
鬼は外、福は内、豆は煎れ。
今日は節分。
我が家は基本、クリスマスと誕生日以外のイベントごとに無頓着なのだが、節分の豆まきは毎年欠かさず行っている。
我が家の豆まきの豆は"落花生”。
落花生であれば、外に撒いた物でも殻を剥けば食べることができるからだ。
息子は豆をまくことより、拾って食べることばかり考えていた。
「早く食べたいなぁ。全部食べたい!」
豆を食したくて仕方のない息子に、
「豆は年の数だけ食べるんだよ。7歳だから7粒だね。」
そう伝えると、
「え?それだけ?お母ちゃんは35個、お父ちゃんは39個も食べられるの?いいなぁ、いいなぁ……え、じゃあ100歳は100粒ってこと?!そんなに食べるの?!」
確かに。私がさっき彼に伝えたルールに乗っ取ると、100歳にとっての節分はかなり過酷なイベントということになる。
というか、”年の数だけ食べる説”を話しておきながら、結局毎年食べたいだけ食べてるので正直あまり関係ない。
豆って、
"食べる前はあんまりテンション上がらないのに、食べ出すと止まらない食べ物ランキング”があるとすれば、結構な上位を目指せる食材なんじゃないか、といつもパクパク食べながら考えてしまう。
ひとしきり鬼を外へ追い払い、福を内へ招き入れたところで、お豆回収タイムに突入だ。まいた落花生達を一つ残らず拾っていく。
とにかく早く食べたい息子。
拾い終わると同時に、我先にと殻を剥き始めた。
落花生の殻は彼の力ではなかなか剥く事ができない。私が軽く割れ目を作ってやり、自分でやっとのことで中の豆を取り出した。
私も自分用で1つ殻を剥きパクリ。
めっちゃまずい。
っちょ、どゆこと?
木の実をそのまま食べたような青臭さだ。
息子の表情もみるみる曇る。
あまりのショックで床に突っ伏してしまった息子。
とりあえずリンゴジュースでお口直しをして一旦気を取り直し冷静になってみる。
あれは多分、"生”の落花生だ。
普段買っている落花生はそのまま食べても問題なかったのだが、今年はちょっと安い地物産を購入していたので、恐らく加工がされていなかったのだろう。
夫が
"落花生 生”
でGoogle先生に聞いてみると、煎ってから食べることを教えてくれた。
息子にその旨を伝え、煎ってみることに。
周りの殻をむき、茶色い薄皮のついたままフライパンで10分間ひたすら煎る。
誰よりも豆を心待ちにしていた息子は、"自分で煎りたい”と名乗り出てくれた。
彼の背ではまだ少し高いガス台で、背伸びをしながら必死で豆を煎る息子。
左利きの彼は、フライパンを右手で持ち、時々揺すりながら木べらでひたすら煎り続ける。
5分が経った頃、
"パチッ!”
豆が弾けるような音がし始めた。
その音にちょっとビビりながらも、必死で煎り続ける息子。
木べらを持つ左腕がフライパンの熱気で熱いし、ずっと腕を上げているのが疲れるようだったので、代わろうか?と声をかけたが、
「いい!大丈夫!自分で最後までやりたいから。」
と断られた。つい心配してしまうのが親の常だが、左腕の熱さも疲れも、きっとこれから先の彼の記憶に残るかもしれないと思った。
10分が経った事を知らせるタイマーが鳴り、豆をトレーに広げた。
ここから冷めるまで少し待つ…はずだったのだけど、どうしても気になる。
あの青臭かった豆が、本当に美味しくなるのか。
息子ももう食べたくて食べたくて仕方がない。
熱々の豆を手に取り、薄皮を剥き、恐る恐るパクリ。
…うまい。
めちゃくちゃ、うまい。
今まで食べてきた落花生の中で、ダントツにうまい。
息子と、撮影をしていた夫も、想像以上のおいしさに大感激だ。
最初に食べた時、こんなに美味しくない豆を直売に出した生産者さんにちょっとイラッとしていた自分があまりに情けない。
私、夫、息子の3人で、
「生産者さん、勘違いしてごめんなさい。」
と謝りながら、まだ熱々の落花生をホクホクと食べた。
豆を煎っている息子の後ろ姿を微笑ましく見つめていると、ふと息子が振り返り目が合った。そして、
「お母ちゃん、笑顔だね。お母ちゃんが笑顔でいてくれると嬉しいよ。」
フライパンの中でパチパチと音を立てて踊る豆を見つめながら、そう息子が言った。
そして、煎り終わった後には、
「最初はまずかったけど、この豆を買ったからこそこんな経験ができたんだよね!本当によかった!」
と達成感に満ちた表情で嬉しそうに話してくれた。
千葉県産のすぐ食べれる美味しい落花生が隣に陳列されていたけど、安い地物産を買って本当によかった。心からそう思った。
暦の上では明日から春。
暖かい春はまだもう少し先だけど。
ホクホクの落花生と息子の真っ直ぐな言葉に胸が熱くなった、2025年、2月2日、節分の夜。