人生は組み合わせでできている
~「感動」と「学び」を世界中に~、日本講演新聞がお届けします。
洋菓子業界にとって2月と3月は繁盛期である。聖バレンタインという聖職者が殉教したといわれている2月14日と、「愛の告白」と、チョコレート、何の関係もないこの三つがひょんなことで結びついて記念日になった。
さらに、それにあやかろうと、その延長でホワイトデーが生まれた。
新しい文化の創造とか画期的な発明というものは、こうした突拍子もない組み合わせで生まれることが多い。
ソフトバンクの社長、孫正義さんが世界初となる画期的な機械を考案したのはアメリカの大学に留学した最初の年だった。
孫さんは、20代で事業を興して、30代で1000億円の資産をつくり、それを元手に40代でさらに大きな事業を立ち上げ、50代でそれを成功させるという人生設計を19歳のときに描いていた。
福岡の高校を1年で中退し渡米。約2年間の語学学校を経て、大学に入学した。
語学学校時代に出会った日本人女性と学生結婚した孫さんは、それまでの月20万円もあった親からの仕送りを断り、経済的自立をすると新妻に宣言した。
ただ、自分が描いた人生設計通りに生きようとしたら、皿洗いなどのアルバイトで生計を立てるというレベルの自立では間に合わない。ひと月最低でも100万円の収入が見込める仕事をしなければならないと思った。もちろん学生の本分は勉強なのでこれも疎かにできない。
孫さんは、1日の大半の時間を勉強に費やすために、仕事をする時間を1日5分と決めた。1日5分の労働で毎月100万円以上稼ぐ方法を考えたのだ。
友だちからバカにされたが、彼は前例があることを、松下幸之助の本を読んで知っていた。それは「発明」である。
「発明とは、まるっきり異なるものを組み合わせることで創り出される」と孫さんは考えていた。
英単語を覚えるときに使ったカードに、思いつくまま言葉を書いた。「本」「ボールペン」「自転車」「傘」など、それらを一つひとつコンピュータに入力した。
そのとき、その言葉の新しさの指数を10点満点、それに関して自分が持っている知識の指数を50点満点、あるいはそれは発明に結びつきやすいか、コストはどれくらいかなど、40ほどの判断要素を数値化した。
孫さんは、入力した言葉から三つを組み合わせ、数値化するコンピュータプログラムを作っていた。1日5分という時間の中で、上位に出てきたものを見て、何ができるか、毎日考えた。
こうして何百万通りもの組み合わせの中で、最も数値が高かった一組に絞った。
それは、「辞書」と「液晶ディスプレイ」、そして、当時アメリカで開発されていた、人工的に音声を作り出す「スピーチシンセサイザー」、この三つの組み合わせだった。
「スピーチシンセサイザー」の世界的な研究者は、孫さんが留学している大学にいた。孫さんはアポなしでその教授の研究室を訪ね、自分のアイデアを熱く語った。
「声の出る翻訳機を作りたい。そのためには先生が開発したスピーチシンセサイザーが必要だ。試作機ができたら、自分がメーカーに売り込む」と。
教授は、東洋から来た背の低い青年の熱い情熱に賭けてみようと思った。
試作機が完成すると、説明書を日本のメーカー50社に送った。10社が興味を示した。
その10社を孫さんは訪問した。その中で「おもしろい」と言ってくれたのはシャープ一社だけだった。
シャープは孫さんと1億円の契約を交わした。これがのちに世界初となる「音声機能付き電子翻訳機」になる。
いくつかの異なるものの組み合わせはおもしろい。心がワクワクする。
考えてみると、人生も組み合わせでできている。過去の様々な経験の組み合わせから生まれたものが「今」だ。そんな「今」を生きる人と人の出会いは、すべて世界初の組み合わせ。
だから「出会い」から、とてつもない人生が創られる。
(日本講演新聞 2015/03/09号 魂の編集長 水谷もりひと 社説より)