政治ではできない子育て支援

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 卒業式の季節である。

 1年前、毎日新聞に一人の女性が、わが子の幼稚園の卒園式にまつわるエピソードを投稿していた。

 幼稚園に入園するまでは1日中一緒にいるので母親は子どものことを何でも知っていた。ところが幼稚園に通うようになると、子どもが園でどんなことをしているのか分からない。そのことを母親は「初めてできた秘密」と書いていた。

 子どもが園から帰ってくるとカバンを開けることが一番の楽しみになった。園でどんなことをしてきたのか、その「秘密」を少しだけ覗けるからだ。

 カバンにはいろんなものが入っていた。まず先生がその日の様子を書いてくれる連絡帳、ポケットに砂が入っている体操服、お絵かきの時間に描いた絵、いろんなものを踏んづけた上靴等々。カバンの中から出てくるものを見ていると、何だか誇らしい気持ちになった。

 そしてあっという間に3年の月日が流れ、いよいよ迎えた卒園式。泣くかなぁと思って後ろから見ていたが、式は思ったよりも厳粛で、意外と冷静に見ることができた。

 ところがその日、最後に持って帰ってきたカバンの中身を見て、彼女は涙が溢れて溢れて仕方がなかった。こう書かれてあった。

 「短くなったクレヨン、粘土が刷り込まれた粘土板、残りわずかなのりやテープ……。どれもこれもぐちゃぐちゃになるまで使い込まれていました。新品だった道具をこんなになるまで使ったんだね。いっぱいいっぱい遊んだんだね。お母さんは嬉しくて、寂しくて、誇らしくて、ポロポロ泣いてしまいました」

 子どもの成長を目の当たりにしたとき、嬉しくもあり、寂しくもあり、言葉にならない感情が込み上げてくる。生まれてから今日までの自分と子どもの「歴史」が走馬灯のように脳裏をかすめるからだろう。楽しかったことばかりじゃない。思うようにいかない子育てにどれほど悩み、苦しんだことか。でも苦しかったことばかりじゃない。子どもの愛らしい笑顔にどれほど生きる勇気をもらったことか。そしてもう二度と戻ってくることのないそれらの日々を思うと、切なくなって胸が締め付けられるのだ。

~ ~ ~ ~


 年配の女性が、全く知らない東北の地にお嫁に来て、3人の子どもを育てていた20代の思い出を、ある新聞に投稿していた。その記事をたまたま読んだ津田塾大学教授の三砂ちづるさんが著書『タッチハンガー』の中で取り上げている。

 買い物帰りの夕方、2人の幼子の手を引き、背中には乳飲み子。母親は土手をとぼとぼ歩いていた。よほど疲れた顔をしていたのだろう。向こうから来た、作業服姿のおじさんがすれ違い様に声を掛けた。

 「母ちゃん、えらいな。だけどもうちょっとの辛抱だよ。もうちょっとがんばれよ。もうすぐ楽になるからな」と。

 そう言っておじさんは通り過ぎた。若い母親の目から涙が溢れて止まらなかった。

 「知らない土地で、知らない人に掛けられたほんの一言に支えられてここまで生きてきた。今の自分があるのはあのときのおじさんのあの言葉のお陰だ」と綴られていた。

 いつの時代も子育てには不安が付きまとう。「子どもにあんなこと言ってしまった」「こんなことしてしまった」と。

 そして子どもが手を離れ、人生の黄昏を楽しめる年になったとき、かつての自分と同じように、疲れた顔をして子育てをしている若い母親がいたら、やっぱり声を掛けたくなる。

 「子どもはすぐ大きくなるから。大変でしょうけど、今が一番いいんだよ」って。

 「子ども手当て」云々が議論されている昨今、こんな声掛け一つで政治や行政にはできない子育て支援ができるんだなぁ。

(日本講演新聞2359号(2010/03/22)魂の編集長 水谷もりひと社説より)

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