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「あの子のむかし話」①(こうちゃさん著)

こうちゃさんからいただいた小説連載の続きとなります。プロローグはこちらから。


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 1

 ぼうっとする頭の中に、蝉の甲高い鳴き声がこだまする。うだつの上がらない腕をあげてカーテンを開くと、外には入道雲が見える。
 わたしは、息吹をあげるようにあくびをした。おおきいあくびであった。お盆の用事を済ました夏の真っ最中で、そろそろ夏休みに退屈してきた頃でもあった。
 夏休みの宿題は、全く進んでいなかった。それよりも、今日はなにをしようか、そういうことを考える方が楽しい。楽しいんだけど、いざゆかん、となると、布団から一歩も出たくない自分もいた。
「み〜んみんみんみんみ〜……」
 突然何を思ったのか、セミのモノマネをしてみた。ただ独りで、誰にも聞かれないまま。しかもおふとんの上で――それは夏の終わりを思わせるむなしさで、響いた。
 ……朝からなにやってるんだろう。そう思うと、わたしは布団から起き上がる。
 階段を降りて洗面所に向かうと、わたしは歯みがきをする。洗面台に水が溜まるうち、ぼんやりしていた気分はだんだんすっきりしてくる。その時、ふと思ったのだ。
 ――友だちと遊びたいなあ。
 夏休みはずっと続いてほしいのだけど、友だちと会えないのが寂しくなってくる。でも、学校には行きたくないのに、友だちと遊びたいなんて、贅沢な悩みだなあとも思う。
 今年はこうやって、お父さんの実家に帰省してきたのだけど、だからといってこちらで特に旅行へ行く予定もない。夏休みだっていうのに、ずいぶんなことだと思う。わたしだって毎日、毎日、遊ぶのも大変なのに……。
 すると、あることに気が付いた。歯みがきをするのと、洗面台に水を溜める、その順番を間違えていたのだった。
 わたしは、鏡の前でふてくされた。顔を洗う時、歯みがき粉が水に混ざるのがちょっとイヤなのだ。
 わたしはもう、どうでもよくなって、そのまま顔を洗うことにした。女の子なんだから、もう少し気を遣いなさいなんてよく言われるけど、正直わたしにはまだわからない。
「あ〜あ」
今日もこんなつまらない一日なんだろうな。そんなことを思うばかりであった。

(続く)

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