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『AUTO HALL CITY』Chapter11:Black kitty's diary(ノエルの日記)

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 あー、テステス。
(間)

 3月22日。逃亡生活1日目。
 私はノエル。今日からお姉ちゃんのスノウ共々、ロビンさんのところでお世話になることになった。
 それに伴い、以前から付けていた日記を改めて付け直すことにする。
 この日記を録音する為に、ロビンさんから未接続オフラインの端末機器を貰った。何から何までお世話になりっ放しで頭が上がらない。
 私から見て、ロビンさんは服装ファッション格好良いクールな理想の女性と言った感じ。
 本業は情報屋だそうで、秘密基地セーフハウスに移ってからも一日中、画面ディスプレイと睨めっこして仕事している。

 そんなロビンさんの為に、ここに置いてくれる代わりにと、お姉ちゃんの提案で、私達姉妹で皆の料理を作ることになった。と言っても料理行程の殆どがお姉ちゃん任せなので、私も何かしたいと部屋の掃除を申し出たら「精密機器ばかりだから勘弁ね」とロビンさんに断られてしゅんとした。

 元々、お姉ちゃんと二人、この街で生きるのにも慎重だった私達だが、今はその時以上に慎重にならざるを得ない。
 組織から逃げ出したこと、逆らったことで私達姉妹はいつ制裁を受けるとも知れないからだ。

 私も誘拐された時のトラウマが癒えていないようで、街の外を見るだけで動悸がしてくるから、どのみち外に出ることはできないのだけど。

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 3月24日。逃亡生活3日目。
 私達の秘密基地セーフハウスに、ロビンさんの上司だというタハラさんという方が訪れた。
 色々と物入りだろう、とタハラさんはロビンさんに色々な機械の部品のような物を渡していた。私にはそれぞれ何かはわからないが、無人機械ドローンや手製の端末機器の材料なのだそうで、ロビンさんはとても嬉しそうにタハラさんに御礼を言っていた。

 タハラさんも、私が軟禁され、お姉ちゃんが脅迫を受けた組織に狙われているそうで、拠点を転々としながら、対策を考えているそうだ。

 夕飯はお姉ちゃんと一緒に野菜鍋アイントプフを作った。
 ロビンさんはあまり野菜は得意でないのか、最初は嫌がった顔をしていたけれど、一口食べると表情を変えて、あっという間に一杯平らげていたのでお姉ちゃんと顔を合わせて笑ってしまった。
 タハラさんも一緒で「こんなに美味しいご飯を食べたのは久しぶりだよ」と喜んでくれた。
 食事を食べるとすぐにタハラさんは、ロビンさんから渡された荷物を持って「また一週間くらいは連絡が取れなくなる」と伝えると、目にも止まらぬ速さで跳躍し、屋根を飛び越え走り去って行った。

「あの人、全身義体サイバネティックボディになってからそう時間経ってない筈なんすけどね」

 と、ロビンさんは呆れたような関心したような表情で溜息をついた。後で聞くところによると、あれだけ元気であるに関わらず、タハラさんは御歳八十八歳だそうで驚いた。

「あの人、生涯現役をうたってるっすからね。当分は全責任をあの人に任せられてわたしも楽」

 そう語るロビンさんの横顔は、自慢の祖父を紹介する孫娘みたいで微笑ましいな、と思った。

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 3月25日。逃亡生活4日目。
 今日はヴァイパーさんが「遊びに来たぜ」と顔を出してくれた。
 ヴァイパーさんは街外れのスラムに事務所を構えている探偵で、私が組織に軟禁……奴らに言わせれば飼育されていたのを助け出してくれた恩人だ。
 今日は私よりも小さな男の子と一緒で、ヴァイパーさんがロビンさんとワイワイと口喧嘩している間、ヴァイパーさんを戒めるみたいに袖を引っ張り続けていた。

 男の子の名前はカイン。ヴァイパーさんの探偵仕事の相棒なのだと言う。ロビンさんはヴァイパーさんと二言三言会話を交わすと「死ね! ヴァイパー!」と悪態をついて仕事部屋に篭ってしまったので、その間ヴァイパーさんとカインと、色々お話をした。

 ロビンさんは普段は頼れるお姉さんという感じなのに、ヴァイパーさんの前でだけ少し言葉遣いが荒くなるみたい。
 私の勘だが、きっとロビンさんはヴァイパーさんのことを好きと見た。
 ヴァイパーさんのことが気になるが、素直になれない物だから口悪くなってしまうのだ。そう思うと、理想の女性だと思っていたロビンさんのことが、急に身近に感じられるような気がした。
 この恋を、きっと私は推して行きたい。そう決意した。

 勘と言えば、カインにも不思議な第六感があるそうだ。
 カインは、死者の存在を感じ取り、その死に場所や行方不明の遺体を探し出すことができるのだと言う。興味深い話で、その能力を使って解決した幾つかの事件についてもヴァイパーさんから話を聞いたが、こちらは現状に関係ない為、この記録からは割愛する。

 ヴァイパーさんは、私が曖昧にしか理解していなかった、私達が逃げている組織の現状についても、改めて教えてくれた。

 組織の名はクヴァト。この街を長年の間、裏から支配して来た歴史の長いマフィア組織。だが、その組織も今や壊滅寸前だと言う。

 理由は街の新勢力、偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンとの抗争。
 以前から確執のあった二つの勢力は、末端構成員のイザコザを発端として大規模に衝突。
 主要な組織の施設は抗争相手に軒並み破壊された。
 そのイザコザの元となった事件は、ヴァイパーさんも一枚噛んでいたらしく「面倒なことに首突っ込んじまったもんだ」と悔やんでいた。

 じゃあ、私達も組織のことを心配しなくて良いのかというとそうではないらしい。

 首領ボスのルヴェルゴは、何と個人的な因縁の為に、抗争を好機と見て突撃したタハラさんと戦って重傷を負い、昏睡状態。

 私のお姉ちゃんの仕事は、スノウが組織に軟禁された私を助ける為に、首領ボスを襲撃したタハラさんとその部下であるロビンさんを暗殺することだったが、私がヴァイパーさんに助けられたことでそれをしなくて済んだ。

 また、若頭アンダーボスのルベンも、抗争相手の雇った殺し屋に殺された。

 現在、組織の指揮を執っているのは顧問のテヴューと言う男で、組織の隠れ家や雇用関係の全てを把握しており、抗争に少しでも関わった人間を、ただではおかないだろう、と言うのがロビンさん達の見方だ。

「組織が死に体だろうが関係ない。搾り粕になるまで、テヴューは組織に仇為す者に容赦しない。その手を緩めないだろう」

 ヴァイパーさんはそう語った。
 それは暗殺未遂に加担したお姉ちゃん、その血縁である私も例外じゃない。

 私達の逃亡生活は当分の間続きそうだ。

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 今日は少し事態が好転した。
 先日、街内の至る所にゲリラ的に電子広告が配布されるという事件が勃発した。
 その電子広告には、仮面の男の演説動画が添付されていた。演説と言ってもK.A.Cキングアミューズメントコメディアンを名乗る仮面の男が、身振り手振りも使いながら、現在の街の様子を面白おかしい口調で説明する物で、近日、この状況を放置する市庁の前でパフォーマンスをするという旨を宣伝していた。

 そんな芸人コメディアンの話題で街は持ち切り。
 多くの住人が、市庁舎前に詰め寄せた。
 これを重くみた市は警官隊を派遣したが、その警官隊の中に混じっていたK.A.Cが花火を使った派手な演出で登場。
 道化師ピエロの格好をしたK.A.Cと、彼の味方らしい数体の家事代行機械メイドロボットが、高電圧銃スタンショックを使って警官隊を撃退。市庁舎前の広場に、パフォーマンス用のスペースを確保した。

 彼らのパフォーマンスに、組織と興行師ショーマンの目が向く隙をついてヴァイパーさんとタハラさん、それに彼らが集めたスラムの暴徒や二つの組織に一泡吹かせたい地下組織レジスタンスが、それぞれ事前にロビンが突き止めていた組織顧問テヴューの居場所と偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンの居城に突撃した。

 その様子を、ロビンは自身の分身アバター動物機械アニマルロボットキティ達を使って援護バックアップ

 私達姉妹も何体かのキティの操作を任せられた。

 私はヴァイパーさんと一緒に、偉大なる興行主ザ・グレイテストショーマンの勢力を率いる興行師ショーマンの居る地下施設ドゥオモに突入。
 普段ならここで行われる興行ショーを観に来た観客が溢れかえっているのだが、今日はその観客も市庁舎前に行っていて、かなり閑散とした様子だった。

 私達の最終目標は興行師ショーマンの操作する特殊爆弾マイクロボムの解除。

 彼の手駒の多くは剣闘士ファイターと呼ばれる戦士達で、彼らの脳には興行師ショーマンに歯向かえば辺りを巻き込んで爆発する爆弾が埋め込まれいる。

 しかし、この爆弾さえ解除できれば、興行師ショーマンに離反する剣闘士ファイターも大勢現れ、抗争を止める為の一手になる。

 だが、特殊爆弾マイクロボム機関システムは公的なネットワークからは独立スタンドアロンしており、直接叩くしかない。

 その独立機関スタンドアロンのある地下施設の奥に向かう私達を、剣闘士ファイターの一人が阻んだ。

 鰐のような姿をし、両手に刀を握る二刀流の剣闘士ファイター相手にヴァイパーさんは善戦し、遂には鰐の脊髄を銃弾で砕き、行動を停止させた。

「お前もじき自由になる」

 意識を失いかけた剣闘士ファイターに向けて優しく語るヴァイパーさんの様子は、私を救い出してくれた時と同じように、キティの目を通して英雄ヒーローに見えた。

 結論から言えば、私達は特殊爆弾マイクロボムの解除に成功した。興行師ショーマンは二刀流の剣闘士ファイターが倒された頃には既に脱出していたらしく、部屋はもぬけの殻だった。

「暫くは奴もこれまでみたいに大きな権力を振るえんだろ」

 ヴァイパーさんは悔し気に歯噛みしながらも、そう呟いた。

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 3月31日。逃亡生活最後の日。
 街を自由に歩けるようになったお祝いに、私達は真夜中にロビンに連れられ、ヴァイパーさんの行きつけという焼肉屋に向かった。
 この焼肉屋は今時珍しく、本物の鶏を店長が絞めて捌いた焼き鳥を提供しているのだとか。

 焼き鳥は私も大好物で、その話を聞いた瞬間思わず涎を垂らした私は、お姉ちゃんに嗜められてしまった。

 あのK.A.Cのパフォーマンスの日、組織顧問のテヴューはタハラさんにより警察に引き渡され、組織は事実上の活動停止。これまで放置されていた地下闘技場ドゥオモも市の公安課の捜査が入り、閉鎖したそうだ。

 興行師ショーマンの死体が、街から離れた川岸で見つかったのだ。
 顔が鰐に噛み潰されたみたいになっていたその死体を見つけたのはカインで、五指に宝石を煌めかすその手は残っていたが、胴体はズタズタに切り刻まれ、腕も綺麗に左右対称に切り取られ、丸で二本の刀で同時に切断されたようだ、と警察は語ったと言う。

「とは言え直ぐにまた同じようなとこが出来るだろうな」

 ロビンは焼き鳥を物凄い速さで食べながら、そんな諦観的なことを言った。

「組織と興行師ショーマンの動きが抑えられた代わりに、地下組織レジスタンスに紛れた排斥主義者テロリスト達の動きが活発になって来てる。ボクはこいつらの動きも注視して、街の人々に伝えるつもりだ」

 タハラさんは酒瓶を片手にそう語った。全身義体サイバネティックボディでも酔っ払うんだ、との疑問を口にしたら「お爺ちゃん、こう言う日はワザと酔い止め機能を停止してるから」とロビンさんが教えてくれた。

 お姉ちゃんは、事態が収束しても、ロビンの元でお手伝いさんをすることに決めたらしく、私もそれに付き合うことにした。

 ヴァイパーさんはどうするの? 私が聞くと、ヴァイパーさんは少し考え込む素振りをしてから、カインを見た。

「またスラムに戻って、依頼を待つ生活に戻るよ。あんたも人探しの依頼があったらいつでも来なよ」

 そう言う彼の笑顔を見て、私はちょっとドキッとした。

「どうせその時は私も駆り出されるんだろ。クソヴァイパー」

 拗ねたように悪態をつくロビンを見て、今度は皆で笑った。

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 4月1日。今日から新生活。
 特筆すべきこと、なし。
 

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