2018/08/15 「夢庵行く?」
10:06
10時を過ぎても家にいる。
いつもならば、午前の面会に合わせ家を出ている時間だ。
今出れば、午前の面会に間に合う。
今出れば、亮くんに会える。
「いいの?」
自分が自分を焦らせる。
いいの。今日は夕方のみにすることにしたんだ。
家でゆっくりするのは久しぶりだ。少し休んで、洗濯をして、ビッケと一緒にいる時間を持とう。
17:00
夕方の面会時間に合わせて、ビッケを連れて病院に向かう。
ビッケの散歩にと、公津の杜公園に立ち寄る。
駐車場に車を停める。とほぼ同時に、体から力が抜けた。機能停止だ。
お昼頃から頭痛もじんわり続いている。ダメだ。15分くらい休憩しよう。
17:22
デイルームで面会時間を待つ。
ビッケは車内で待っている。一緒に病院に来れると、本当に気が楽だ。
亮くんがしゃべれるようになって、初めてのひとりだ、と思うと、ドキドキしてきた。聞き取れないばかりだったらどうしよう。いや、でも、明るく、笑顔でいこう。回復してきた今の状態が何より嬉しい。一緒に頑張って行こう。亮くんの元気につながるように。
午後の面会
ICUに入ると、ベッドが移動したと右奥に案内される。
入院以来ずっと、入り口から真正面に亮くんのベッドはあった。そこからの移動。これは緊急を脱したサインなのではと人知れず喜ぶ。
先生が早速説明をしてくれる。
人工透析を外してみている(5日くらいに透析始めてからずっと続いていたということか…)。酸素は94(でも、苦しそうな様子はない)。痰がまだなかなか出せないので、看護師さんがたまに機械で吸い出している。足や手を上げてもらうリハビリも始まった(今も上体を起こしている)。
「なにがあったの?」
亮くんが聞いてきて、心臓が小さくはねる。
「今のこの状態?」と聞くと、「うん」と首を縦に振った。
「心臓の(大動脈の)手術をしたんだよ」
そう言うと、目を見開いた。
「なんで?」
「背中が痛くなってね、」
亮くんの視線も顔も、もうこちらを見ていなかった。
別の何かに興味を奪われている。この話題には、もう興味がなくなったようだ。
意識が覚めている、とはまだまだ言い難い。
でも、「たまに顔つきが変わる」と、看護師さんも言っていた。
こういうことなのだろう。
今日もまた、おしりふきの追加購入を頼まれる。
クリーナー → パウダー → おしりふき → そしてまたおしり拭き → からのおしり拭き、で、これで3日連続だ。ずっと下しているようで、「牛乳ダメですか?先生から聞いておくよう言われていて」。看護師さんが聞いてくる。
いや、亮くんは牛乳を良く飲んでいたけどな。…いや待てよ、お腹も弱かった…。…まさか牛乳が原因だったのか…!?
もうそのまま伝えた。
熱がまた、38度3分に上がっていた。
18:30
面会が終わっての帰り道。
ビッケが助手席で眠っている。
時折起き上がって、少し開いた窓から顔を出し風を感じている。
2人で支えあっている事を実感する毎日だ。
ビッケは私を支えているし、私もビッケを支えている。
19:38
今日の帰路では、亮くんとのやり取りが何度も思い出されて、その度にハンドルを強く握り前を見ながら泣いた。
亮くん:「お腹すいたね」「どこか行く?」「夢庵行く?」
私:「夢庵?」
亮くん:「うんうん」
会話の日常感と、事態とのギャップ。
もう堪らなかった。
この道を、どれだけ泣いて帰っただろう。
その日々はまだ終わらない。