロント担当者に、過去における総会の開催状況を聞きました。すると「総会当日の出席者は年々減っている」「理事会から上程された審議事項はすべて、当日欠席者の票(議長委任+議決権行使)で賛成多数の可決」「総会へ毎回出席する区分所有者は大体決まっていて、いつも反対や批判的な意見をされる」と「大規模マンションあるある」でした。

総会を主催する理事会や管理会社としては、総会はなるべく波風立たずにシャンシャンと終えたいでしょうし、理事会役員が輪番で回ってくる区分所有者のほとんどが、管理組合の運営や理事会の役割が良くわからないまま、大過なく任期を全うしたいのが心理でしょう。

しかし、この時のカイゼン委員会のメンバーは違いました。先の総会を踏まえて、僕からメンバーへ「ぶっちゃけ、この間の臨時総会に主催者側として参加してどうでした?」と聞くと、次のような真摯な意見が次々とでてきたのです。

  • 総会の議案作成は、ほとんど管理会社にお任せしていたし、総会当日の議事進行や議案説明も管理会社にお任せしていたため、参加者から質問があっても、理事会として答えられなかった。

  • 議案検討に至るプロセスも管理会社にお任せで、理事会としての意思が弱かったため、出席者からの厳しい指摘に対して適切に回答ができなかった。

  • 議案の内容に関する参加者からの意見や批判には真っ当なものが多く、真摯に受け止めざるを得なかった。

  • 司会進行のまずさもあり参加者から大きな不満の声が出ても仕方がなく、最終的には議長委任と議決権行使の票で押し切るしかなかった。

  • 自分の職場では、大切なミーティングの前にもっと事前準備をして臨み、質問されたら自分が自分の言葉で回答していたが、それがマンションの総会ではできなかった。

  • 仮に自分が総会へ参加する立場だったら、この間の様子を見てもう二度と総会に参加しなくなると思った。

カイゼン委員会メンバーの真剣な回答を聞いて、僕から提案したのが「総会の場に出席する区分所有者には、書面で意思表示する方の3倍の権利を与える」です。

僕は以前、大阪市長・大阪府知事時代における橋下徹さんの政治家としての取り組みや考え方に共感していました。すなわち


「権力者側の政策や取り組みがダメなら、有権者からNOを突きつけられるようにし、権力者側が襟を正して市政(府政)へ真剣に向き合う環境をつくれば、市(府)はもっと良くなる」「政策が悪いとか不正を行うような政治家は選挙で落とせば良い」


という考え方です。
理想論かもしれないけれど、正しい民主主義のあり方だと感じました。彼はその考え方を貫いて、大阪都構想実現のための仕組みを作り、有権者への説明を尽くし、最終的に選挙で敗れ退任しましたが、その後の大阪維新の会の躍進を考えれば、開かれた政治を貫いたことが住民の理解と支持を得られたのだと感じます。

この考え方を、少しだけ管理組合の運営に取り入れてチャレンジしませんか?と提案したのです。

その後、カイゼン委員会メンバーと「目指すべき理事会の姿・総会のあり方」を議論した結果、チャレンジとしてたどり着いたのが「総会当日に出席する区分所有者の票(議決権)を3倍に」というものです。

アクシア八王子ピュアマークス管理組合総会議案の補足まとめ資料から

3倍案は「理事会が緊張感をもって主体的に活動する仕組みを作るため」

翌年の通常総会においてこの提案を出した時の議案文章(たたき台)を、少しカスタムして以下に記します。

■この議案の趣旨・考え方

より良く、より活発な組合運営の為に、組合員の関心を高め、参加しやすく・参加したくなるような総会を目指し、主に、次のような改革をご提案します。
 
総会の普通決議に、出席する(会場への出席だけでなく、オンライン参加も含む)組合員の票の重さ(議決権)を3倍にします。
 
総会に出席するということは、マンションの運営や将来に対して意識・意欲が高く、思いや意見がある方が多いと考えられます。組合運営の活性化の為に、そのような組合員の方の意見・意欲をより尊重すべきと考えました。
当日出席者の票の重さが3倍になると、議決に影響を与える可能性が大きくなることから、区分所有者による総会への出席意欲が喚起され、総会の場が活性化されることが期待できます。
 
一方で、総会を主催する理事会(および理事会の支援者である管理会社)としては、いい加減な提案が総会で否決される可能性が高くなる(または否決までいなかくとも多数の反対票が記録に残る)ため、良い意味でプレッシャーとなります。
 
なお、総会当日出席者の議決権を「3倍」にした理由は、例えば出席者に5~10倍と多数の票を提供すると、理事会が一生懸命提案した提案も簡単に否決されてしまう可能性が高くなり、管理組合の運営が停滞してしまうリスクが発生することから、まずは「3倍」で進めてみることにしました。
ちなみに、普通決議における票の「母数」は、仮に議長委任や議決権行使で投じた票+理事会役員の票の合計が150、当日出席者が50名×3=150であれば、合計300となり、この過半数(つまり151以上)の賛成で可決となります。
 
これは理事会にとっては挑戦となります。理事会はこれまで以上に、総会への提案事項(区分所有者への提案)に対し熟慮・議論を重ね、より緊張感を持って総会に臨むことが必要となります。理事会をサポートすべき管理会社やマンション管理士も同様です。
 
総会の主催側である理事会や、理事会をサポートする管理会社、マンション管理士が自らにプレッシャーを課すことで、理事会運営が活性化し、総会へ上程される審議内容のレベルが高まるというプロセスの中で、マンションの資産価値の維持・向上だけではなく、住みやすく・住み続けたくなる環境作りにも繋がると確信しています。
 
総会の場に参加(リアル出席・オンライン出席)する区分所有者に3倍の票を提供することで、総会の場に参加するモチベーションが向上し、かつ理事会側の議案上程に対する緊張感(熟考が不足する内容の議案の上程に多くの反対票が投じられることによる否決リスク、及び良い意味でのプレッシャー)を提供することで、今後の理事会運営が活性化されることが期待できます。(以下略)

※アクシア八王子ピュアマークス管理組合資料たたき案を加工として抜粋

管理組合がマンションの住み心地や資産価値の維持・向上を継続的に目指すためには、 理事会や管理会社・マンション管理士が自らを律し「なんとなく適当に1年を終わらせる」のではなく、真剣に議論したことの成果発表位の気持ちで望むことが重要であり、それを少しでも実現に近づけるために「自らにプレッシャーを課す」ことを総会で提案したのでした。

理事会活動に緊張感をもたせることでより良い総会へとつなげたい

この提案は、総会へ欠席して議長委任や議決権行使を出す区分所有者だけでなく、総会当日に出席した区分所有者からも多くの賛成を得て可決されました。

アクシア八王子ピュアマークスにとって、これがベストな選択かもわかりません。もちろんリスクもあります。
実際に「総会当日に欠席し議長委任や議決権行使を提出した区分所有者に意見・意欲がないと決めつけないで」とか「一人一票が民主主義の原則だ」「もし悪意ある区分所有者が他の区分所有者を焚き付けて大挙して総会へ出席したら決まる議案も決まらなくなる」など、様々な意見が出たことも記しておきます。

でも世の中に完璧なルールなどありません。大切なことは「現状を変えるためには、まずなにか一歩を踏み出さなければならない」ということです。
その意味において、大切な一歩であったと、カイゼン委員の皆さんと離していますし、僕自身確信しています。

次のコラムでは「ルール改定その後」と「注意点」について、整理して解説します。

※中間マージンを取らない管理会社:クローバーコミュニティはこちら
なり手のいない理事長をプロにお任せ:メルすみごこち事務所はこちら 


いいなと思ったら応援しよう!