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「一緒に内覧されようぜ」~一級建築士を持っているだけの凡人がいきなり設計部になった話♯6

普通の人にとって「家」は一生に1度、人生の特大のお買い物です。
ゆえに、購入した家の入居前確認、お披露目会である内覧会経験もおおよそ人生に1度きりでしょう。

そんな中、ワタクシは30代にしてすでに100回くらい内覧会をやっています。

(´・ω・)っ[札束]

…ってお金持ちなわけではありません。
施工者として幾度となく内覧されているってことです。

最近流行り(?)の「サレ側」ってことですね。
販売者、設計者、施工者はみんなサレ側なので(怒られそうな言い回し)事情は若干異なりますが、私がご紹介するのは「施工者」目線の内覧会。


今回は、マンションの内覧会でよくある出来事をコラムっぽくご紹介。
同業の方は共感してくれるかも。
これから家を買おうとしてる人も読んでみたら心の準備ができるかも?

いざ。




1.とりあえず内覧会って何?


ってことで形式的ですが内覧会の説明です。

内覧会とは先程も書きましたが、建物や住居を購入した際の、引渡し直前の確認会です。

「引渡し」ってちゃんとした建築用語なんですけど、イコール「商品お渡ししますので今から貴方のものですよ」です。
内覧会は例えるなら、高級店で何か買った時に言われる「商品コチラになりますご確認ください」ですね。

現場は工事を間に合わせるのはもちろん、何度も何度も検査をしては直して、パンフレットと相違ないかを確認したり点検したりして内覧会に臨みます。

そのため、内覧会では完璧に近いものをお見せしているはずです。
まぁITやAIが発達しているとはいえ、ほとんどのものは職人さんが手作業で作っていますので、手作りならではの誤差とか完璧では無い部分ももちろんありますし、チェックミスも無いとは言えません。
そういうのも確認してもらうんですね。


当日の流れは、参考程度ですがだいたいこんな感じです。

1 予約時間にご来場、内覧会のご説明
2 購入された部屋へご案内
3 部屋の住設器具の説明
4 お部屋の内覧、チェック
5 退室、共用部の説明
6 共用部の内覧
7 その他入居に関する説明など 


契約や入居に関する説明はほとんど事前に終わっていますので、もう当日は建物やお部屋を見てもらうのがメインになります。

施工者にとってはこの 4 のところがキモ。
購入者がお部屋を見ながら気になるところ(例えば部屋の鍵が掛かりづらい、壁紙に工事で付着したと思われる汚れがあるなど)をチェックしていきます。

一見、少なければ少ないだけ優良な物件と言えそうです。
…が、お客様それぞれ価値観が違いますので、同じ建物でもチェックが0の人もいれば、30こくらい指摘される方もいます。
それに応じて内覧会にかかる時間も人によってだいぶ違うんですね。

そんな内覧会は、普段は作業着の施工者もビシッとスーツになって、職人さんが行き交っていたエントランスに花が飾ってあったりして、いつもと違う雰囲気にちょっとそわそわ。
職人さんもそわそわ。

2.よくある悲劇(喜劇?)


ここでは今まで私が経験した、つらかった(?)内覧会の様子をいくつかご紹介。
気軽に読んでね。


パターン① 「思ってたんと違う」


建築なんかは、商品がまだ無いのに契約書を交わして買い物するんですよね、設計図とモデルルームだけ見て。
おいそれと返品もできない。
だからこそ内覧会っていうのは、自分が購入したものを初めて見るドキドキイベントなんです。

ちなみにモデルルームとは名の通り、今から作るマンションの中の一つの部屋と同じものを作り、実際にお客様に見ていただくためのお部屋。
同じマンションの中でも見栄えがする広い部屋を選ぶことが多く、家具なんかも何千万かけてオプションも付けてコテコテのお高い仕様になります。
ここで「このマンション素敵!」なんてなってしまうと、予算と実物がかけ離れるなんてことはザラなんでご注意ですね。

大事なのは間取りと空間の感覚。
間取りは設計図(パンフレット)から読み取ることは可能ですが、空間の感覚って実際に部屋に入るまで本当に分からないものです。

「思ったより狭いね…」

「天井低すぎ!聞いてない!」

「うわ電線目の前じゃん…」


あるよね……建築従事者ならまだしも、素人の方は図面や数字を見ただけでは想像が難しいし、ましてや窓から見える景色を想像するなんて設計者でも判断つきづらい。
内覧会に向けて頑張ってきた我々工事の者からすると、お部屋を見てガッカリされるのは本当に切ない。

まあ我々よりお客様の方が悲劇よね。
マンション買うときは説明だけじゃ分からないこともあるし十分検討しましょうってことで。

パターン② 「賑やかなご家族」


「わーすごぉ〜い!!」

「きゃっきゃっ!!パタパタパタパタ…」

「ワン!」←!?

内覧会は誰が来てもOKなので、住む人はもちろん、そのご家族やお友達、ペット連れで来られる方も多くいます。

このようなメンツで来られると、だいたい繰り広げられる光景があります。
ワンちゃんやちびっこは特に、知らない場所でだだっ広いとはしゃいでしまいますよね。
そういう時は、目を離したすきに必ず何か起こります。

ワンちゃん駆け回り、傷が汚れが。
ちびっこも駆け回り、扉などに頭をぶつけギャン泣き。
大人は制御に労力を取られ、くたくたで内覧どころでは無い状況。
内覧スタッフも加わり、深まる大人同士の一体感。

元気なご家族を見るとこちらも元気が出ます。
まぁ引渡し前の我が家をじっくり見たい人は、誰と来るかを考えた方がいいかもですね。

パターン③ 「出禁になる工事長」


内覧会には、1人で来られる方もたくさんいます。
そしてこれは当時私がご担当した、少しご年配のおしとやかで身なりの整った奥様の話です。


内覧会で何かご指摘があると、確認会といってお直しした部分を確認しに来られる機会があるんです。
その奥様は、内覧会ではご主人と2人で来られ、対応スタッフは珍しく女性2名(大体は女性内覧スタッフ+男性施工スタッフのことが多い)で丁寧に対応しました。
ずいぶん安心して帰られましたが、ご指摘があったため確認会にも来ていただくことになりました。

事件が起こったのは確認会です。
私はこの日は違うお客様を対応していました。

「もうあのスタッフは部屋に来させないでくださいとお客様が…」

ざわついている方を見ると内覧スタッフとうちの上司たちが。
どうやら確認会に例の奥様が一人でいらっしゃったらしく、対応した男のスタッフの態度が荒々しく怖かったようです。

で、そのスタッフというのがまさにその現場を統括している工事長
怖い人ではないですし、敬語で真摯で現場でも掃除や片付けを率先してやるような、みんなに好かれている工事長。
見た目はというと…姿勢が良く歩くのが早い、昭和の香り漂う寡黙なパンチパーマ(イカツイ)。
女性スタッフのみで安心して内覧会を終えていただけにギャップがすごかったのでしょうね。

辛い時も苦しい時も、誰よりも責任を持って現場のトップとしてまとめ上げてきた工事長…が、出禁になるという前代未聞の事態に笑っていいのか泣いていいのか、全員が黙ってしまった出来事でした。


4.いい事ももちろんあるよ


これだけいろいろなことがある内覧会ですが、そんなのばかりでは意欲を持ってマンションなんて作れませんよね。


「キレイでチェックするところなんて無いわぁ」

「わ~すごい!景色もいい!」

「ありがとうございます!」

多くのお客様がこのようなことを言ってくれます。
それだけで今までの苦労が報われるというか、本当に良かったと思えます。
我々も入居される方の笑顔と快適な生活を願って、何年もかけて一つの物件を作っているからです。(盛ってないです)


杭は支持層に届いているか
鉄筋はちゃんと入っているか
コンクリート強度は適正か
寸法は間違えていないか
住設はちゃんと動くか
要望通りの間取りか
キズや汚れは無いか

その集大成が内覧会なんですよね。
ぷよぷよでサタン倒した!なんてのとは比べ物にならない達成感と喜びがそこにはあります。
現場やってるときは忙しいし帰れないし怒られるし死にそうになりますけど…辛くても達成感ってやっぱりモチベーションになるんだなと。


5.まとめ


今回は施工者目線での内覧会として内覧会の様子をご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。

これを読んで
「マンション買いたーい!」
「マンション作りたーい!」
「内覧会したーい!」
となる強者はいないでしょう。
大丈夫、想定内です。


でも内覧会が順調に終わった直後って、あんなにピリピリ張りつめていて事務所に顔を出すと睨み殺されそうだった雰囲気が、一気に穏やかなウェルカムムードになるのでこちらも嬉しくなるんですよね。(盛ってないです)

なので、しいて言うなら
「人様の笑顔や、仲間との達成感を味わいたいなら建築の道へぜひ」

どんな仕事も人と人とのコミュニケーション。
私みたいなコミュ障でも、こういうのっていいなあと思います。


ということで、ありがとうございました。
そんなこんなで、明日もお仕事頑張りましょうか~人々の笑顔と自分自身の幸せのために☆(ニコッ!)

ストレス時期の方が圧倒的に多いんだけどそこは…こう…一緒に頑張ろうぜってことで。
胃薬とリポDあげるから~…


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