朝焼けの女神、③
朝焼けの女神、③
神なる者の腕
私は溺れている!
気管に塩水が入って息がしにくい
耳からプクプクと音がする。鼻の孔に、口の中に、砂と海水が入って来てパニックになってしまっている。
鼻の奥がツーンと痛い。
波が来るたびに片足が砂の中に埋まって行く気がする。海の中に引き込まれてしまったような感覚があって身動き出来ない。身体中が海中に浸かってしまった気がする。
そんな時目の前に神が現れた。
目の中に砂が入って来て痛いのに、私は両目を出来るだけ開いて神の差し出す手や腕に縋り付いた。
胸に抱きこむ様に両手を使い、自由の効く足もその腕に引っ掛かる様に動いた。
夢中になって助かりたい気持ちだけで身体を動かしていた。
神は手を掴んだ事を確かめ、背中に回り込むように身体を捩って、背後から私の脇に腕を差し込み抱き抱える様に私を海から引き揚げてくれた。
私は胸を押さえて海水を吐き、唾と一緒に砂を口から出す事が出来た。ハァハァとキツく息をして呼吸を整えて肺にある余分な物を出そうともがいた。
髪の毛が顔にへばりつき気持ち悪い、手櫛で整えるのと、咳が出て苦しいのに気を取られていたら、お姫様抱っこの用に抱き抱えられて水辺から離れた、柔らかい芝の上に下ろしてくれた。
抱き抱えてくれたのは神様じゃなく知らない同年代ぐらいの男だった。
その時の男らしい太い腕が必要以上に盛り上がり、海水に濡れて光る、綺麗に見えてうっとりした。
私を下ろした男は直ぐに背中を向けて私が脱いだ麻のワンピースを取って来てくれた。
幸い海風に吹かれ思ったより防波堤に近い所に飛んでいたので濡れずに済んだ様だ。
裸の私に気を使ってか、離れた所から放り投げた。
「サンダルを探して来るね」
とぶっきらぼうに言って探しに行ってくれた。
その時自分が裸なのに気がつき、大慌てでワンピースを着た。
寒気がして来た、ワンピースを着ても寒い。
男は服を着たのを見てサンダルを持って近寄り、
「流されなくて良かったね、それと大きなタオルを取って来るね。ヨガマットがあった方がいいな」と言った。
向こうの岩場を指差し、少し待つ様に言ってくれた。
私の為にタオル意外にヨガマットを取って来ると言う。
その岩場は少し離れている。
「待っててください。」
そう言って歩き始めた。
私は少し冷静になれたので考えた。
この失態をどうすればいいか?
考える事もない、逃げよう!
裸で海水を呑んで酷い顔で吐いた。髪の毛も海苔の様にへばりつき、化粧もしていない酷い顔。
助けて貰ったが、どうもこうも顔向け出来ない。
男が離れた隙を狙って浜辺から立ち去った。
動いた方が胸から余分な物が出しやすい様だ。咳を頻繁に出しながら、ふらつきながらペンションにたどり着いた。
多分あのビーチでヨガマットを持ってるって言う事は、同じ宿泊客なのだろう。私は濡れた髪と足のまま、急いでシャワーを浴びた。浴室を砂だらけにしてしまいオーナーには申し訳ないが、部屋に戻り荷物をまとめて宿を出る事にした。
ちょうど朝食の準備をしていた、オーナーさんがいたので。
「用事ができてすぐ帰る」ことを伝えた。
オーナーさんは困ったような顔をして、
「何があったの?急用?体調でも悪いの?」
と気を遣ってくれたが。
「急に連絡があって家に戻らなければなりません。申し訳ありません。精算お願いします。」と伝えた。
オーナーさんは、またまた困った顔で、
「あなたは昨日の夕方ぐらいに来て、夕食も食べ食べずに泊まっただけだから、料金は入りませんよ。また次の会に必ず来てくださいね。」とおっしゃった。
優しい言葉は嬉しい。もっと残りたい気持ちもあったが私はそれどころではない。
あんな姿を見られてここに居られない。
「ありがとうございます。あのこれ受け取ってください。」
一万円を紙に包んで渡した。
オーナーさんは呆れた様に「帰るって船がないでしょう?ちょうど8時にここに来る人の便があるからそれに乗せて貰いなさい」
包んだ紙を押し返して。
「海のタクシーは高いからこれ持って行きなさいね」
港で8時まで時間を潰して。ペンションに止まる客と入れ替わり、海上タクシーに乗せて貰い港まで着いた。陸に上がれば大丈夫だ。ゆっくりバスを待ち最寄りの駅に着く、電車にのり新幹線の駅まで辿り着いた。
私はそのまま都会戻る気がせずネットで調べてデイユースの部屋を取った。改めて湯船に浸かり気分を落ち着かせる。
朝日が出る前のエネルギーを受けて瞑想してみたかった。
ちょうど島と島の間に出る朝日はチャンスが少ない。昨日は満点の星空で朝日の期待が高まった。
それと、海辺で裸でヨガをやってみたいと思っていた。ヨーロッパでは流行っているらしい。動画で見たがその開放感が素晴らしい。何度見てもわかるエネルギーに溶けていくアーサナ。
今朝は素晴らしかった。金星が光る漆黒の夜から世界に光が届き始める時、蠢くような波動。
太陽が出て来ると
私と太陽の間に道が出来た。は深い祈りの中その道を歩いた。
身体中が金色に輝き全てが許される中私はエネルギーの主と会った気がする。
主は実体はなくかといって亡霊のようなものではなくしっかりした世界。
イヤ、彼の世界の中に小さな私達の世界があると言った方がいいだろう。
たまたまそこに意識を向けて貰っただけなのかも知れない。
ただ素晴らしかった。素晴らしい体験だった。
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