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映画『劇場』共依存を愛とかんちがいする人はいる

 映画『劇場』をAmazonプライムで視聴しました。結論から言うと面白かった! オススメの作品です! 

 でも、この作品観ていて楽しいエンタメ作品ではありません。令和の現代社会を切り取ったという作品でもありません。観賞後は恐らく後味の悪さを感じる方が多いのではないかな〜。

 そんな観る人を選ぶタイプの作品ですが、今回はそんな映画『劇場』についてネタバレ感想を綴ります。

 ※物語の結末までネタバレしています! ご注意ください!


#1 映画『劇場』の概要

 映画『劇場』は2020年7月17日に公開された日本映画です。上でも書きましたが、原作はピースの又吉さんの小説『劇場』です。又吉さんといえば芥川賞を受賞し、菅田将暉さんと桐谷健太さん主演で映画化もされた『火花』が有名ですが、この『劇場』は実質的には又吉さんの処女作らしいです。

 映画『劇場』の監督は行定勲さんです。映画『GO』や映画『世界の中心で、愛をさけぶ』などがよく知られています。そんな行定監督の最新作である『劇場』はコロナウィルスの影響で当初の予定より公開が遅れた上、劇場公開と同日にAmazonプライムにて配信されると言う異例の経緯で公開されています。

 映画『劇場』の主演は山崎賢人さんと松岡茉優さんです。どちらも多数の映画やドラマに出演している人気の若手俳優です。その他にも佐藤浩市さんの息子である寛一郎さんや独特の存在感を放つ伊藤沙莉さんが出演されています。ですが、この映画『劇場』では全編を通して主演の山崎さんと松岡さんの<関係性>に焦点が当たっているため、特に見所になるのは主演2人の演技です。

 続いて映画『劇場』のあらすじです。

①劇作家の永田(山崎賢人)と服飾系の学生の沙希(松岡茉優)が東京で出会います。

②永田は沙希の部屋に転がり込み、いわゆるヒモのような暮らしを始めます。時が経つにつれ、ふたりの間で衝突や気持ちの変化が起こりますが、完全に関係が断たれることなく何年も関係が続きます。

③心身ともに弱った沙希は実家に帰って地元の会社に就職します。沙希が去った後も永田は創作を続けます。そしてどれほど時が経った頃か、とある劇場で永田は自作の劇に出演しています。その劇は沙希との長い暮らしの中で永田が感じた素直な感謝とも謝罪とも取れる内容でした。観客の中には沙希の姿がありますが、沙希は涙を流しながら何度も「ごめんね」とひとり呟きます。そして劇が終わったのち、観客たちは劇場を後にします。最後にひとり残った沙希はなにも言わずゆっくりとその場から去って行きます。

 はい。なんかこんな感じです。


#2 映画『劇場』の感想

 切ない。後味が悪い!(笑)

 ラストシーンを観てまず思ったのは「痛々しいラ・ラ・ランド」でした。痛々しいのは永田の最後の空想のセリフです。映画ではそれまで沙希の部屋(質素なアパートの一室)永田と沙希の最後の別れ(と感じられる)シーンです。永田が沙希に向かって件のセリフを語り出すと、周囲の壁が外側へ倒れて、演劇の舞台に彼がいる場面になります。そこで永田は延々と沙希と幸せに過ごす世界について語るのですが‥…これが徹底した幻想ではなく、微妙にリアリティがあるのが気持ち悪いわけです。

 正直言って永田は劇中でほとんどなんの努力もせず、沙希を含めた他人への感謝もしない、結構な落ちぶれっぷりです。沙希も甘やかしていたので永田はなかなか自分を見直すことができなかったのかもしれませんが、それにしてもクズ男でした(笑)

 そんなクズ男である永田が最後の最後に沙希言うセリフがもう未練たらたらなわけです。結局、永田はそんな自分を題材にした作品で一応舞台に立つことはできるようになったようでしたが、「お前が創りたかったものって、ほんとにそれなの?」という違和感がありました。沙希はボロボロ泣きますが、それは当事者だからであって他の観客はさっさと劇場を出ていってるんですよね‥…。たぶん永田は一応社会人として自立くらいはするんでしょうけど、一生沙希の幻影を観ながら生きていく男のような気もします。

 と、永田のことを可哀想な感じで書きましたが、沙希のほうもなかなかです! まず、「なんで劇場来とんねん!」って話です。正直、別れの部屋のシーンで沙希は「もう2度と永田には会わない」と決めているのだと感じました。それなのに少し時間が経ったからと言ってわざわざ東京(恐らく)の劇場まで足を運んでいるわけです。いや〜、来なくねぇかなぁ。来ちゃダメな気がする〜。

 というのも、沙希は永田と一緒にいるとふたりはダメになっていくばかりだということに気づいたのだと思うのですよ。永田のことは好きだし、別れるのは寂しいけど、ふたりでいるとずっと不幸がまとわりついてくる。

 だから沙希は永田と決別をした。その表情、瞳には力がありました。対照的に永田は未練たらたらたらればセリフです。最後は非現実的な場面転換をしますが、あれはやっぱり永田の願望でしかない気がする。例え永田が再び舞台に上がったとしても、きっと沙希は観客席にいない。だから最後に客席から立って去っていく女性は、沙希じゃないんだね。 あれは恐らく松岡茉優さんではないですね。暗くてよく見えんかったけど!


#3 映画『劇場』で描かれたもの

 映画『劇場』で描かれたものを一言で言い表すならばそれは「共依存」です。永田と沙希の関係は外から見れば恋人です。ですが果たしてふたりは互いに「愛情」を注いでいたと言えたでしょうか。

 劇中では永田のモノローグが多用されています。人付き合いの苦手な永田は「他人から馬鹿にされている」という感じの被害妄想を常に抱えています。唯一自分に優しくしてくれる沙希に対しては、他の男と話しているところを想像するだけで苛立ちます。永田はとても幼稚で、沙希と接している時もいつも自分のことばかり気にかけています。ですが、そんな永田でも「沙希が自分を甘やかしている」ということには気づいていました。

 一方の沙希はなかなか内面を吐露するところがありません。不自然に思えるくらいに永田の良い人と捉えます。しかし、長く続く関係の中で沙希は明らかに心身のバランスを崩して行きます。お酒に酔った時などは永田に対して冷ややかな視線を向けることもありました。そんな沙希が最後の部屋のシーンで上京してから息苦しさを感じていたことを明かします。永田がいなければもっと早く田舎に帰っていた、ということを言いますが余りにも長い交際期間と虚しい結末を考えると、一緒にいたのは誤った選択であったと感じられるのがつらいところです。

 ちなみにこの作品では、ふたりの間の性的な関係がほとんど描かれません。キスシーンすらありません。本質的にはふたりは恋人ではなく、互いに満たされない承認欲求を埋め合いながら共生していたのだと思います。互いの距離が近過ぎて、お互いに視界を塞いでいたのかもしれません。


# 終わりに

 ということで、映画『劇場』の感想でした。上映時間 136分という長尺でありながら、そんなこと全然感じさせない作品でした。ちょいちょい関西弁のツッコミが入るところに又吉さんのイメージが重なって、現実に引き戻されましたが(笑)、映画自体は観る者をグッと引き込む力を持っていると思います。主演ふたりの確かな演技力と、ベテランの行定監督の為せる技でしょうか!

 明るい話ではないので苦手な人もいるかもしれませんが、個人的には自信を持ってオススメできる作品がひとつ増えたと感じています。気になった方はもちろん、AmazonPrimeの会員の方はチェックしてみてはいかがでしょうか。

 今回はこれにて!

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