見出し画像

その小説、「キケン」につき

この小説の私の好きなポイントは数え切れないほどある。
ネタバレが怖すぎて具体的には書けないけれど、私のおすすめポイントをいくつかご紹介したい。

①まずなんてったって表紙がいい。

物語と全く関係ない内容をコミック仕立てに紹介し、片隅に描かれたキャラクターがツッコミを入れている。
この時点で絶対面白い。

②キケンな理論の勧善懲悪物語であるところがいい。

彼らは、所属する大学で彼らの正義を全うする。
物語を読み終えて、落ち着いてからよくよく考えると彼らの言動はどちらかというと悪っぽいのだが、物語の渦中ではつい、彼らを応援してしまうのである。
彼らの堂々としたキケンな理論に基づく正義は、ものすごく説得力があるのだ。

③キャラクターがキケンすぎる。

自宅に消火器を常備する超絶トンデモない男、怒らせたらヤバすぎる男、そして彼らに振り回される、不憫に見せかけたやっぱりキケンな男たち。
アイデンティティとアイデンティティとアイデンティティ。

④彼らのキケンな日常は、絶妙にありえそう。

彼らの日常は、波乱とトラブルに満ち溢れているのに、現実と乖離しすぎておらず、どこかにありそうな感じがする。
具体的に想像できてしまう。
私なら波乱とトラブルな日常などまっぴらごめんと思いつつ、それでもやっぱりキラキラしている彼らの人生がちょっと羨ましくなったりするのだ。

⑤電車やバスの中で読むのはキケン。

ここまでにご紹介してきてお気づきかと思うが、この小説はキケンな男たちのキケンな学生生活を面白おかしく綴ったものである。
読み進めていくにつれて、突っ込みたいし、笑いを堪えきれないしなので、公共交通機関利用中に読むことを私はお勧めしない。

⑤最後の最後にちょっと泣かせにくるのもキケン

終始笑かしてくる物語のくせに、最後の最後だけしんみりする表現がある。
物語の最後、キケンな男たちのその後が描かれている。
私は、この人たちを卒業させて社会に放ってはならないのでは・・・と勝手に心配してハラハラしてしまうのだが、彼らは時の流れに則って、卒業したらしい。
彼らは卒業後の大学の文化祭を訪れ、黒板を伝言板がわりに交流する。
彼らは少し大人になっていて、でもやっぱり変わっていなくて、私は変わっていないことになぜか安心してしまう。
そんな中、一人彼らと交流持たないでいたのが不憫のふりしたキケンな男の一人である。
彼も含め、卒業後すぐの間は男たちも示し合わせて集まっていたらしい。
けれども大人になるにつれて、仕事もプライベートも勝手が変わってくる。
彼は、あの頃が楽しかったからこそ文化祭には行きづらいと自身の心を反芻する。
楽しかったからこそ、誰かに連絡を取って、もういいよと言われてしまったら?
仲間たちがあの頃に自分ほど思い入れがなかったら?
それが怖いのだと。
その心情には私も心当たりがあって、私はほんの少し自身の人生にリンクを感じて、こんなギャグのような物語の最後に泣かされてしまうのだ。

まとめ

彼らは、キケンで、ハチャメチャで、トラブルメーカーで、現実では到底仲良くはなれそうにないが、全力で生きていて、アオハルしていて、絶対的に私の人生にはなかったものがそこにある。
それは眩しく、羨望すら感じられる。
(といっても、恋愛の要素はほとんどなく、登場人物のほとんどが男性であるところが哀愁を誘わなくもない。)
それが欲しかったかと問われるとそれはそれで微妙だが、もし、私の人生に彼らのようなキケンな日々があったなら、その経験も、時間も、出会った人も、全てが一生の宝になったことだろう。

(有川浩「キケン」)



さて、今回の記事はみこちゃんさま企画のこの記事から。

この物語を愛しすぎているがゆえに、いつもに増してとっ散らかった文章であることをお詫び申し上げます。