森づくり推進プランのご紹介 ~前編~
みなさん、こんにちは。林務担当です。
今回は、「森づくり推進プラン」のご紹介です。
このほど東京都では、東京の森林・林業の役割や現状と課題等を整理した上で、森林整備と林業振興に向けた施策を展開していくために、令和3年6月に森づくり推進プランを改定しました。
記事では、前編後編の2回に分けてその内容をご紹介していきます。
まず、前編では、東京の森林・林業を取り巻く状況と抱える課題についてお伝えしていきます。
東京の森林・林業の概要については、本記事ではあまり触れませんので、詳しくお知りになりたい方は以前の記事をご覧ください。
1.社会情勢の変化
さて、あまり馴染みが無いと思われる森林・林業業界ですが、日々新しい動きが生まれています。
その一つが、森林環境税及び森林環境譲与税制度の創設です。
森林を適切に手入れして管理することは、地球温暖化の防止や国土の保全等、一人一人の生活に恩恵を与えてくれます。しかしながら、担い手の不足等により、整備の遅れが目立つ森林が多く存在しています。
間伐不足により下層植生が衰退している人工林
適切に間伐されている人工林
そのような中で、平成31年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立し、各自治体が主体となって森林整備を進めていくための新たな財源が確保されることとなりました。
区市町村への森林環境譲与税は、森林整備や木材利用等に関する費用に充てることとされており、森林の整備の進展や山村の振興、都市部の住民の森林・林業への理解が進むことが期待されています。
また、技術的な面においても、進展があります。
人口が将来的に減少していくと予測される中で、森林整備の担い手不足等の影響が懸念されています。その状況を踏まえ、ドローンによる業務の省力化や航空レーザ計測による効率的な森林状況の把握といった、先端技術の活用が始まっています。
これらの新しい技術を上手に取り入れていくことで、森林・林業業界が活性化していくことが望まれています。
航空レーザ計測のイメージ
航空レーザ計測に基づく高精度な地形データ
(赤線:尾根、青線:谷、白線:林道)
2.森林整備における現状と課題
先にも書いたように、手入れがなされていない森林が目立つ状況ですが、その大きな要因の1つが、担い手の不足です。主な担い手は林業従事者になりますが、従業者数は全国的に長らく減少傾向にあります。
東京都では、地道な労働力対策等により、近年減少に歯止めが掛かってはいますが、収入の不安定さや技術の継承等、依然として従業者数の確保に向けては課題が山積している状況です。こういった課題を解決して、森林整備の担い手を安定的に確保していくことが大きく求められています。
都内の林業就業者数
森林作業道を整備する技術者
一方で、林業業界の環境改善だけでなく、地域の資源である森林を多様に活用し、都民と森林の関わりを深めるとともに、地域の産業振興に貢献していくこともとても重要です。三宅支庁のある島しょ地域でも、特徴的な森林景観が広がっており、巨樹や固有種が観光資源として注目を浴びています。
ツバキ油やツゲ・クワの木工品といった特産物も含め、これらの資源を有効に活用して産業振興を図るためにも、アクセス道の整備や伐採後の再造林などを着実に進めていく必要があります。
御蔵島の森林景観
雄山環状林道(三宅島)からの眺望
3.林業経営における現状と課題
林業経営を持続させていくためには、木材を使っていかなければなりませんが、量として一番使うことができるのが、住宅等の建築物になります。そこで東京都では、「公共建築物等における多摩産材利用推進方針」に沿って、都の公共建築物等において率先的な多摩産材の利用に努めています。
東京都公文書館
しかしながら、都内公共建築物の木造率は全国平均と比べて低く、より一層の活用が求められています。今夏の東京2020オリンピックパラリンピックにおける、木材をふんだんに使用した各種施設が記憶に新しいところではありますが、この流れに乗って木材利用の拡大を図っていきたいですね。
ちなみに、人口減に伴い、新築住宅の需要の縮小が見込まれていることから、商業施設などにおける需要の拡大が今後は必要となってきます。そのような施設が集中する東京では、潜在的な可能性が大きく、全国から期待が寄せられているところです。
国産木材(多摩産材)を用いたオフィス空間
適切な森づくりを行っていく上では、今回挙げた課題だけでなく、様々な課題が複雑に関係しあっています。そのどれもが、一朝一夕には解決できるものではありませんが、地道に粘り強く対応していくことが求められています。
以上、前編では、森づくり推進プランの中から、東京都の森林・林業の現状と課題について簡単にお伝えさせて頂きました。
後編では、引き続きプランに沿って、それらの課題をどういった視点で解決していくかの展望について、ご説明していきたいと思います。