2018/08/25 「死神が離れなかった」
16:06
着実に快方に進んでいる。
看護師さんが亮くんの下のお世話をしてくれる。その間は退室して待つ。オムツを替えて、お尻を拭いて。一連のことが終わって入室すると、看護師さんが優しい笑顔で、「脱下痢できましたよ」と伝えてくれた。ICUの頃からずっと悩まされてきた下す問題がとうとう…!
部屋にも心にも、まるで光が差したようだった。
一連のことで亮くんはとても疲れた様子だ。しばらく眠って休むことにし、その間、私は1階のドトールで過ごす。
土曜日の午後。
誰もいないドトールで、1番奥の席につく。
8月2日も、この席に座って、この壁を目の前にしていた。
未明に終わった8時間の緊急手術。義父母を見送りひとり眠ったあと、同じ席に座って、同じジャーマンドッグを食べて、同じアイスカフェラテを飲んでいた。隣の席には、賑やかな家族。内側に渦巻く圧倒的な不安と戸惑い。この皮膚一枚の、そちらとこちら。
17:09
亮くんはうとうと。眠ったり、目を開けたり。
義母が置いたラジオからは、J-WAVEが流れている。亮くんが好きな山下達郎さんについて、ゲストのゴスペラーズが語っている。達郎さんの「FUTARI」が流れる。亮くんは眠っている。
なにもしていない。でも、とても幸せだと思う。
さっき、亮くんはあの日の話をした。
背中が痛くなって、海から上がってきた、あの日の話。
「ずっと、死神が自分から離れなかった。右肩の上に乗って、払おうとしても、こっちに乗れるよ、と、左肩の上に移って、離れてくれない」
「死神はいつからいたの?」と聞くと、「2軒目から」と言った。
市立病院か。
あの市立病院で、大動脈解離という病名が看護師さんの口から初めて出たこと、手術や、もうひとつの病気、悪性高熱症のことを、初めて亮くんに話した。
「お医者さんに感謝しかないな」
亮くんが言った。
亮くんはちゃんと覚えている、こうやって。
すべてではなくとも、覚えている。
「すごく恥ずかしい」と、看護師さんがお尻を拭いてくれる時の話もした。
まだゼリーではあるものの、徐々に「食べる」ようになってきた亮くん。食べるようになれば、「出る」ようになる。
「うん○どうしたら良いのか、どこにしたら良いのか」と看護師さんに聞くと「『元気になってもらうことが1番だから気にしないでくださいね』と言ってくれて。もう感謝しかない」。
でも、体を横にして、オムツ替えたりお尻キレイにしてもらっている時には、「『今はうん○しないでくださいねー』とか言われて、どっち、みたいな」と、笑い話をした。
今日はむくみがすごい。左目はもはや開かなそうだ。腕もパンパン。
そうか、透析しないからか。排出がまだまだ難しいのか。
「おしっこは怒られるくらい出た」と、言ってたけどな。
「ごはんだけ食べさせてほしい」と、亮くんが言う。
嬉しい!夕ご飯の時間までこれで堂々と側にいれる。わーい!
痰がずいぶんと減ったし(たったの数回)、お水はトロミ無しで飲めるようになった。酸素は95%で、2だったものが1にまで減った。
着実に、良くなっている。
ラジオからは、山下達郎の「希望という名の光」が流れていた。
A ray of hope for you
A ray of hope for me
A ray of hope for life
For everyone