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れいちゃん

柚香光さんが宝塚を卒業した。

柚香光さん、れいちゃんのことは、花組配属になった時からずっと観て来たから、柚香光版の『ALL BY MYSELF』を頭の中で構成できるくらい思い出の舞台は数多くある。

好きな作品は、『はいからさんが通る』
『DANCE OLYMPIA』『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』『Cool Beast!!』『元禄バロックロック』『The Fascination(ザ ファシネイション)!』『Fashionable Empire』『二人だけの戦場』『BE SHINING!!』。

最後の作品が『アルカンシェル~パリに架かる虹~』でなければ、もっと劇場に足を運んでいたと思う。

最初に観たのが大劇場千秋楽の配信だったのがいけなかったのか、個人的に受け入れ難い内容で――もちろんよいところもある。あるのだが、相殺してもプラスにならない――舞台で観るのがすっかり嫌になってしまったのだ。

始まって間もなく、植田紳爾作『レビュー交響楽』を観ているのかと思った(ビデオでしか観ていないのですが)。最初から最後までご都合主義なストーリー運びと人物設定。もはや小池修一郎さんの、としか思えない女性観が随所に見られ(そして、それを女性である劇団員に演じさせるのだから)、呆れるのを通り越して気分が悪くなったほど。ドイツ軍占領下のパリ解放のストーリーを都合よく利用していることもどうにも納得できなかった。

現代とをつなぐ狂言回し役を全編通じて登場させているのに、現代視点でのメッセージがなかったこともがっかりだった。この時、確かにパリは燃えなかった。でも、戦争は今も世界中で続いている。

宝塚歌劇はずっとそうしてきたのだけれど、今の時代にはもう許されない。いや、許してはいけないことだと思う。

小池さんや劇団の上層部は社会の変化をどう捉えているのだろう。演劇やミュージカルはもちろん、映画だってディズニーだってテレビドラマだってアニメだって、時代の変化につれて変わってきている。宝塚歌劇だけは許されているとでも思っているのだろうか。

というような気持ちに蓋をし、公演が終わるまでは考えないようにつとめ、そのまま迎えた千穐楽だった。

舞台で観た『アルカンシェル』は、花組の演者たちがただただいとおしく思えた。

演者たちには疑問が山のようにあったと思う。でも、与えられた作品と役を愛し、観客に疑問を感じさせないように演じることが役者のつとめ。『1789』でアルトワ伯爵を演じた瀬央ゆりあさんを思い出してしまった。あの時も、とても平常心では見ていられなかった場面があったけれど、今回も。演じ切った永久輝せあ、綺城ひか理、輝月ゆうまの三人に敬意を。役ではあっても、演じるにあたっての心的負担が大きすぎたのではないか、カウンセラーをつけた方がいいのではないかと思った。本当にお疲れさまでした。

これから先は心から面白いと思える作品に出合えるよう願うばかり。と書いて、『元禄バロックロック』の時に、開幕前のインタビューか何かで、柚香光さんが言っていた言葉を思い出した。

「台本が本当に面白くて、これを面白く出来なかったら役者の責任です」

『元禄バロックロック』は大好きな作品だから納得だし、こんなふうにきっぱりと言えちゃうところがまためちゃくちゃカッコよかった。

と、『アルカンシェル』については残念だったけれど、配信で見たディナーショーと、そこから続いているようなサヨナラショーがとてもよかった。しみじみよかった。

まず、ディナーショー。

構成がとってもシンプルだった。

歌を聴かせること。ダンスを見せること。仲良しの組子との絆を見せること。別れを惜しむこと。劇団員としての最後のディナーショーだというのに、そのどれにも注力していないように見えて(見せて)、サヨナラすることを忘れてしまうようなさらりと素敵なショーに仕立てられていた。

衣装も素敵だった。フリル、キラキラは一切なし。宝塚のディナーショーぽさが全然ない。カッティングがきれいなスーツを、れいちゃんが着こなすからか、どれもモードっぽい。めちゃくちゃオシャレだった。

そして、驚いたのは『はいからさんが通る』への大きなリスペクトだった。

このディナーショーの少し前に行われた宝塚大劇場でのサヨナラショー(これは配信視聴)も『はいからさんが通る』から始まった。

大階段にフルコスチュームの少尉がいる。サヨナラショーではあまりないことで(ほかの場面も、曲数を抑えて、ほぼフルコスチュームにしていた)、それだけで、柚香光さんが少尉のことを本当に大切にしているのを感じたけれど、まさかディナーショーでもまた来るとは! それも、最初と最後を飾ってですよ!

れいちゃん、『はいからさんが通る』がどれだけ好きなの?

わたしも大好きな役だけど、観客には分からない特別な何かがあるのかもしれない。

と思い、「はいからさん」以降、れいちゃんの演じてきた男役って、本当に少尉だったんだと気づく。もしかしてれいちゃんは、「はいからさん」以降、いや、トップに就任してからだろうか、まず少尉になってから、全ての役を演じていた? 

もっと分かりやすくいうなら、少尉が宝塚におけるれいちゃんの男役ロールモデルだったのかもしれない。

優しくて、きれいで、育ちがよく上品で、頭も冴えて、誰にも分け隔てなく優しく(もちろん女性にも)、他人の痛みがわかり、中立的で正義感の塊。だけど、柔軟性があって、今になって分かるのだけどとっても現代的(時代がやっと少尉に追いついたんです)。その上、女性の趣味がすこぶるよい。欠点といえば人並外れた美貌を持っていること(ええ、もはや欠点だと思う。舞台人として生きづらかっただろうと思う)。

「はははははは」みたいな笑い声も少尉譲りだよね。ロールモデルというより、いつのまにか少尉とれいちゃんが一体化したみたいな感じなのかな。

もちろん違っているかもしれないけれど、この仮説はわたしの中では完全に成立している。

ディナーショーでは『メランコリックジゴロ』で涙が止まらなかった。

舞台で見た時はマイティともどもまだ荒削りだったけれど、今はとても胸を打つ。今のれいちゃんとマイティでこの曲を歌ってほしかった。

大劇場だけでもいいから、水美舞斗さんをサヨナラショーに特出させるくらいのことがなぜできなかったのか。と、心の怒りをここに書かせてください。

サヨナラショーの『二人だけの戦場』での、永久輝せあさんとの掛け合いももちろん良かったけれど、どうしても実現しなかった場面を想像してしまった。

それはさておき、サヨナラショーの後のれいちゃんの退団挨拶がまたすてきだった。

「本日、背中の羽根を下ろしました」

いろんなことがあった宝塚生活だった。でも、どんな時でも影を感じさせずに舞台にいたれいちゃん。トップスターの羽根もさぞや重かったと思う。

この「羽根」は、トップスターの大羽根だけを指すのではなくて、天使から悪魔からフェアリーから獣と、人ならざるものとしての背中に生えた「羽/翼」のことも指しているのかもしれない。

それにしてもなんという晴れやかさだろう。

れいちゃんの心は、もうとっくに宝塚を卒業していたのかもしれない。

♪男役なんてラララララ……

こちらの世界に舞い降りたれいちゃんがどんな姿で現れるのか、その日を楽しみにしている。

卒業おめでとう!

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