2018/08/29 「フルーツとヨーグルトのパーティ」
15時半には仕事を終え、ハナと病院に向かった。
「亮さん、お家に帰ったら食べたいものありますか?」
ハナが聞くと、
「朝はフルーツとアサイーヨーグルト。帰ったらフルーツとヨーグルトのパーティがしたい」
「フルーツとヨーグルトのパーティ?」
パイナップルとかアサイーボールをみんなで楽しむというそのパーティ。「素敵」「いいねいいね」。ハナと亮くんが盛り上がっている。
「今まで食べてきたものじゃなくて、朝はフルーツとかヨーグルトとか、健康的な生活をしたい」と亮くん。
ここでヨーグルトスイッチが ON に。
「ちょっとMiwoさ、ヨーグルト買ってきてよ、3人分」
「…でもほら、まだペースト食だし、良くなるためには食事管理が今は大事だからさ」真面目な私が前面に出る。
「いいじゃん、ちょっとくらい」「いいからいいから」「大丈夫だから」
子供か。何この絶対引き下がりません感…!
「病院のご飯に飽きたんだよ」
まーそうでしょうね。「ご飯」とは言うものの、普通食ではなくペースト食。全ての品が、一色のペースト状になっており何がなんだかわからない。パンナコッタっぽいものは好んで食べていたけど(これはペーストでも違和感がない)、それ以外はほぼ手を付けない。
とは言え、悪性高熱症とその合併症に翻弄されていたけれど、本丸は大動脈解離なのだ。食事管理は重要で、文字通り命に関わる。
「いいじゃん買ってきてくれても」
…あまりに引き下がらない。しかもすでに不機嫌じゃん!何これ。
「ここで3人で食べればいいじゃん」「いいからいいから」
困り果てた。何このわがまま児。
一旦脱出だ!
「…じゃあハナと買いに行ってくるね」と病室を出る。
ハナと廊下を歩く。「どうしよう」「どうしようね」「買ってくるとか言っちゃったけど…」「ダメよね?」「ダメでしょ」「…どうする…?」
看護師さんに間に入ってもらう、という作戦に行き着き、まずは一縷の希望を携えて「…ヨーグルト、ダメですよね?」と聞いてみる。一旦確認を入れてくれるものの、「まだダメでした」。まぁそうでしょうね。
「いや実は今…」と、この困った状況を話す。
看護師さん含め、3人でヨーグルト回避作戦を立てた。
病室に戻る。
「看護師さんに聞いたんだけど、やっぱりまだダメだって」
「は?なんで聞くの?」
亮くんが怒った。
「聞いたらダメって言うに決まってるじゃん、なんでもダメって言うんだよ、わかってないんだよ、あいつら。大丈夫だから、俺は。」
「亮さーん」
良いタイミングで、看護師さんが入ってくる。(仕込みだけど)
体温を測ってもらったりで、なんとか気を逸らすことに成功。
したかと思った。
「それ何?」
しまった。
私が飲んでいたアーモンド効果が見つかってしまった。
「ちょっとちょうだいよ」「いいじゃん、ちょっとだけ」
一難去って、即座にまた一難。
「いや、これは…、あまり美味しくないやつで…」
いつも砂糖不使用を飲んでいるのに、今日に限って砂糖入り…!(これしか売ってなかった)。どう作用するか未知すぎる怖すぎる…!でも、亮くんは(またもや)全然引かない…!
「ちょうだいよ」「本当にちょっとにするから」「いいからいいから」
「…本当ーにちょびっとだけだからね。」折れてしまった。もう気力がナッシング。
亮くんがアーモンド効果に口をつけた。
大きな目が、全っ開になった。
ちびまる子ちゃんのまるちゃんの「パァーーーー」のシーン。そこから、良くやるあの変顔、からの、眉毛を上下させてキラキラした目でこっちを見てる…(笑)面白いなぁ、もう(笑)
「何この激ウマドリンク」「もうちょっとだけ」「いいからいいから」
.
「亮さんって、…あんな感じだっけ?あんなに、子供っぽいっていうか、わがまま放題だったっけ…?」
病院からの帰る車の中で、困惑気味にハナが言う。
「もともと、亮さんはワガママとか人に見せないよね?…入院生活で、本音が出せるのが身内が来た時間だけなんだろうね。そしたら、まぁそうなるか。今日はそれが出せるくらい、元気だったよね」
元気そうな亮くんの姿に、ハナは本当に喜んでいた。前回ハナが亮くんに会ったのは5日のこと。意識もなく、最も死が近くにあると感じた日のことだった。
「あの瀕死の状態から、今日は、亮さんが笑ったりワガママ言ったり怒ったりもして。『健康的に生きる』っていう亮さんの思いもあって、亮さんが『生きている』ってことを、すごく感じられた1日だったよ」