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雪女と真夏の守護者

その年初めの寒い冬、雪女の棲む山に人間たちがやってきた。冷たい風が吹き荒れる中、雪を踏みしめて山を登る男たちは一心に歩を進めていた。彼らの目的は、雪女との契約を更新することであった。

「ここだな…」男たちのリーダーである藤原は、先頭に立って険しい山道を進みながらつぶやいた。彼の手には、契約の報酬としての砂金の袋が握られていた。雪女は人間の通貨を信用しておらず、貴金属での報酬を要求していた。


雪女

やがて一行は雪女の住処にたどり着いた。薄暗い洞窟の奥から、透き通るような声が響いた。「何用かしら?」現れた雪女は、美しい白銀の髪をたなびかせ、冷ややかな眼差しで男たちを見据えた。

「ご無沙汰してるな。今年も契約を更新しに来たんだ」と藤原が言うと、雪女は微笑みながらうなずいた。「良いでしょう。砂金を見せてちょうだい」藤原が袋を差し出すと、雪女は慎重に中身を確認し、満足そうに頷いた。「これで契約成立ね」
契約交渉は無事に終わり、男たちは安堵の表情を浮かべて山を下りた。

季節は移り変わり、7月の真夏が訪れた。気候変動が続くこの国の夏は例年にも増して猛暑となり、海には多くの海水浴客が訪れていた。浜辺にはカラフルなパラソルが並び、楽しそうな歓声が響き渡っていた。


夏の浜辺の雪女

その中に、一際異彩を放つ存在があった。白い水着をまとった雪女である。彼女はビーチを歩きながら、海水浴客たちに注意を促していた。「皆さん、暑いので命を守る行動をしてください」「喉が渇いていなくても水を飲んでください」その声は冷ややかだが、どこか優しさを感じさせるものであった。

雪女は契約の一環として、このビーチでの見回りを任されていたのだ。猛暑の中、熱中症で倒れる人が続出するのを防ぐため、彼女は妖力を使って周囲の気温を少し下げることができた。周りの気温が下がり、海水浴客たちは快適に過ごせるようになった。


夏の浜辺の雪女

ビーチの一角にある休憩所では、雪女が倒れた人々を運び込んでいた。彼女の周囲だけが涼しく、室温を下げることで休憩所は避暑地のようになっていた。人々は感謝の言葉を口にし、彼女の存在を喜んでいた。

夏の終わりが近づく頃、雪女の肌は真っ黒に日焼けしていた。彼女はその姿を気にすることもなく、依頼を全うすることに誇りを感じていた。


日焼けした雪女

冬山で雪女と契約をした男、藤原が雪女の所にやってきた。藤原はこの浜辺の組合長だったのだ。

「貴女のおかげでこの夏も大きな事故もなく乗り切れそうだ。ありがとう。礼を言うよ」

雪女は薄っすらとほほ笑むと言った。

「ふふふっ、それならもう少し謝礼をはずんでもらおうかしら。今後は砂金じゃなく…ね…」

藤原はにやりと笑い、近くの岩陰を指さして「それなら、あちらの岩陰でどうだ?俺もこの為にたっぷりと溜めてきたんだ」と言った。

そして、二人は岩陰へと消えていった。
それからは、毎日夕方近くなると藤原と雪女は人気のないところへ行き、雪女は藤原から謝礼をたっぷりと受け取っていた。


日焼けした雪女

秋の訪れとともに契約は終了し、雪女の姿は山中に消えた。
次の冬、雪女は再び人間たちと契約を結び、また夏の海の喧騒の中で、人々の命を守るためにあり続けるのだった。

[おしまい]

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