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“Y=50”が示す真実。成果は毎日リセットされる。何度でも乱数を引ける社会へ。運がもたらすブレイクスルー。
2022年イグノーベル賞の経済学賞を受賞した「Talent vs Luck: the role of randomness in success and failure」(才能 vs 運、成功と失敗におけるランダム性の役割)という研究によれば、才能や努力と成功との間には有意な相関が見いだせない一方で、成功と運との間には強い相関が認められると結論づけられている。
そこで、この研究を踏まえ、ちょっとした数学的お遊びを試みた。
40年間の成果データを疑似乱数で生成し、散布図を用いて可視化した。データの生成は、0〜100%の範囲で疑似乱数を用いて40年分の成果を作成するという方法で、各年の「成功確率」は一様乱数に従うものとし、才能や努力といった要因は含めないで作図した。
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この散布図において、仮に「努力年数と才能、そして成果の間に線形関係がある」と想定して回帰直線を引こうとすると、多くの人は次のような直線を描きたがるだろう。
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つまり、
Y(成果)=a(努力の度合)×X(時間)+b(才能)
という形だ。「もともと持っている才能に加えて、たくさん努力したから成功するのだ」というイメージである。なんとも不思議なもので、この線上に点々が乗っかっているように見えてしまう。
しかし、実際にこの散布図を回帰分析するとどうなるか。
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答えは Y=50 なのだ。
平均値である50付近を水平に通るラインが、回帰の指標として最も優勢になる。これはどういうことかというと、才能や努力がゼロだとしても、すべての人にとってスタートは50%ということ。そして、今日どんな結果が出ようとも、明日の朝にはまた50にリセットされる。つまり、”Y=50”という数式は「成果は運に大きく左右される」ことを示唆している。
ここから導かれる考察
「努力は報われる」とか「才能がある人が成功する」といったロマンチックな考え方には、意外と突っ込みどころが多い。成果が出たときに「あいつは才能がある」「努力の人だ」ともてはやされがちだが、実際には「スタート時点が思った以上に恵まれていた」「運がよかった」という要因が大きいのだと認識したほうがよい。
「成功は才能や努力だけでなく、相当な部分が運に左右される」という認識を社会が共有するほうが、むしろ健全だろう。そして成功がランダムである以上、何度でもランダムの“チケット”を引ける環境が重要になる。
本当に大事なのは、「どれだけ挑戦できる環境に身を置けるか」とか、「どのようなネットワークがあるか」。言い換えれば、本人の才能や努力よりも「いかに偶然のチャンスを活かせる場所にいるか」という点こそが重要だ。
また、成功した人のなかには「俺は努力した!」と声高に言う人がいるものだが、そういうタイプは敬遠されがちだ。だから「いやいや、あなたの努力だけじゃなくて、かなりの割合で運に助けられましたよね?」というツッコミを入れてあげましょう。逆に、失敗した人が「今回は残念だったわ」とオープンに話せる人こそ新しいチャンスを呼び込めると思う。そういうマインドは人から共感され好意を持たれる結果につながるものだ。「失敗」こそチャンスを生かす場所そのものと認識したほうがいい。
日本社会は意外にも“失敗の共有”が苦手で、“成功の自慢”や”成功のお手本話”ばかりが目立つ。しかし、長い目で見ると、失敗体験が集積してはじめて“大きな成功”を生むのではないだろうか。残念なことに失敗体験は尻込みしてしまう。
何より大切なのは「毎日リセットされる」というマインドセット
今日成功した人も、失敗した人も、等しく明日はまた”50”からスタートするということだ。挑戦する限り”0”でない、50%からのスタートだ。みんなが「何度でもトライできる」土壌があると認識すべきだ。
「才能がない」「努力が足りない」といった言い訳はやめて、まずはみんなでスタートラインに立ち、乱数を引いてみよう。何かに当たるかもしれないし、外れるかもしれない。でも、何もしない人には“当たる権利”すら巡ってこない。社会をブレイクスルーさせるのは、まさにこうした“トライアンドエラー”ではないだろうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。ここまでお読みくださった方の多くは、きっと努力や才能を信じて頑張り続けていることでしょう。もちろん、私は努力や才能を否定するつもりはありません。むしろ、チャレンジするうえで努力や才能は欠かせないものだと思います。そして、このまで読んでくださっているあなたは、すでに一歩先んじています。自分の力を信じ、努力を惜しまない姿勢で毎日を迎えていることでしょう。――それ自体が、一つの“成功”の形と言えるのだから。