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スダジイのドングリに異変!?
こんにちは、林務担当です。三宅島や御蔵島の原生林を代表する木であるスダジイ。今回はこの木のドングリに起きている異変について紹介します。
スダジイとそのドングリ
スダジイは伊豆諸島の森林を構成する主要な樹種であるとともに、そのドングリはオーストンヤマガラやカラスバトといった、貴重な野鳥の冬場の食糧になります。伊豆諸島にはドングリのなる木がスダジイしか生えていないため、これらの鳥は食料をスダジイに大きく依存しているといえるでしょう。
このドングリは人間も食べることができ、殻を剥いて生でも、少し炒ってもおいしいです(ちなみに筆者は炒らずに食べるのが好き。どうでもいいですね!)。
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スダジイタマバエによるドングリの凶作
ここ20年ほど伊豆諸島南部の島々ではこのドングリの凶作が続いています。その原因はスダジイタマバエというとても小さい虫。この虫はスダジイの花がつく枝に奇妙な形の虫こぶ(※)を形成し、その中で幼虫が育ちます。幼虫は冬の初めの頃に虫こぶを出て、地面下で蛹になり、春になると羽化してまたスダジイに寄生する、というライフサイクルをもっています。
※虫こぶ:主に昆虫による寄生により、植物の一部が変形してできるこぶ状の突起
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スダジイタマバエの幼虫はこの虫こぶをお家兼食料としています。
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かなりサイケデリックなオレンジ色ですね。よくみるとそこら中にいます!
虫こぶが形成されてしまうとドングリはなりません。青ヶ島、八丈島、御蔵島、三宅島等、伊豆諸島南部では特に被害が大きく、地元の方からも最近はほとんどドングリを見られなくなってしまった…との声をよく聞きます。
もともとスダジイタマバエは九州や南西諸島にいたようですが、南西諸島のものが何らかのルートで伊豆諸島に侵入したと考えられています。新天地である伊豆諸島にはこの虫の天敵がおらず、大発生したようです。さらに最近では伊豆諸島北部の島々や伊豆半島にまで侵入していることが確認され、ドングリに依存している生き物に対する影響が懸念されています(徳田ら2022、2023、文末参考文献参照)。
三宅島における今の被害状況は…(調査方法)
現状でどの程度の木がスダジイタマバエの被害にあっているのか把握するため、2024年11月下旬~2025年1月中旬にかけて、樹冠(※)を観察しやすい林道沿いのスダジイを調査してみました。
三宅島内の三の宮線、伊ヶ谷線、坪田線、南戸線の各林道沿いのスダジイの木110本の樹冠を双眼鏡で観察し、虫こぶの密度を0~4の5段階で評価しました。また、各スダジイの木の樹冠下を観察し、ドングリが何個程度落ちているか、および胸高直径(※)を記録しました。
※樹冠:樹木のうち、葉が茂っている部分
※胸高直径:1.2mの高さにおける、樹木の幹の直径
虫こぶの密度は、以下のように評価しました。
密度0:虫こぶが確認されない
密度1:虫こぶを10個未満確認
密度2:虫こぶがまばらに散在し、10個以上は確認
密度3:虫こぶが樹冠全体にあり、局所的に密に存在
密度4:虫こぶが樹冠全体に密に存在
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三宅島における今の被害状況は…(調査結果)
虫こぶは調査したスダジイ110本のうち、9割以上の木で確認されました。虫こぶがない(=密度0)木についても、すべて胸高直径が20cmより小さい若木だったため、まだ花自体が咲かず、どんぐりがならない木である可能性が高く、実際にはどんぐりのなる木はほぼすべての木が被害を受けていると考えられました。比較的密度が高い密度3、4の木は全体の半分以上であり、依然としてスダジイタマバエによる寄生の影響が大きいことが示唆されました。
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一方、スダジイのドングリに関しては、6割程度の木でドングリを確認することができました。特に数百個単位のドングリが確認できた木も全体の1割ほど見られました。筆者は前年と前前年はほとんどドングリを発見できず、地元の方からもここ数年では一番多い、という声を複数耳にしているので、2024年は最近ではかなりドングリが多くなった年といえるでしょう。
これらのことから、「スダジイタマバエの被害が依然としてありながらも、2024年はドングリが多くなった」と言えそうです。
まとめ
2024年は多くのドングリが確認できましたが、これがスダジイタマバエの被害が依然より収まってきたからなのか、それともたまたまドングリが豊作の年であったからなのかは、今回のデータだけではわかりません。できれば被害が今後収まっていくのかどうか、継続的にデータを取っていくことが望ましいと考えられます。
スダジイタマバエに効果的な対処法は、現在のところ見つかっていません。今後もスダジイのドングリがどうなっていくのか注視していく必要がありそうです。
おわり
参考文献
Tokuda, M., Kawauchi, K., Matsuda, H., Naito, A., So, Y., Elsayed, A.K., Kikuchi, T. and Kotaka, N. (2022) Hundreds of billions of silent outbreaks: A historic outbreak record of the gall midge Schizomyia castanopsisae (Diptera: Cecidomyiidae) on the Izu Islands, Tokyo, Japan, and its potential mechanism. Entomological Science, 25: e12524. https://doi.org/10.1111/ens.12524
Tokuda, M., So, Y. & Kotaka, N. (2023) Discovery of the gall midge Schizomyia castanopsisae (Diptera: Cecidomyiidae) inducing inflorescence galls on Castanopsis sieboldii (Fagaceae) from Honshu, Japan and the possibility of its recent range expansion. Appl Entomol Zool 58, 315–322. https://doi.org/10.1007/s13355-023-00834-9