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知られざる「ミケランジェロ」の真実:団野村『伊良部秀輝』

(初出:旧ブログ2019/8/19)

伊良部秀輝はどうしても野茂英雄と比べられ、野茂が「陽」だったのに対し、伊良部は「陰」というか「ヒール」役だった。ヤンキース移籍時のゴタゴタやツバ吐きなどのイメージが強く、「イラブよりノモ」という世間の流れは幼稚園児だった自分でもなんとなく覚えている。

帰国後も飲食店でのトラブルもあり(実際は伊良部は不起訴かつ被害者なのだが)、2011年の夏に自殺した際、「かつて日本人最速を投げた名投手が亡くなった」という事実よりも「生前いろいろトラブルがあったからかな…」ということが頭の中で先行してしてしまい、どこかで納得してしまったフシがあった。本書著者の団野村はこうした"悪童"のイメージを故人に代わってひとつひとつ誤解を解いていく。

この本で一貫して野村は伊良部を「ヒデキ」と表現するところに、一クライアントに留まらない、伊良部に対して並々ならぬ思いを持っているのを見て取れる。お互いハーフという境遇に特別なシンパシーを感じたのだろう。正直なところ(もちろん反論の出来ない故人の名誉を回復するための本なのだから、しかたない側面はあると思うが)、いろんなことを良く書きすぎ、伊良部と野村両氏を含めた球界という、我々「カタギ」とは違う「男の世界」の価値観を肯定的過ぎる側面も無くもない。例えば日本で韓国籍の選手を差別したバスの運転手への報復として、野村が深夜にバスをボコボコにするというのは、いくら何でもやりすぎではないかと、みやまるは思う。しかし思えば野村も元を辿ればヤクルトの選手であり、全くのビジネス畑の出身ではない。時にビジネス的な冷静な思考より、野性的な部分もあったのだろう。冷静さと野性的な部分を併せ持った野村だからこそ、伊良部の良きパートナー足り得たのかもしれない。

そしてなにより自分、みやまるは「伊良部のことをちゃんと知らなかったな」と、猛省した。実は理論派なのはなんとなくで知っていたが、前述の自殺の原因もメディアの言う通りビジネスや家庭での行き詰まりだとばかり思っていたし、スタインブレナーの「ヒキガエル発言」にも後日談があり、スタインブレナーは謝罪し、伊良部たちはカエルの置物を送ったというユーモアのある"仕返し"をしたことなど全然知らなかった。完全にパブリックイメージの伊良部しか知らなかったなと、申し訳ない気持ちになった。

そんな伊良部の永遠のライバルといえば、ほかならぬ清原和博だ。小宮山悟のテレビでの発言によれば、伊良部が投げたストレートを清原が打ち返したファウルボールは焦げくさかったという。2人に共通して言えるのは90年代のパリーグを彩っただけでなく、「悪童」のイメージで語られ、本当は繊細であるにもかかわらず、自分を大きく見せてしまうところも共通している。清原逮捕の際、少しだけ安堵したのは、やはり伊良部の自死が頭にあったからだろう。清原はいま再起に向け、一歩一歩歩み始めている。うつに悩まされ、精神的に追い込まれしんどいという報道を見かけたが、不幸にも自死を選んでしまった伊良部の分も、力強く生きて欲しい。

#野球 #新書 #伊良部秀輝

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