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ゴリラになった夜。

2ヶ月近く前から注文を受けていた法事用のお弁当。金額もそれなりにいただく為、品数と内容にかなり気を使った仕事だったのだが、先ほどなんとか無事、納品を終えた。


1ヶ月前にはメニューを決め、2日前から仕込みを開始。
そして昨夜から今朝にかけて、いよいよ大詰め。
昨日は用事で朝から夕方まで出掛けていたので、息子を寝かせてから夜中に仕込みを開始する計画だった。


21時30分

息子が眠った。
(寝たか。仕事、やらなきゃなぁ…)
たくさんの人と会って色んな話をしたり、1日中いっぱい歩いた昨日。
ものすごく楽しかった反動で、夜はなんだかやる気が起きず。

さて、どうしたものか。

でも、やらなければ始まらないし、終わりもない。
(明日の朝早く起きれば間に合うかな…もし間に合わなかったら…)
お弁当が納品時間に間に合わないことを想像してみる。
…あまりに恐ろしすぎた。

ひとまず、noteを投稿。それから思い腰を持ち上げエプロンをつけ、髪を一つに結び、手拭いを被った。
このスタイルさえ作ってしまえばこっちのものだ。


22時30分

思っていたより1日の疲れが溜まっていたようだ。
かなり、眠い。
今すぐ横になりたい。
でもそれが愚行だということもちゃんと分かっている。

お客さんが蓋を開けた時に、私に頼んで良かったと思ってもらえるお弁当を作りたい。でもそんなことが自分にできるのか…
夜は思考もマイナスになりやすい。余計なプレッシャーに駆られてきた。

でも大丈夫だ。
こんな時の乗り越え方はちゃんと心得ている。
だてに35年間自分をやってきていない。

こんな時1番効果的なのは、"一旦自分をぶち壊す”という方法。

"ぶち壊す”
恐ろしい響きだが、今回はポジティブな"ぶち壊し”なのでご安心を。

まともにやったって乗り越えられるとは思う。ただ疲労の代償は大きい。
そこで、まともにやることをやめてみる。
もっと具体的に言うと、
"ぶち壊す”とは"一旦自分ではない違う人格になりきる”
ということなのだ。
私は時々、意味のない音や言葉が頭に浮かんでそれを発さずにはいられなくなることがある。
以前の投稿でも謎のフレーズが頭から離れなくなったエピソードを書いたが、こういったことがまぁまぁな頻度で起きるのだ。
そして、その謎のフレーズや音は何だかんだ自分を助けてくれる。
いわば"救世主”のような存在。


23時15分

突如脳裏に
「ぉぅ、ぉう、おうっっっ!!!」
という掛け声が降りてきた。
"自分ぶち壊しタイム”の到来だ。
昨夜降りてきた人格は、居酒屋の店主だった。

(以下私の勝手なイメージです。)
ーーー40代後半。頭に白いタオルをまき、黒いTシャツにサロンタイプのエプロンを巻いて、鼻の下と顎にほんの少しだけ髭を蓄えた店長。

夜な夜な盛り上がる居酒屋。あまりの忙しさにスタッフたちもお疲れモードだ。
それを見兼ねた店長。疲れを吹き飛ばし発破をかけるべく一声吠えてみる。

「ぉぅ、ぉう、おうっっっ!!!」

少し疲れ気味だったスタッフたちも店長のその迫力に圧倒され、士気が高まり
店の雰囲気は最高潮にーーー

これだよ、これ。この感じ。
大きな声を出したら、なんだかやる気が出てきた。
この調子で乗り切りたい。

順調に仕込みが進んでいく。
と、何度かこの声がけをしているうちに、だんだん私の中のイメージがなぜか店長からゴリラに変わっていたことに気がついた。
無意識に発声の仕方ももう少し低音で力強い感じに変わっていた。

私の謎の発声に慣れている夫。
「夜のテンションだね。」
遠い目で私を一瞥し、一言そう呟いたまま、寒空の下へ一服に行ってしまった。
1人残された、嫁ゴリラ。

0時45分

ゴリラモードのまま一気に仕事を進め、気づけばこんな時間だ。
明日は4時に起きなければならない。
とにかく眠ろう。

深夜1時00分

居酒屋の店長とゴリラに別れを告げ、布団に潜り込んだ。

4時00分

お惣菜をおかずのカップに盛り付けているとアラームが鳴った。
夢か。
布団から這い出し、エプロンをつけ、髪を一つに結び、手拭いを被る。
さぁ。やりますか。

今朝は居酒屋の店長もゴリラもいない。
静かな厨房で、まともな私1人。
だんだん明るくなる外の色に焦りを感じた。

10時30分

予定よりほんの少し早く、ミッションコンプリート。
お客さんがお弁当を開けてどんな反応をするのか気になるところだけど、ひとまずやり終えたことに安堵。

店長、そしてゴリラさん。あなたたちのおかげです。
本当にありがとうございました。

少し仮眠して、夜は温泉でも行こう。
疲労困憊。









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