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コピーライターがひらがなを使う理由とUXライティングの漢字ひらがな問題

まずはこちらの文章をお読みください。

毎年、いまごろになると「鬼が笑うけど」というようなことを考えます。だってねぇ、今年やることなんてあと10日分しかない。
来年は、今年の続き…だと、ふつうは思うじゃない?だけど、そういうことにはならないよ、たぶん。ただの続きのつもりでやってても、だめだよ、きっと。

これは、とある日のほぼ日に掲載された、糸井重里さんが書いたエッセイ「今日のダーリン」の冒頭部分です。皆さん、この文章を読んで何か気付きませんか?そうです、ひらがなが多いのです(記事のタイトル見たらわかるがな)。具体的に言うと、今頃を「いまごろ」、普通を「ふつう」、多分を「たぶん」、駄目を「だめ」というように、一般的には漢字で書いてもおかしくないような言葉を、ひらがなで書いています。

糸井重里さんは日本で最も有名なコピーライターのひとりだと思うのですが(いまだにわたしはコピーライターやってますというと「糸井重里的な?」みたいな反応をされることがある)、コピーライターという人たちはとにかくひらがなが好きです。駅などのポスターをちょっと見てもらえばわかると思うのですが、え?そこもひらがなにする?みたいなところまでひらがなにしていることがあります。広告や出版などの業界ではひらがなにすることを専門用語で「ひらく」というぐらいです。

ご多分にもれず、わたしもひらがな大好きマンなので、アートディレクターやUXデザイナーと仕事をするうえで、いちばん言っている言葉が「そこ、ひらがなにしてください」なのではないかと思います。なので今回は、なぜひらがなにする必要があるのか、というところと、特にUXライティングにおいてひらがなを使う際にわたしが気を付けていることを書いてみたいと思います。

ひらがなにすると、とにかくやさしく、わかりやすく見える

なぜわたしがひらがなを好んで使うのか。その理由は、ひらがなを使ったほうが、やさしく、わかりやすく見えるからです。広告でもUXでも、わたしが読む人に伝えたいことは「この商品を買ってほしい」とか「新しいサービスを使ってほしい」とかなので、「なんか難しそう」とか「なんか面倒くさいかも」とか絶対に思ってほしくないわけです。そんな時にひらがなは大活躍します。わたしが特に意識してひらがなを使っているのが「かんたん(簡単)」と「はじめる(始める)」です。例えば次のような文章。

誰でも簡単に、今すぐ始められます。

これがひらがなだとこうなります。

誰でもかんたんに、今すぐはじめられます。

どうですか?ひらがなのほうが、誰でもかんたんに、今すぐはじめられそうな気がしませんか?

さすがに漢字とひらがなでどちらがCVRがよくなるかA/Bテストしたことはありませんが(チャンスがあればやってみたい)、ひらがなのほうがよりアクションを起こす確率が高くなるのではないかと思っています。

もちろん業種やデザインによっても変わりますが(例えばBtoBのコピーだと漢字のほうがフィットする場合もある)、読む人によりわかりやすく、やさしく伝わるように、わたしはひらがなを使うようにしています。

ここまではあくまでわたしの主観的な理由を書いてきましたが、次は客観的なデータもご紹介します。

ひらがな7割:漢字3割が黄金比率

Facebook投稿ノウハウ」という書籍に、Facebookの投稿において、ひらがながどれぐらいの割合で含まれていると、エンゲージメントが高くなるかについて調査した結果が掲載されています。

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(出典:Facebook投稿ノウハウ/株式会社コムニコ著)

こちらの調査結果によると、ひらがなが70%程度含まれていると、最もエンゲージメント率が高くなっています。ここで注意が必要なのは、ひらがなはわかりやすくする効果がありますが、多すぎると当然読みづらくなります。その点を考慮すると、ひらがな7割漢字3割というのは、ひとつの指針として持っておくと非常に有用な数字なのではないかと思います。

ひらがなは埋もれやすい

上記のひらがなが多過ぎると読みづらいという話にも繋がるのですが、特にUXライティングにおいて、ひらがなには埋もれやすいというデメリットがあります。例えば次の文章です。

キャッシュレスで素早く簡単にお支払い

これをひらがなにするとこうなります。

キャッシュレスですばやくかんたんにお支払い

「キャッシュレスで」の「で」と素早くの「す」がつながることで、前から順番に読むとぱっと見「キャッシュレスです」と読めてしまいます。また、「素早く」はキャッシュレスのメリットなので正確に伝えたいところですが、埋もれてしまってなかなか認識できません。

以前記事にも書きましたが、人間はWEBのテキストを20%程度しか読まないと言われています。

UXライティングでは、読む人に一瞬でも迷いを与えてしまうと、そのままスルーされたりブラウザを閉じられたりしまいます。なので、とにかく認知コストを下げて、一瞬でわかるようにする必要があります。その場合には、必ずしもひらがなが最適ではない場面も出てくるので、必要に応じてどちらを選ぶべきか考えなければなりません。

ひらがなと漢字のバランスを考えるだけで文章は読みやすくなる

ひらがなを意識的に取り入れるというのは、読みやすく伝わりやすい文章を書く上で、かんたんにできて、かつ効果の高いテクニックです。ひらがなと漢字、どちらを選ぶかの解像度を上げることで、より質の高い文章を書くことできるようになるはずです。

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