![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/145707363/rectangle_large_type_2_56d50ba47da6e3d95d96ff71ca3a35f4.png?width=1200)
Photo by
chiemanga
いつも通りの朝
アラームの音で目が覚める。
枕元のスマートフォンに手を伸ばし、音を止めようとすると、画面上の時刻表示が目に入る。
9:55。
血の気が引いていく。今日は10:00から取引先との重要な商談の予定が入っている。この日のために入念に準備して来たのだ。いつもはアラームが鳴るより先に目が覚めるのに、どうして今日に限って……。
ふと、違和感に気づく。おかしい、アラームは7:00に鳴るように設定していた筈だ。念の為、その数分後にも何度かなるように設定している。スヌーズ機能も使っているし、3時間も鳴っては止めてを繰り返すことがあるだろうか。
自問していると不意に着信音が鳴った。上司からだ。違和感の正体に思考を巡らせている余裕はないらしい。そういえば先程の画面上に何件もの不在着信が表示されていた。応答ボタンに触れようとするが、指先が固まったように動かない。弁解の余地も、咄嗟の対応策もあるはずがないのだ。
ああ、どうか夢であってくれ、夢であってくれ……。
現実から逃避するように何度も念じる。そうしているうちに、着信音が徐々に遠くなり、目の前の部屋の風景が歪み始める。思考が働かなくなり意識が混濁していく。
ふと目が覚める。アラームの音は鳴っていない。
おそらく7:00より早く目覚めたのだろう。いつも通りの朝だ。
良かった、本当に夢だった……。
安堵に胸を撫で下ろす。不意に着信音が鳴った。誰だこんな朝早くに。そう思い画面を確認する。
「……なんだ、正夢か」