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心のバトン

〇陸上部の葛藤


桜台高校の陸上部


桜台高校の陸上部は、その年も全国大会を目指して練習に励んでいた。しかし、エース候補の山田美咲の記録は一向に伸びず、監督の田中健一は頭を抱えていた。彼は経験豊富なコーチであり、生徒たちの能力を引き出すことに長けていたが、美咲だけはなかなか壁を越えられないでいた。

「先生、どうしてもタイムが縮まらないんです…」と、美咲は練習後に田中の元を訪れ、涙を浮かべながら訴えた。

田中はしばらく考えた後、思いついた計画を実行に移すことにした。「美咲、この薬を試してみないか。速く走れる薬だが、ドーピングになるから誰にも言うなよ。」

彼が手渡したのはただのビタミン剤だったが、美咲にはそれが特別な力を持つ薬だと信じさせた。美咲はその言葉を信じて、毎日そのビタミン剤を飲むようになった。

〇思い込みの力


ビタミン剤で記録UPの美咲


驚くべきことに、美咲の記録は急速に伸び始めた。彼女は次第に自信を取り戻し、陸上部のエースとしての地位を確立していった。練習でも大会でも、彼女の走りは見る者を魅了し、桜台高校の陸上部は再び輝きを取り戻していた。

「先生、本当にこの薬のおかげで…」と、美咲は感謝の気持ちを表した。

田中はその言葉に微笑んだが、心の中では少し罪悪感を感じていた。「ああ、そうだな。だが、君の努力もあってのことだ。」

〇真実の告白


桜台高校の陸上部


ある日のクラブ終了後、美咲は田中に駆け寄ってきた。「先生、最近身体が熱くて…この薬のせいでしょうか?」

美咲の瞳は不安と興奮で揺れていた。田中はしばらく彼女を見つめた後、真実を告げることに決めた。「美咲、その薬はただのビタミン剤だ。本当の力は君の中にあるんだ。」

美咲は一瞬驚いた表情を見せたが、次第に理解し、微笑んだ。「先生、ありがとうございます。私、自分の力でここまで来られたんですね。」

田中はその言葉に安堵し、彼女の肩を叩いた。「そうだ、美咲。君には元々才能があったんだ。」

〇新たな挑戦


桜台高校の陸上部


翌日から、美咲は薬を使わずに練習を続けた。その結果、彼女の走りはさらに磨かれ、記録は依然として伸び続けた。全国大会の日、美咲はスタートラインに立ち、深呼吸をして集中力を高めた。

「美咲、信じているよ」と田中は観客席から声をかけた。美咲はその声に応えるように頷き、スタートの合図を待った。

ピストルの音と共に、美咲は全力で走り出した。風を切る音が耳に響き、周囲の歓声が彼女の背中を押した。ゴールに近づくにつれ、彼女の足取りは一層力強くなった。

〇優勝の喜び


桜台高校の陸上部


ゴールテープを切った瞬間、美咲は新記録で優勝を果たした。観客席からは大きな歓声が上がり、チームメイトたちも駆け寄って彼女を抱きしめた。

「美咲、やったな!」と田中も駆け寄り、彼女と喜びを分かち合った。

美咲は涙を浮かべながら微笑んだ。「先生、ありがとうございました。本当に私の力を信じてくれて。」

田中は彼女の頭を軽く撫でた。「君が自分を信じたからこそ、この結果があるんだ。これからもその自信を忘れずに、どんどん成長していってほしい。」

〇新たなスタート

その後も美咲は自分の力を信じて努力を続け、桜台高校の陸上部は彼女を中心にますます強くなっていった。田中もまた、彼女の成長を見守りながら、新たな世代の選手たちを育てることに全力を注いでいった。

彼らの物語は終わることなく、次なる挑戦へと続いていく。美咲と田中は、互いに信頼し合いながら、心のバトンを渡し続けるのであった。

[おしまい]


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