甘いデザートと恋の予感
夏の終わり、夕暮れが優しく街を包み込む頃、僕と彼女は恋に落ちた。彼女の名前は彩香。金髪に染めた髪と黒ギャル風のファッション、見た目だけで判断するなら、少し派手で気が強そうな印象を持たれがちだった。だが、その外見とは裏腹に、彩香は素直で、誰にでも優しい一面を持っていた。そんなギャップに惹かれ、僕は彼女と付き合い始めた。
二人が恋人になって数週間、僕たちは何度か口論することがあったが、そのほとんどは些細なことだ。例えば、ある日、僕がふと「彩香って料理は得意なの?」と軽い気持ちで尋ねたことが発端だった。
「え、あーしが料理下手だって思ってんの?」と、彼女は少しムッとした表情で返してきた。
「いや、そんなこと言ってないけど、なんとなくそう思ってさ」と、僕はつい正直に言ってしまったのが間違いだった。彼女の顔が険しくなる。
「ふん、だったら今度、あーしの家に来たらいいし。美味しい料理を御馳走してやるよ!」と、彩香は自信たっぷりに言い放った。
そんなわけで、週末、僕は彩香のマンションを訪れることになった。
ドアが開き、部屋の中からはおいしそうな香りが漂ってきた。玄関に立つ僕を迎えたのは、エプロン姿の彩香だった。普段のギャル風のファッションからは想像もできない、シンプルなピンクのエプロンを身にまとった彼女は、まるで別人のように清楚で、何とも言えない愛らしさがあった。
「待ってたし!まあ、楽しみにしてなって」と、彼女はウインクしながらキッチンへ戻っていく。
僕はリビングに案内され、しばらく待っていると、テーブルに次々と料理が並べられた。鮮やかな色彩のサラダ、カリカリに焼き上げられたチキンステーキ、そして濃厚なクリームソースが絡んだパスタ。どれも見事な料理で、思わず見とれてしまった。
「どう?文句はないでしょ?」と、彩香は得意げに腕を組んで言う。
「いや、本当にすごいよ。正直、ここまでとは思ってなかった」と僕は素直に感動を伝えた。
彼女は頬を赤らめながらも、「当然だし!あーしを見くびるなって」と満足げに微笑んだ。その笑顔が可愛くて、僕は思わず目を逸らしてしまう。
食事が進むにつれて、僕はその味にますます驚かされることになる。豪勢な見た目の料理だけでなく、味噌汁や煮物といった家庭的な料理も絶品だった。彩香の料理の腕前は本物だったのだ。
「ごめん、最初に失礼なこと言って。彩香、こんなに料理上手なんて本当に知らなかったよ」と、僕は心から謝った。
彼女は少し照れたように目を逸らしながら、「まあ、気にしてないし。でも、これでわかったでしょ?あーしが本気出せばこんなもんだし」と、ふんわりとした笑みを浮かべた。
その後、食事も終わり、満腹感に包まれながらも心地よい時間が流れていた。僕はふと、「デザートは?」と尋ねた。
「デザート?あー、忘れてた!」と、彩香は慌てて立ち上がり、キッチンへ向かおうとしたが、途中で立ち止まった。そして、振り返って僕を見つめ、突然、エプロンの紐に手をかけた。
「デザートは…あーしだし」と、彩香はウインクしながらエプロンを解き、テーブルに置いた。
その瞬間、僕は何が起きているのか一瞬理解できなかったが、彩香が僕の目の前に立ち、優しく微笑むその姿を見て、胸がドキリと高鳴った。
「え、えっと…」
「何?驚いた?」と、彩香はからかうように言いながら、僕の前に腰を下ろす。そして、彼女の手が僕の肩にそっと触れた。
僕は戸惑いながらも、彼女の手を取り、優しく抱き寄せた。「…これは素晴らしいデザートだ」と、冗談めかして言うと、彩香はクスクスと笑った。
「そうでしょ?ちゃんと味わってね」と、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべながら僕を見つめていた。
彼女の体温がじわりと伝わってきて、僕の心は次第に落ち着きを取り戻した。お互いの気持ちが通じ合うような、そんな不思議な瞬間だった。
時間がゆっくりと流れる中で、彩香との距離が一層近づいていく。彼女の温もりを感じながら、僕はこの特別な瞬間を大切にしたいと思った。
その夜、彩香の部屋には静かな夜風が流れ込んでいた。外では遠くから蝉の鳴き声がかすかに聞こえる。夏の終わりを告げるその音が、僕たちの関係にも何か新たな始まりを予感させていた。
彩香はいつものように元気で、少し意地悪で、でも優しい。そのギャップに僕はどんどん惹かれていく。彼女の存在が、僕にとって何よりも大切なものになりつつあるのを、僕は強く感じていた。
「…これからも、よろしくな」と、僕はそっと彩香の耳元で囁いた。
彼女は少し照れたように目を細め、「もちろん、あーしがいる限りね」と優しく返してくれた。
その夜のデザートは、思った以上に甘く、心に深く刻まれるものとなった。
[おしまい]
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