夏の余韻
夏が終わろうとしていた。都市の喧騒から少し離れたこのホテルの一室では、穏やかな静けさが流れている。窓から差し込む夕陽の光が部屋の壁を金色に染め、やがて夜の帳が降りる準備をしていた。
僕はベッドの上に座り、ふと時計を見つめた。午後五時を過ぎたところだ。彼女がバスルームに入ってから、もうしばらく経っている。僕の心は、彼女の姿を待ちわびていた。
直美さん――彼女の名前は、僕の心の中で深く刻まれていた。彼女は僕の生徒の母親であり、最近では僕の心の中で重要な存在になっていた。彼女の夫が亡くなってから、数年が経ち、息子も自分の道を歩み始めた。僕はその間に、彼女と少しずつ親しくなり、そしてこの日を迎えることになった。
彼女との関係は、最初は子供の家庭教師と母親という枠を超えたものではなかった。しかし、時間が経つにつれて、お互いに対する感情は深まっていった。彼女の笑顔が、僕の心の奥に温かい灯火をともした。それは、決して簡単なものではなかったが、確かに心の中に確かに存在する感情だった。
バスルームの扉が開く音が響いた。僕は思わず息を呑んで振り向く。彼女が姿を現した瞬間、その目を見て、僕の心臓が早鐘のように打ち始めた。直美さんは派手な赤いビキニを着ており、その鮮やかな色合いが、彼女の美しい肌に映えていた。
「どうかな？」彼女の声は、どこか不安そうだったが、それと同時に期待に満ちていた。
「うわ…すごく似合ってるよ。」僕は自分の言葉に驚きながらも、心からの称賛を込めて言った。確かに、そのビキニは普段の彼女のイメージとは違うが、それが逆に彼女の魅力を引き立てていた。彼女の姿に、僕の視線は自然と引き寄せられていた。
直美さんは少し顔を赤らめながら、照れくさそうに笑った。「ありがとう。でも、こんなに派手なのは、実際に海やプールではちょっと無理だったから…」
「でも、今ここで僕だけに見せてくれることが、一番嬉しいよ。」僕は彼女の目を見つめながら、心からの言葉を伝えた。
彼女は照れながらも、どこか安堵したような表情を浮かべた。「おばさんをからかわないでよ。こんな年で、こんな水着を着るなんて、私には…」
「からかうなんて、そんなことは絶対にないよ。」僕は彼女の手を優しく取り、温かい手のひらに彼女の冷たい指を包み込んだ。「直美さんは、いつでも美しいよ。」
その言葉に、彼女の瞳にほんのり涙が浮かんだ。僕はその涙を見て、彼女がどれだけの思いを抱えているのか、どれだけこの瞬間を大切にしているのかを感じ取った。
「ありがとう…本当に。」彼女は静かに言いながら、僕の胸に顔を埋めた。彼女の体温が伝わり、僕の心は彼女と一体になったような感覚に包まれていた。心の奥で、彼女に対する感謝と愛情が深まっていくのを感じた。
「直美さん…」僕はその名前を呼びながら、彼女の肩を軽く抱きしめた。言葉が必要ないほど、心は通じ合っているように思えた。彼女の温もりが、僕の全身に優しく広がり、時間がゆっくりと流れているように感じられた。
「もう少し、このままでいさせて…」彼女のささやきに、僕はただ頷くしかなかった。言葉で表現するのは難しいが、この瞬間の静けさと彼女の存在が、何よりも大切だと感じていた。
二人は、そのまま静かに寄り添い、夏の余韻を感じながら、心の中で静かに紡がれる愛の物語を紡いでいた。
[おしまい]
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