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いつも通りの朝

 アラームの音で目が覚める。

 枕元のスマートフォンに手を伸ばし、音を止めようとすると、画面上の時刻表示が目に入る。

 9:55。

 血の気が引いていく。今日は10:00から取引先との重要な商談の予定が入っている。この日のために入念に準備して来たのだ。いつもはアラームが鳴るより先に目が覚めるのに、どうして今日に限って……。
 ふと、違和感に気づく。おかしい、アラームは7:00に鳴るように設定していた筈だ。念の為、その数分後にも何度かなるように設定している。スヌーズ機能も使っているし、3時間も鳴っては止めてを繰り返すことがあるだろうか。
 自問していると不意に着信音が鳴った。上司からだ。違和感の正体に思考を巡らせている余裕はないらしい。そういえば先程の画面上に何件もの不在着信が表示されていた。応答ボタンに触れようとするが、指先が固まったように動かない。弁解の余地も、咄嗟の対応策もあるはずがないのだ。

 ああ、どうか夢であってくれ、夢であってくれ……。
 
 現実から逃避するように何度も念じる。そうしているうちに、着信音が徐々に遠くなり、目の前の部屋の風景が歪み始める。思考が働かなくなり意識が混濁していく。

 ふと目が覚める。アラームの音は鳴っていない。

 おそらく7:00より早く目覚めたのだろう。いつも通りの朝だ。

 良かった、本当に夢だった……。

 安堵に胸を撫で下ろす。不意に着信音が鳴った。誰だこんな朝早くに。そう思い画面を確認する。

「……なんだ、正夢か」

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