欠損指にとまるピンク色の蝶
人間、何かしらのコンプレックスを抱えて生きている。
お家柄かもしれないし、外見に対することかもしれない。または学歴や、学生時代ならスポーツなんかもあるだろう。
私たちは生まれながらに誰かと比べられている。
しかし決まったモノサシはない。
長い年月をかけてつくられた見えないルール。
そうやって測りきれない人間に分類されると、コンプレックスという見えないベールに包まれて、自信を持てなくなってしまう。
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『ネイルに挑戦してみたい』
4年前のお客様の言葉が脳裏をよぎる。
出会った当初はおとなしい雰囲気の青年でした。
青年というよりは、中性的なタイプ。
3歳の時におうちの事故で指先を切断されてしまった方で、すでに指のエピテーゼをお創りしている。
その話はまた今度ご紹介することにして。
彼はSNSで日々の情報を発信しているので、少しずつ前向きになっていく様子がわかる。
親戚のおばちゃんみたいに、うんうん。良かった。良かった。と陰ながら応援していたもんです。
その彼が自分の入れ物(体)に違和感を感じたのは、ここ数年だったそう。
今では男性から女性へと変貌を遂げている。
SNSでは美容室に行ったり、ラブリーなワンピースを着たり、メイクも楽しんでいる様子がみてとれていた。
『ネイルに挑戦してみたい』
4年前に発していた言葉を思い出し、ネイルもいかがでしょうか?とご案内させていただいた。
指先にコンプレックスがあると、ネイルを楽しむことを諦めてしまう人が多い。
しかし、少しずつ階段を上るように自分のコンプレックが克服できてくると、オシャレに目が向くようになる。
タイミングを見計らって、ネイルもいかがですか?
そう声をかけた。
ネイル施術当日、少々時間に遅れながらやってきた。
ピンポーン
迎えると「こんにちは。お久しぶりです。遅れちゃってすみませんでした」と青のチェック柄ワンピースで現れた。
膝上丈のスカートで、夏に向けたさわやかなデザイン。
伸びた髪の毛を薄いピンクでポニーテールに縛り、にこっと笑顔。
さっそくサロンにご案内して、まずは爪先のお手入れ。
綺麗に切りそろえられた爪である。
少々カーブを整え、表面を磨く。
女性へと変化した彼は多くを語らない。
少しずつ爪にツヤが出てきて、一度チェックをしてもらう。
「・・・・・♪」
こんな感じに思っているのが伝わってきた。
次に念願と言っていたカラーを施す準備。
「ピンク色でお願いします」
この日のために、彼の為にといってもいいであろう。
あらかじめ準備しておいた数本のネイルボトルを見せ、ピンクも種類があり、桜色からサーモン、パステルカラーに、ビビットまであることを説明。
私の予想ではラブリーなパステルピンクや、薄いピンクだろうと思っていたが、やはり的中。
デザインイメージを伝えたが、生まれて初めてのネイルだったのでデザインはお任せということに。
着ているワンピースやメイクなどを観察し、マッチさせるように色を重ねる。
「ピンク色はあこがれだったんです」
憧れならば叶えましょう。
私は伝えた。
エピテーゼの爪の先に、立体的な蝶々なんていかがでしょう?
おもいきって提案してみた。
通常はエピテーゼが出来上がっても恥ずかしがって派手なデザインは謙遜されがち。
彼女はいきなりの提案に少々戸惑っていたように感じていたようで、少々突飛な提案だったかと反省しかけた数秒後、頭の中で具体的なイメージがわいたのだろうか。「それもいいかもしれませんね。」と同意してくれた。
他のネイルと合わせるように、欠損された指を隠すエピテーゼには、パステルピンクを基礎に、白色の可憐なお花をちりばめる。
そこに留まるように1匹の蝶々をそっと乗せた。
出来上がりを見せると「この蝶々、ぶつかって邪魔にならないですか?」と問いがきた。
女子はかわいさが第一優先な生き物。逆にネイルに負担をかけないよう、指先をおしとやかに使うようになるので女子力っプしますよと伝えると、なるほどと納得した様子。
その後ネイルを痛めないような指先の動かし方を練習。
ご帰宅後、こんな投稿をしてくださったので紹介したい。
世の中は見えないモノサシで溢れている。
私の勝手な想像でしかないが、男の子として育てられ、ピンク色は選ばせてもらえなかったのではなかろうか。
ピンクは女の子の色。
見えないモノサシで測られる抑圧された社会。
指先に留まった1匹の蝶のように自由に羽ばたいてほしい。