ハッシュタグRTした人の小説を読みに行く 感想置き場。

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NO.1
女子高生の私がオッサンに変身するだけの話 ~馬鹿げた能力も使いようと思ったけど、オッサンの姿に親友が惚れてしまって困ってます~
作者:GAN

 流れ星の光を受けた女性達が特殊能力を得た世界で、スルメイカ喰ったらおっさんになる能力を持った女子の話。発想がとことん面白い。おっさんになる能力だけじゃなくておばさんになる男子もいるよ。
 こんな設定なのに変身モノのセオリーに結構しっかりと則った序盤で、こういうのを好きで読んでらっしゃる方なんだろうなあというのが想像できて好印象。文章もだいぶ読みやすい。割とTLの方にも好きな人いるな、のテイスト。ズンズン読めちゃう。
 創作物の魅力とは一にキャラクターである、ってのはよく言われることだけれど、この作品も個性的なキャラクターを打ち出していくのに余念がない。
 たとえば漫画家ゆえにいつもネタを探している賑やかし要員でもある友達の紗季とか、連載序盤の方からおっさんになっちゃった主人公に惚れちゃう蛍ちゃんとか、透視能力で友達が自分から離れていったけど能力自体はそうまんざらでもなさそうな悟とか、後は前述のおばさんになっちゃう花畑くん。そんなコメディとして面白くなりそうなキャラをぽんぽこ導入していくので自然に笑える。
 日常コメディは軽く読めるのでWEB小説に適しているし、愛着の湧くキャラを使って色々なことができるのが強みなのだということを魅せてくれる。
 花畑くんパートは番外編となっているけど、作品全体を通して見た時にもう一人の主人公といった感じになっていて、そんな風にちょこちょこ視点が変わっていくのも読みやすさの理由の一つかも。
 小鳥遊先生がお気に入り。ああいうちょっとぶっ飛んだ研究者キャラが好きなので。主人公の陣子は(当たり前だけど)自分の能力をバレたくないと思っているところ、その能力を面白おかしく観察しようとする紗季や小鳥遊先生のおかげでストーリーが転がっていくのでそこも楽しい。陣子かわいそう。
 コメディらしく個性的なキャラクターがどんどん投入されていく。端役とかも良い感じ。兄貴と愚弟の双子とかもインパクトがある。
 強いて言うなら、これだけ絵に映えそうなキャラを生み出しながらも『小説家になろう』投稿作なので挿絵とかはないことか。漫画原作として普通に面白そうなので有名になってそういう展開をしていくことも妄想しちゃいますね。
 更新頻度は現在はスローペース気味のようですが、絶賛連載中であり、今後の展開にも期待。このまま読み続けさせてもらおうと思います!


NO.2
オークに捕まった女騎士が、そのオークと力を合わせて戦争を終わらせる話
作者:木船田ヒロマル

 キャッチーに見えるタイトルとは裏腹にかなり真面目な雰囲気のハイファンタジー。主人公の女騎士がオークに捕まるところから物語は始まりますが、物語序盤から実のところオーク達魔物と呼ばれる種族も人間であることがわかる。これだけでもかなり惹かれる設定。戦争相手を鬼や悪魔のように言って士気を上げるというのは、実際の戦争でも使われた手法であり、女騎士グリステルも自分達が戦っている相手が人間であることを知らなかった。それだけでも面白いですが、エルフとドワーフ、ドラゴンとファンタジー王道の種族も顔を見せ、グリステルとオークの仲間ザジや他の仲間たちと共に世界を駆け、戦争を止める為に戦う様がめちゃくちゃに面白い。
 章ごとに視点が変わっていくのはWEB小説的にも読みやすい。章から章ごとの空白の期間に何があったのか気になってしまうのも巧みで、特に私は『商家の幽霊男』の章で完全にこの形式の面白さに引き込まれました。捕まった場所から抜け出したグリステルに助けられ、恋をしてしまったウルリチが本章の語り部ですが、彼がグリステルの正体を探る為に彼女の痕跡を追う様子が、そのまま世界観的の提示にもなっているんですよね。それまでグリステルとザジの初めての冒険を魅せてくれた後の章なので、これがまた面白いこと面白いこと。
 それからもグリステルが男装したり、将として活躍したり、仲間との別れと、子供の頃に慣れ親しんだファンタジーの世界そのままの冒険譚が語られていくのにわくわくする。
 影の民のヴァハ将軍が好き。そのキャラクター性もそうですが、彼は敵国の将軍らしく、物語がクライマックスとなるところに混沌を持ち寄らせた。
 好きなシーンはクロビスの再登場シーンですね。初登場してグリステルとの冒険を繰り広げられた展開を見せられてからずっと「これは絶対に再登場シーン格好良くなるじゃん」と、彼の再登場を今か今かと待ち望みながら読んでいたので、こちらの期待を裏切ることなく彼が現れた瞬間には「待ってました!」と興奮しましたとも。こういう、のを外さないところがこの作品は本当に良い。
 投稿は2年前の完結作品ですが、この感想を見て「読んでみようかな」とちょっとでも思った人がいたのであれば、まずは一話、開いてみることをおすすめします。
 期待を裏切らない、最高にワクワクする春光の騎士の冒険譚がそこにある。


NO.3
ふたくち女忍者フタミちゃん
作者:神笠桜太

 大江戸妖怪ミステリー。というと大仰過ぎるか。なお余談ですが大江戸ミステリーというと『当て屋の椿』という漫画が私は大好きです。関係ねえ。
 作者様が作品紹介にも書いていますが、本質はライトなノリのコメディ。妖怪が当たり前に存在する江戸で忍者である二口女の二美が主役。ぼくっ娘だ、わーい。
 江戸の忍者という語り部なのが、妖怪もまぜまぜされた江戸が舞台の探偵モノといった趣き。特殊な世界観であるのもあって最初は少しノリにくいものがあったものの、キャラクターと世界観に慣れてきた『そのよん 四ツ目の遊興漁色』くらいからはかなり楽しんで読みました。あのお話で出てくる尼が「このお話なら正体はこうだろうなあ」と思わせつつも前述の江戸舞台の探偵モノの雰囲気をしっかり出してくれたのが良かった。また後半に入ると、二美の恋あり、相棒の外印の大ネタありと、尻上がりにお話も盛り上がっていく。そう考えると一冊の小説としてかなり理想的なペースかもしれない。キュウビのバトルとかもそう。中盤切ってからのこういう話、大抵ワクワクする。
 更新を挟んでの場面転換がいささか唐突で読みづらく感じたのでそのあたりをうまく体裁整えてほしかった。
 妖怪と人間の共存する、不思議な江戸が舞台だけれど、起こる事件は結構ちゃんと時代物として面白くて、ゆるく読めるコメディ作品でありつつ時代考証がしっかりしているのが味。日本のあやかしのみならず海外に伝わる妖怪変化達も絡んできて、妖怪モノとしての面白さもバッチリ。世の中には創作妖怪が多く出てくる妖怪モノも結構あるけど、知っている妖怪がどんな形で現れるのかを見ていくの、妖怪モノの楽しみの一つだからね。
 キャラの魅力よし、世界観よし、歴史モノとしての面白さよし、と文芸作品としてレベルが高い。アニメってよりドラマ化してほしい。
 主人公の二美が普通に好きです。途中は前述の通りの大江戸物語が展開されるので、二口女という特徴があまり活かされていないと思っていたら、お話が二美の恋話に入ってきてからの彼女の二口女のキャラクターとしての表現の豊かなことよ。主役の魅力がそのまま物語の魅力に繋がっているのって当たり前なようで中々難しいけど、本作は素直に二美を好きになっちゃった。最後の方は浮かれポンチ過ぎない?とも思うけどそこも良い笑
 二美が祝言を上げて、しかも時代は黒船来航!? といったヒキで終わるのも良い。続けようと思えば続けられるし、一つのお話がひと段落して次の時代が始まる。綺麗にオチている。
 とっても楽しゅうござんした。


NO.4
憧れの美人女性警官の身体になった天才柔道家の少年は、廃墟と化した日本の隔離地方都市でバイオハザードに立ち向かう
作者:斉藤タミヤ

 大地震で崩壊し、孤立した街を舞台とするバトルホラー作品。
 作者本人が「バイオハザードに影響を受けた」と言っているだけあり、アニメやゲームシナリオの脚本っぽい。だからというのもありますが、お話としては面白いけれど、小説として読むにはチューニングの足りてなさを感じました。地の文がその時その時の説明文みたいになってしまっているので、この感じで進むなら下手に地の文を増やすよりも軽妙なセリフ劇とかで魅せた方が本作の場合は良さそう。その辺りまだまだ伸びしろの感じる作品なので、どんどん書いて、作品のリアリティラインやキャラ造形などをもっとブラッシュアップして、どんどん力をつけたらもっと面白くなるだろうな、というのが一読者としての感想です。たとえば祭田なんかは頼れる相棒であり、自分の身も顧みずに主人公を支えることのできる、この作品に不可欠なキャラクターですが、記憶喪失の演技をしている主人公に対しての不躾な言動が目立ち、せっかくのキャラの魅力が曇ってしまっている。これはキャラの言動や性格を変える、というわけではなく、主人公の応対や他のキャラとの絡みでいくらでも読者き与える印象を変えることができるもので、もっともっと魅力的な祭田が見たかった、と。そういう作者が良いと思ったキャラクターを読者にズレない形で届けるのも創作の醍醐味の一つ。作品を細部まで読んでみると、作者のキャラクターへの愛が詰まっていることは十分に読み取れるので、それをもっともっと届けてくれ!!
 御堂お姉さんや芽依さんの素性、そしてラスボスのアスタロト・ロゼロとの最終決戦に至るまで、各キャラの背後にあらゆる伏線をしっかりと張ってラストに向かうので物語全体としての面白さは保証します。
 後は周りを固める文体、設定などでもっともっと盛り上げてもらいたかった。
 タイトル通り本作は一種のTSものでもあり、元男だったのに憧れの女性、御堂お姉さんの身体になってしまい戸惑う主人公の様子が楽しめます。これまたタイトル通り主人公は天才柔道家でもあり、孤立した街に跋扈するバケモノ達を人間の身で、人間の扱う武道で相対する様はなかなかに痛快。しかしそんな彼の正体にも隠された真実が……というのがクライマックスを彩る本作の面白さになっており、このどんでん返し、めちゃくちゃ好き。正直、自分のヘキにドンピシャで刺さった。
 そうした他の読者にも是非とも最後まで読んでほしいと思わせてくれる仕掛けは素晴らしく、作者の今後の活躍に期待です!


NO.5
黒猫姫さまと灰色下僕
作者:迷迷迷迷

 冒頭から人さらいの一味に襲われて今にも生贄にされそうな二人を主軸とした異世界冒険ファンタジー。
 ──なのですが、まだまだ未完成といった具合の作品です。色々と作者のやりたいようにやっている作品で、今後の展開によってはどんな方向にも転がりようのありそうなお話。
 全体的に説明的な地の文が多く、もっと削っていけるものと思います。長く書いていく為にはむしろ一つ一つの描写は短い方がよくて、キャラクター周りの情景描写とキャラクターの心理描写以外は基本的にいらなかったなあ、と。
 おそらくは、独白のような地の文はできる限り廃して、三人称文体で色々なキャラクターの目線で物語を進めていこうというのが作者の意図だと思うのですが、淡々とした文章の中にも、キャラクターに共感できるような描写はほしい。
 共感というのは決して、そのキャラクターに感情移入をさせるということだけを指すわけじゃなくて、今このキャラは何故こんな行動をしているのか、何故こういう考えをしているのか、というのをある程度は読者側が納得できるような話運びが良いな、ということです。
 それともシリーズ物のようなのでこの話はここで終わり、ということなのかな? その辺りも正直不透明に感じました。提示されている文章だけでは世界観が掴みにくいのもノリにくいポイント。姫さまの苺パンツとか神についての哲学問答とかが、ギャグなのかシリアスなのか、どういうスタンスで読めばいいのかに迷った。
 とは言え、姫さまとキンシのバディは結構いい感じですね。素直(?)なキンシに対して哲学的な物言いをするかと思えば突拍子もない行動もする姫さま。無軌道に動くコンビなので、その後の展開が予想しづらく、それが物語へのワクワク感とも直結できるようなキャラデザインだと思います。
 今回応募いただいた本作以外にもかなりの量を書いている作者様のようですので、どんどん書いて、この魅力的なキャラクター達を完璧に読者に魅せられるような力を身につけられることをお祈り申し上げます!


NO.6
砂時計の王子 〜episode 0〜
作者:まこちー

 ゲームシナリオを想定した物語『砂時計の王子』その過去編。本編である『砂時計の王子』は以前読んでいたので、その世界観を広げる一作ということで楽しく読ませていただきました。
 本編『砂時計の王子』の完結後、物語の舞台であるシャフマ王国成立に隠されている千年前の血塗られた歴史を、現代の王子アレストが読む、という形で物語は進みます。
 長編作品のエピソードゼロってなんでこんなに心躍るんですかね。
 元々が小説ではなくゲームシナリオとして描かれている、という作品ですが、全体としてプロット部分しか描かれていない印象がありました。アレストが読んでいる本の内容である、という入れ子構造ではあるのでそれでも全然受け入れられることは受け入れられるのですが、過去のシャフマを巡るそれぞれのキャラクターの背景設定や、色々な絡みなどもおそらく作者の頭の中にはもっとあると思うので、その辺りの細かい部分をもうちょっと詰めることは出来そう。
 たとえば、本作では人を神にするシャフマの装置“砂時計”誕生秘話が語られますが、砂時計を受けて神となった初代王子ヴィクターと、砂時計の設計図を考案した地主ガーギルの関係性が私は好きです。「一柱の神さえいれば」と考えていたヴィクターが、同じ考えを持ち、そしてその考えを形にしようとしていたガーギルに出会う、というキャラクター同士が出会う化学反応が良いんですよ。多分本作で描かれてるよりも濃密な絡みもあっただろうなあ、と私は勝手に睨んでいます。というかそうであってほしい笑
 そういう、痒いところに微妙に手が届かんなー! な部分がありました。この辺りは今後の作者様の活躍に対する期待ポイントですね。
 作品全体としては、信仰対立によって紛争が続き、満足な暮らしも出来なかった地に、たった一柱の神さまを創造することで平和を打ち立てる、という筋書き。そこに至るまでの“健康な子どもに優先して食糧を配給する”政策が、一つのミステリー要素にもなっていて、良い緊張感を与えてくれています。
 何故そのような政策を地主ガーギルは考え、そして実行したのか。本編を経験している読者なら、砂時計の正体をわかっているので想像もつくわけですが、それでもその結果を見せられるまでの話には目をうばわれました。
 続編も執筆されている、とのことですので作者が紡ぐこの“砂時計”の世界観を是非とも今後も追いかけていきたいです。


NO.7
きっとこのキッドナップワープ
作者:欅御太郎

 ワープマシンが移動手段となった世界、学校や家庭、周囲と上手く行っていない少年、八重が、数少ない会話のできる祖父、葵との交流も交えて送る近未来SF──かと思いきや、冒険スペースオペラになっている小説。
 いつものようにワープマシンを利用した筈なのに、八重を待っていたのは見知らぬ部屋。そこは遥か宇宙の別の星で、八重はその星の代理戦争であるコロシアムの“仕合”に出場させる為に誘拐されたのだった。
 周囲との違いに悩む青少年が、違う世界の冒険を通して成長し、最後には日常に帰ってくるクラシカルな児童文学になっていて、確かな読み応えのある作品です。
 コロシアムの戦士として戦っていたかと思うと、第三勢力たるレジスタンスが現れ、そのレジスタンスと共に自分と同じように他の星から連れられて来た元剣闘士との解放運動を行うことに。そこで仲間になったヒロインとの絡みもありつつ活動していくが、レジスタンスのリーダーの思惑にも隠されたものがあり……というのも王道の展開で、終始ワクワクを提供してくれました。
 コロシアムでもレジスタンスでも、色々な星から連れられて来た人々が交流する為に翻訳機が利用されるのですが、その翻訳機を使った物語上の仕掛けなどもあり、飽きさせない。
 物語の舞台となる星に生きるのは、子どもがうまれなくなり、身体も生身を捨てた人類で、だから貴重な自分たちの命を使って戦争をしない為に他の星から、自分たちと似た水準の人類を誘拐して代理戦争をさせる、と設定も興味深くて良い。ただ、ところどころの説明が一息に長く、この辺りは分散して明かして行った方がもっとリーダビリティがあるんじゃないかと思ったところ。
 八重以外にも、対戦相手のランクェットやレジスタンスのリーダーであるフチェラ、レジスタンスの仲間になるマールやクォ、また八重を誘拐した国の首相ゴンゴマや、カロセロ、キセ……。多くのキャラクターが登場するにも関わらず、その誰にもが共感できる背景が用意されているのも、この物語に没入するのに一役買っている。
 王道の冒険ファンタジーだけれど、舞台は宇宙の別惑星、というのは意外とWeb小説で見ない設定だと思うので、その辺りも本作の強みです。少なくとも私は、この作品のキャラクターを好きになったし、きっとこの世界観にドンピシャでハマることのできる読者はいっぱいいると思う。
 お気に入りのキャラはフチェラとクォ。レジスタンスのリーダーとして戦いを続けるフチェラと、その後ろを着いて来続けた技術者クォの関係が愛おしい。
 期待した通りの物語が展開されるこのSF冒険文学を、是非とも皆にも味わってほしいと思いました。


NO.8
神秘の美少女戦士ヴァルキュリア ~男子高校生ですが、憧れの美少女戦士を始めました~
作者:KSD・アリステリア

 美少女戦士アニメが好きな高校生、陽翔が憧れの美少女戦士になってしまう物語。
 街に現れた魔物から咄嗟に幼馴染を助けたことで死の淵を彷徨い、女神から闇の魔物と戦う為の力を陽翔は授かるのですが、魔物の初登場時の絶望感が強く、ダークな路線に進むのかと思いきや、魔物との戦いよりも美少女戦士になったことで変化した周りの環境にも振り回されていくラブコメの方が主軸。
 魅力的なキャラクターが次から次へと導入され、それぞれが恋やイジメ、スクールカーストなど、等身大の高校生らしい青春を送るお話が展開されます。
 序盤の魔物のエグさだけホントに面食らったので、美少女戦士になってしまう大事なエピソードだから衝撃を与えたい、というのもわかるのですが、この作風だったらもう少し抑えた描写でも良かったのかも……? とも思うのですが、本作は連載中の作品であり、また魔物を生み出す負の感情の核となりうるくらいに鬱屈した心の持ち主が現れたりと、青春ラブコメの雰囲気をひっくり返していく展開がこれからあって、この先もしかしたら魔物との初遭遇時の衝撃が薄れているかもしれない陽翔に試練が待ち受けているかもしれず、どう転がっていくのか期待です。
 前述の通り、学校生活の青春ラブコメが主軸であることもあり、主人公が男子高校生で、幼馴染の絆星姫きらりや、“天使”瑠麒るき、その他にも友達の元基や部活の先輩でイケメン女子高生の渚など、学校生活を彩る多彩な登場人物が次々に登場していく様は、学園ライトノベルと朝の魔法少女アニメの良いとこどりを目指しているかのような欲張りな作品になっているのが好印象。
 特徴的な名前のキャラが多いので、こちらも最初は面食らい、読みづらいのでは? なんて心配もしましたが、杞憂でした。作者が段々と作風に慣れていったのか、名前の読み方を忘れない頃にちゃんとルビを振ってくれていたりと親切。中盤以降はそんな心配をしていたことなど完全に忘れて物語に没頭することができました。こうしたちょっと心遣いも嬉しいですね。
 主人公は本来、コスプレなどをする性格ではなく、美少女戦士は彼女たちだからこそ良い、みたいな考えもあるようなファンですが、いざ自分が美少女戦士に変身するとニヤけてしまったり、かと思うと、美少女戦士になったからには誰よりも美少女戦士でありたい、と意気込んだりする。美少女戦士を馬鹿にされることは何よりも許せず、そのことになると誰よりも頑固で、誰よりも優しくなれる性格なのが好感触。彼に惹かれる色々なキャラクターが現れるけれど、それにも説得力がある描写でイヤミではありませんでした。
 更新は現在、スローペースにはなっているようですが、連載の続きを楽しみにしています!

No.9
【プロト版】ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?
作者:那珂乃

 メトリアと呼ばれる神秘的な力を持つ者達がいる世界で、特別なメトリアである「星」のメモリアを宿すことになった少年ハルが経験することになる冒険ファンタジー。
 vol.2の第一章まで拝読させていただきました。
 少し気弱なところも見せる純真な少年ハルや、彼を冒険の旅に誘う指導者ウィルをはじめとした、大きく広がる世界観が魅力。
 漫画やビデオゲーム、電車などといった現代的なものもありながらも、どこか淡い雰囲気のあるファンタジー世界は、読者もハルと一緒に冒険しがいのある物語ではないでしょうか。
 世界の広がりが作者様の中で大きく展開しているのでしょう。登場人物の発する言葉やハルの住む故郷、訪れることになる街の描写をとても楽しんで描いているのだろうな、というのが沸々と伝わってくるのが好印象。
 少しばかり説明過多かな?という印象もありましたが、それを補うキャラクターの魅力があり、お話をぐいぐいと読ませてくれます。
 ハルもまた、ただただ冒険に憧れて、外の世界を見せてくれることになるウィルに着いてきただけではなく、彼には彼の大事な気持ちから旅をはじめたこともvol.1の終盤でわかっていくのは良い構成。
 星のメモリアを宿し星剣を手に入れる旅にハルを送り出し家で待つ“ヒロイン”皐月の存在がいちいちハルの中で大きいのが可愛らしくて好き。
 そんな皐月もvol.2以降、重要なパーティの一人になっていきそうなのもグッと来ますね。
 vol.2は前章までの雰囲気とはガラリと変わって、星剣を手に入れたはいいものの、まだまだヘッポコと言っていいハルが自身の力を故郷で修行していくところから始まるのですが、そういった、物語を丁寧に運ぼうとする展開も、作品への愛を感じられました。
 まだまだこの先どうなっていくかはわかりませんが、vol.1ではハルのバディ関係になった少女マッキーナの成長が楽しみ、と思いました。色々なことを他者に決められていた少女が、ハルやちょっくらちゃらんぽらんなウィルと関わっていくことでどういう動きを見せるのか。そういった“先”をわくわくさせてくれるキャラの配置も楽しいですね。ウィル、良いですね。決してしっかりしているとは言い切れない指導者(大人)のキャラクターにも良い意味で“ヘキ”を感じます。
 今後の展開も是非追わせていただきたいと思います!

No.10
TGX・ポンコツ賢者 でも、世界〝は〟救えますか?
作者:秋乃晃

 死んでしまうとは何事だ!
 MMORPG世界に転生させられてしまった女の子カイリの、涙あり笑いありのMMORPGファンタジー。
 リーダリビリティ、つまり「先に先に読ませる力」が尋常でなく強い作品です。
 物語を読み進めさせるのに必要なものとして“違和感”や“謎”があります。「どうしてこんなことに?」「このキャラはこの後どうなるの?」「このお話の真相は?」など、先が気になる仕掛けを物語に施すことで、読者にワクワクを提供するわけですね。
 本作においては、そうした物語の謎や違和感がかなりバランス良く配置されています。
 まずそもそも「MMORPGに転生って何?」なんですよね。
 本作は、主人公が生前プレイしていたゲーム世界と同じ登場人物が住む世界だとかMMORPGっぽい設定のある異世界とかではなく「実際に存在して、一般プレイヤーもいるMMORPGのゲーム内に転生させられてしまう」という話。
 主人公カイリを転生させた“女神”枠の宮城創も詳しいことを教えてくれないし、カイリも何というか、良い感じにポヤポヤしているのでその辺りのことをスルーしていく。
 season2で更にもう一人、転生者がパーティに加わりますが、こいつも自分の目的以外細かいことはどうでも良い奴で、やっぱり物語の革新には触れてくれない。
 その為、読者は「どういうこと!?」と疑問符を頭に浮かべながら読み進めることになるのですが、そんな中でもゲーム内で最初に出会うことになる上に同じ転生者でもあるお嬢様言葉のルナ、ルナを慕いルナも手を焼くカイリに嫉妬する一般プレイヤーのレモンティとの掛け合いがしっかりとドラマとして機能しているので「わからないけどとりあえず置いておく」謎として安心して読むことができます。このバランスが素晴らしい。
 また、ルナのキャラクターも強烈で、彼女もまた隠された過去があるんだろうな、というのが(というかその謎の答えは割と読者にはわかりやすく提示されている気もしますが)ショートレンジの謎にもなっていたり。
 読んでいくと、この作品が作者様の他作品ともゆるく繋がっていることを仄めかすような描写も出てくるのですが、上記のような作りの為、そこまで気にならない、というか、寧ろこの物語世界の広がりをもっと知りたいと思わせてくれます。
 お嬢様言葉のルナが好きです。初っ端から転生者であることがわかっているので、こんなキャラ作りまくってる奴になんも裏がねえわけねえだろ、というようなキャラなのですが、案の定隠された真実がある人物。裏が明かされてからはぶっちゃけ過ぎ感があるのも好き。
 分量も10万字ちょっとと読み易い分量で完結しているので、是非とも一気読みを推奨します。

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