イチローの「フィールド・オブ・ドリームス」:高校野球女子選抜 VS イチロー選抜 KOBE CHIBEN
21日、東京ドームで行われた高校野球女子選抜 VS イチロー選抜 KOBE CHIBENを観戦に行った。オリックス時代のイチローを西武球場で観た記憶が頭の片隅にあるのだが、幼稚園児のころなので、もう25年以上昔の話だ。
水道橋からドームに向かう道中、ドキドキが止まらなかった。我々平成一桁生まれ世代にとって、イチローこそ「野球」そのものであり、そんなスーパースターと自分が場を共有してもよいのだろうかという感情になった。ここまでくると、もはや野球観戦というより「恋」である。
椎名林檎がイチローを題材に作った曲、『スーパースター』の歌詞を、これ以上ないくらいに実感した。
場内には、マイアミ・マーリンズ時代のイチローTシャツを着ていた私含めて、オリックス(もちろんブルーウェーブ時代)からマリナーズ、侍ジャパンと、イチローが着た歴代のユニフォームを着たファンが集結していた。NPBのゲームでは「球団」単位でそれぞれのシャツのファンが集まることは多いが、今日は「イチローという個人」という単位で集まっていた印象を受けた。こういった部分も、この特別な試合ならではの光景だったといえるかもれない。
椎名林檎から私のような一ファンに至るまで、野球ファンのハートを、セクシーにつかんでは離してくれない罪作りな選手は、確かにそこに立っていた……。「かっこいい」「本物だ」というような、プリミチブな感想しか出なくなった……。
18時20分にプレイボール。「9番・投手」として出場したイチローは、まずはマウンドへ。かつて愛工大名電高校のエースだったイチローは、スリークォーター気味のフォームから135キロ前後の球を連発。エキシビションマッチだが、「手抜き」の球は1球もなかった。
「大人気ない」と感じる人もいるかもしれないが、手を抜かないことこそ、高校野球女子選抜への最大のリスペクトなのだという、イチローの強い意志を感じた。そうした真っ向勝負のイチローに臆することなく果敢に挑む女子選手たちの姿に、場内は温かくも熱い雰囲気に包まれていた。
KOBE CHIBENの選手が活躍すれば、「さすがイチローのチーム!」と歓声があがり、高校野球女子選抜の選手が活躍すれば、「イチロー相手に凄い!」という風にまた違う種類の歓声があがるのだった。
イチローはMLB移籍後、アメリカのファンから「ウィザード」(魔法使い)と呼ばれることも多かったというが、この独特のドーム内の雰囲気さえもイチローの「魔法」のように感じられた。
スペシャルゲスト・松坂大輔も「4番ショート」で出場。ショート守備も上手にこなし、併殺を演出する場面も。
そして打者として打席へ。日本中のベースボールキッズが真似たであろうルーティンワークには神々しいものがあった。
8回にはバランスを崩しながらも外角球をとらえ、「KOBE CHIBEN・イチロー」として初安打も飛び出した。打球が2塁塁審に当たってしまったため単打になったものの、実に「イチローらしい」安打だった。
0-4でKOBE CHIBENが勝利し、イチローは完封勝利を飾った。
試合後には女子選抜3選手とイチロー・松坂両氏によるヒーローインタビューが行われた。
その中で一番盛り上がった場面は、ここだったように思う。スタンドをイチローらしいウィットで笑いを起こしつつも、若い選手の背中を押すという、朗らかなシーンだった。
トークの最後にはイチローが、この試合を来年以降も続けたいという意向と、松坂に対して「投手復帰」を促す場面もあり、さらに場内をわくわくさせてから締めくくった。
イチローという稀代の野球選手が、「理想の野球の空間」を作るべく演出した試合だったように感じた。スタンドで観戦しただけの自分さえも、こうして心を打たれているのだから、グラウンドでプレーした選手たちにはかけがえのない体験になったはずだ。
哲学者のようであり、ロックミュージシャンのようであり、現代芸術家のようであり、サスペンスドラマの俳優のようで(?)ありながら、スポーツマンらしい凛々しさや、はつらつさを失わない。大好きなイチローをもっと好きになり、そんなイチローがプレーしている野球をも、さらに好きになるという試合だった。
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