触覚との対話・意識の覚醒/「タクタイル」駒形克己メソッドワークショップ
造本作家、駒形克己さんのワークショップ「タクタイル」に参加してまいりました。場所は青山のGallery5610です。
駒形さんが手掛けられた本との出会いは美術館のミュージアムショップ。
表紙が円や魚の形にくり抜かれていたり、本の大きさ、紙質、色も様々。
一般的な本とは全く異なる形態がまず目を引きました。
ページをひとたびめくれば、目の前に現れた形が、次のページでは全く異なる姿となって物語が展開。仕掛けを含んだ美しいデザインと、知性を感じるストーリー性に、ただただ感嘆するほかありませんでした。
また2019年に板橋区立美術館で開催された「小さなデザイン 駒形克己展」は
駒形さんの本の形態、構成が存分に活かされた展示空間で、展示室全体が1作品のような、インスタレーションを観ているかのようでした。しかもアメリカ時代の実験作や、デザイナーとして駒形さんがこれまで手掛けられた音楽やファッションブランドの仕事(中でも私はzuccaのロゴが大好きです)のほか、アイデアスケッチまで公開されていました。会場を去るのが惜しいほどの得難い体験でした。
そして今回のワークショップへ参加する以前の10月、私は駒形さんがゲストのポッドキャストを拝聴しておりました。ですので駒形さんの現在の闘病について認知した上で参加しました。世界中でワークショップを開催し、人種やハンディキャップなど「違い」を取り払ったコミュニケーションの共有の場を提供されている駒形さん。たとえ困難な状況下でも駒形さんは解決策を見出し、なぜそれをやるのかというパーパス、ミッションを強く意識されて行動されているのだと、本当に頭の下がる思いがします。
是非こちらのポッドキャストもお聞きください!
さて、ワークショップ開始時間です。参加者には鼻あてのついたアイマスクとA4のコピー用紙が配布されます。配られた紙を3回折ったのち、1箇所をはさみで切り落とす。この作業を、アイマスクにより視界が遮断された、真っ暗な状態で、触覚だけを頼りに行います。
アイマスクをして手を動かしていると、次第に自分の内側に意識が集中し、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じました。
見えないものを見ようと考察する、頭の中で造形してみる‥
デッサンをしている感覚にも近いと感じました。
見えないけど、心はしっかりと紙と対峙し観察しているような気分です。
折り方もはさみの入れる場所も、まずは駒形さんの指示の通りに手を動かし、タクタイルという型の学習を重ねます。何事もまずは真似ることから。
そうした型の取り込みを経て、参加者は創作の段階に入ります。
「3回折って1回切る」というルールは保持したまま、
折る箇所も切る箇所も自分で決断し、オリジナルの作品をつくります。
ルールという制約が、むしろ想像力を膨らませてくれました。
アイマスクを外す前に、どんな形ができあがっているか、
各自イメージし頭の中で言語化してみます。
ワークショップも後半。
駒形さんが目隠しをした状態の参加者1人1人に「この色は○○色ですよ」と、コピー用紙よりも厚みのある色画用紙を渡してくださいました。
参加者は渡された紙の色をイメージし「3回折って1回切る」というルールのもと、紙の彫刻をつくります。(はさみで切り落としたパーツも、紙の彫刻として換算します。)
私には茶色の紙が渡されました。「茶色ならやっぱり木かなぁ、でもちょっとお腹空いてるから食べ物にしようか。そしたらチョコが良いな、四角い紙だし板チョコにするか」という、お菓子な思考で板チョコをイメージしながら目隠し状態で彫刻をつくります。紙を折る際、最終的に彫刻として立つように意識しました。切り離したパーツはチョコの包み紙のかけらにします。
アイマスクを外して、紙の彫刻を展示し鑑賞します。皆それぞれが思い思いのイメージを描きながら、手と対話し生まれた唯一無二のかたち。
見えないからこそ生まれた形に、参加者の皆さんも講師の駒形さんも笑顔がこぼれます。
作品鑑賞を楽しんだ後は、再び各自の席に戻ってアイマスクをします。
今度は別の色の紙が配られます。私は青の紙が配られました。
「わかりやすいのが良いな、青から海で、海の中にいる生き物にしよう」という単純な発想から魚をイメージして手を動かします。
各自が作業を終えたところで駒形さん合図のもと、アイマスクを外します。
なんとそこには‥!!
青だと思って手を動かした、私の目の前には黒い紙の造形物。
私だけでなく参加者皆さんに配られたのは真っ黒の画用紙だったのです!
会場にどよめきの声が上がります。
思い込みという固定観念が覆るような体験でした。
初めて体験したタクタイル。その対象はアイマスクで覆われていて、
視覚では見ることができないのに、より深く、手に心に、
投影して感じて見ていました。
色もそうです。その色が見えない中で、
頭の中で色を呼び起こしながら、色を広げながら手を動かしました。
私は対象を見ているようで、ほとんど見ていなかった、
感じていなかったんだなと痛感しました。
心で感じることに立ち返らせてくださった駒形克己さんと、当日サポートをくださったデザイナーの駒形あいさん、スタッフの皆さんに心からの感謝を申し上げますと共に、これからの活動のエールを送ります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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