山梨のぶどう農家で袋掛けのおてつだいをした学生最後の夏始め。
深夜の4時、大学から出された10枚のレポートを書き終え、目の下にびっしりクマを抱えて山梨県へ。
「君の名は。」のサウンドトラックを聴きながら、ひとり鈍行列車で向かう。めっちゃ良い気持ち。
こんな適当に撮った写真でさえ、思い出が詰まっちゃう。学生最後の夏休みの幕開け。最後の青春感に、ちょっと感情がもっていかれてしまう。色んなことを思い出して、少し切なくなりながら、あの時はこう言えば良かったなとか、あれもう一回食べたいなとか、はぁ頑張ろうとか、そんなループを繰り返して、なんやかんやで最終的には爆睡したのち、到着した。
今回は、葡萄を育てている農家の方のお家でお世話してもらうことになっていた。3日間という短い時間で、シャインマスカットを育てるおてつたびだ。
私にとっては、ほぼ初山梨、ほぼ初農業。
記憶があいまいで初めてかどうか言い切れないので、ちょっと濁しているんだけど、とにかくめちゃくちゃ楽しみにして、やってきた。
山梨市駅で農家さんと初対面して、そのまま寮まで送ってもらった。農家さんって、ジブリとかで見る限りめっちゃ無口でとっかかりにくいから心配していたけど、車の中ではめちゃくちゃ話が盛り上がった。
というか、農家さんがすっごい面白い人で、私が1聞いたら、30くらいは話してくれた。もう相槌すら打てないペースで話してくれるので、質問は相手の声とかぶせて、より大きな声で質問していくスタイルをとっていた。あんまり初対面の人とするコミュニケーションではない。
農家になった経緯とか、農作業のこととか、ご家族のお話とか、「やっぱり田舎って、ご近所さんから色々おすそわけされたりするんですか?」とか。
わたしは、聞きたいことたっくさん抱えてやってきたので、それ以上のエネルギーで答えてくれる農家さんを、すぐに優しくて面白い人だと感じ、最初の10分でもうすでに山梨旅が充実感で溢れていた。
そして、私が「山梨は、サークルの合宿以外では初めてで~」と話すと、
山梨の大定番、ほうとうを食べに連れて行ってくれたり、
もはや観光地化していて、全然ほったらかされていなかった温泉に連れて行ってくれたり、
ぽつぽつと山梨の灯りが心地良く見える場所で、一緒にコーヒー牛乳を飲んでくれたりした。
いちにちの終わりには、「今まで出会った中で、一番よく食べるわ!」と、食いっぷりを褒めてもらった。うれしい。
寮に帰ると、カンボジアからの実習生たちが3人いて、3日間は彼らと一緒に暮らさせてもらうことになった。
自己紹介をすると、テーブルに置いてあったティッシュの箱に、ひらがなで「ひなこ」と書いて、「これ、あってますか?」と聞いてくれた。「あってます、よろしくおねがいします!」と言うと、すっごく優しく笑ってくれた。ここには、良い人たちしかおらんなあ。
翌朝。
8:00からの農作業に備えて、6時にアラームをセットしていたのだけど、その数分前からカンボジアの民謡曲があらゆる場所で流れ出してきたので、笑いながら目を覚ましてしまった。
3人がそれぞれ自分の好きな曲を流している...。「代表者が一曲流せぇ!」と、脳内でノブ的ツッコミをいれながら、スッキリ起きた。こうなってくると、もう、すべてが面白い。
みんな、朝から鹿肉をスパイスで煮て食べていた。キッチンからの匂いが、ベトナムで嗅いだマーケットと同じだった。すごい!
「おにく、たくさんだね!」と言ったら、「おととい、狩ってきた!」と言われてびっくりした。鹿が、わなにかかっていたらしい。
それにしても、器用にさばいていた。かたそうなところをカッターで切りながら、食べやすい切り身にしていた。
狩りも料理もできるんだなあ、すごいなあ、と思いながら準備をして、畑に出る。
ぶどう!シャインマスカット!おいしそう...。
収穫は夏の終わり、8月末だそうだ。ほぼ出来上がりの様にもみえるけど、まだまだ小さいらしく、これから袋をかけて、雨水や虫を予防しながらどんどん熟した大きいぶどうを育てていく。
この畑には、大体二万房のぶどうがある。これに、ひとつひとつ袋を付けるのだ。めちゃくちゃ果てしない。二人がかりで付けていったのに、午前の二時間で、一列の3分の1も終わらなかった。
袋の上には針金が入っていて、それを茎にきゅっと巻き付けるのだけど、簡単なようで慣れない私には難しかった。隙間なく巻き付けないと、雨も虫も入り放題になっちゃうので、丁寧かつスピーディーな作業が必要なのだ。
農作業って待つんじゃなくて、育てているんだな... と、当たり前だけど、知らなかったことを実感した。
午後になって慣れてくると、喋りながらでも淡々とペースを保って付けられるようになった。
「緑の袋と白の袋、何が違うんですか?」と農家さんに聞くと、「期待の差だよ」と教えてくれた。
日の当たり方とか、木の状態とかから「期待できるぶどう」には緑を、「そんなに期待しないぶどう」には白い袋を付けていくらしい。なるほど。
ここでは、カンボジアの人たちが一緒に働いている。もし農家さんが畑に出られなくても「白い方を収穫してきて!」と声を掛けたら収穫してもらえるようにもなっているという。なるほど...!
休憩時間には、農家さんがおやつを買ってきてくれた。
カンボジアの3人が、真っ先に「タピオカミルクティー」を選んでいたのが印象的だった。タピオカ、好きなのかな。
私は、甘いものを摂取して完全復活を遂げた。よし、午後もいくぜ!!
ぶどうの袋掛けは、これまでどれだけ終わって、どれだけ残っているか、一瞬で確認することができる。視覚的に作業量が把握できるところが「やってやるぞ精神」をふつふつと燃やしてくる。午後は、自分の中で「ここまで終わらすぞ」とノルマを課して淡々と付けていた。始める前は、「同じ作業をずっとやるのしんどいだろうな」と思っていたのだけど、不思議と全然飽きなかった。
この日の終わりには、「農作業初めてなのに、とってもセンスありますね!」と、作業っぷりを褒めてもらえた。すごくうれしい。
その日の夜は、みんながカンボジア料理をふるまってくれた。
これ、ナスと鹿のもも肉のスパイス煮。
これ、小松菜と鹿レバー炒め、パクチーのせ。
鹿肉はなかなか癖の強いにおいがしていたけど、スパイスで上手に味が調和されていた。こんなおいしい料理がつくれるなんて、本当にすごい。
「とても、おいしい!」と伝えると「たのしい?」と聞いてくれて、「たのしい!」と言うと、またまたとんでもなく優しく笑って嬉しそうにしてくれた。明日帰るのが、とっても切なくなった瞬間のひとつ。みんな、本当にいい人たちだった。
そうこうしていると、ご近所さんたちが「お~い、いるか~!!」と扉を叩いて色々持ってきてくれた。
こんなにたくさんの苺をみたことはないし、にんじんの葉っぱがこんなにふさふさだったとは知らなかった。全部獲れたてのぴちぴち野菜だが、新鮮であるが故に、何日もずっと同じ食材が続いて食卓にのってしまう理由もわかった。量がコストコの比ではない。これぞ、田舎パワー!
みんなで桃と苺をおつまみに、ビールを飲む。
カンボジアでは、一口飲むたびに乾杯するという文化があるらしく、ひとりがグラスを持ちあげる度に「かんぱ~い!」という流れになって楽しかった。
それにしても、みんなとってもよく食べるし、よく飲む。私が500㎖の缶チューハイを一本飲み切る間に、大きい缶ビールを7本くらいあけていた。かんぱ~いのタイミングが一緒なのに、なぜこんなことが起きるのか...! 不思議だった。
途中、一番若い23歳の人に、カンボジアからテレビ電話がかかってきた。彼女からの電話らしい。「まいにち、でんわ、してる」と、他の2人が教えてくれた。
ここでの生活がすごく楽しそうに見えていて忘れていたけど、たしかにカンボジアに大切な人がたくさんいるんだなと思った。会えないの、寂しいだろうなあ、何を話しているんだろうなあ、と気になった。
電話が終わって、「こいびと、なんて、言ってた?」と聞くと、「おこってた。」と言われた。
「かのじょ、まいにち、おこってる。ぼく、ひるま、メッセージ、できない。おこってる。」
なるほど、、、。返信が遅いのを怒っている訳か...。文化は違えど、彼女が怒る理由は万国共通である。
私が、「かのじょ、寂しいんだね。」と言うと、
「67にちめ。Facebookで、つきあった。まだ、あったことない。かえるころには、わかれている、とおもう。」
「.......。」
知らんけど、複雑な気持ちである。意外にもナウい付き合い方と冷静な分析にクスっとして、そのあとはもう笑いが止まらなかった。みんなでガハガハ笑った。
そんなとっても楽しい飲み会も、翌朝の早朝作業に備えて10時に解散し、それぞれ眠った。
この三日間、私はとても良い経験をすることができた。良い人たちと、自然豊かな環境に囲まれて、純粋に楽しい日々を過ごしていた。いつも自分をよく見せたがってしまう私にとっては、この場所が、多くのことを気にせずガハガハと笑える場所となったことが新鮮で、なによりも嬉しかった。
どうも、ありがとう!
収穫するとき、またこれたらいいな。
追記(2021/10/25)
採れたシャインマスカットを送ってくれました…。
重たくて、指がつりそうです…!
感無量!!ありがとうございました!!!