「お墓参り」
第一章 わさわさ
焦れば焦るほどゆっくりと頭の中から1文字ずつ消えていく。緊張で声が震え、声を出そうとすると涙があふれてくる。頭の中が真っ白のままで唯一認識できるのは40人ほどの視線が一斉に自分に注がれていることと、味方であるはずのひぐちゃんも隅っこからほくそ笑んでいるように感じる。
「はっ、、はじめまして」
結局、自己紹介は名前とサッカーのことだけしか言えなかった。最後に「一緒に頑張りましょう」と一言付け加えるのが精一杯だった。それだけなのに名前を噛み、それ以来、「あらき」と呼ばれるようになった。
幼稚園の頃、兄が通っている少年団の練習についていって以来、サッカーにのめりこみ、今でも実業団の一員としてサッカーを続けている。あらきにとってサッカーは、嫌なことを忘れさせてくれる安らぎの時間だ。もういい加減やめるべきだと分かっているのになかなか辞める決断ができないでいた。毎日60kmかけて練習場へ向かい午後7時から9時までみっちり練習する日々を送っていた。
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プルルルルー
ひぐちゃん「もしもーし」
あらき「はい、樋口先生ご無沙汰しております。急にどうしたんですか?」
ひぐちゃん「お前、サッカーの練習は夕方からだったよな?。午前中アルバイトしに来いよ」
あらき「えっ あっ はっはい・・・・それは、いつですか?」
ひぐちゃん「明後日月曜朝9時に事務室な」
あらき「えっ あっ 分かりました」
ぷーっ ぷーっ ぷーっ
電話を切った時、あらきは緊張で掌が汗でびっしょりだった。ひぐちゃんは高校時代の恩師でサッカー部の顧問でもあった。高校を卒業してすぐの時は、何度かひぐちゃんに頼まれ母校へサッカーを教えに行ったことはあったが、ここ2年ほどは連絡を取っていなかった。しばらくはドキドキがとまらなかった。
鼓動が納まったくらいにふと思った。あれっ? 何のアルバイトだろう?? 学校のサッカー部の指導ってアルバイトあるのかな? その日はとても疲れていたので、いつの間にか深い眠りについていた。
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校 長「どうですか? 来週からですがやれそうですか?」
あらき「えっ えっ?? えっーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「来週から本当に私が教えるんですか??」
「ちょっ ちょっと待ってください」
「私なんかが教えられるんですか??」
校 長「大丈夫!やる気さえあれば大丈夫!」
あらき「えっ あっ はいっ」
校 長「じゃよろしくお願いしますね」
体感は30分ほど、だけど実際は10分くらいだったと思う。気がついたら来週から授業をすることに。緊張で言えなかったけど正直な話、簿記の簿の字も忘れているくらいだった。
「やば過ぎる」・・・・「どうしよう」・・・・と頭の中で何度も呟いたが、後悔は後の祭りだった。
高校時代のサッカー部の恩師からの誘いで、来週から講師として教壇に立つことになったあらき、果たしてどうなることやら、、、ーー つづく ーー
第一章を最後まで読んでくださりありがとうございました。私は、小説の書き出しが大好きで、冒頭を読んだ時のわくわく感が最高です。皆さんは、続きが読みたくなるような書き出しが最高な小説を知っていますか? もしおすすめの本があったら教えてください。小説の書き方をアドバイスもしてくれたら嬉しいです。一緒に書き出しライフを満喫しましょー!!!
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