飛行機が教えてくれること
その人は一度も眠っていなかった。12時間のフライトで、きちんとした姿勢を崩さず、適度なアルコールと、数回の映画。あとは本を読んだり、パソコンを開いたり。「ぼく、飛行機だと眠れないんですよ」おおらかで、ほがらかな作風で大人気のデザイナーさんだった。その繊細さに、妙に心打たれた。
やわらかそうなスリッパ、保湿用のスプレーとリップ、夏の草原に吹く風のようないい匂いのするアロマクリーム。その人は小さなかばんから次から次にとりだして、飛行機の狭い座席を気持ちのいい空間に変えていった。詩のような文章と企画を思いつく、尊敬するプランナーさんだった。その繊細さに、うっとりと心打たれた。
ぼくは機内食を一切食べないんだ。トレイが配られてみんながいっせいに食べ出すのを見ていると、餌が配給される養豚所を思い出す。そのようなことをかつて、レディオヘッドのトムヨークが言っていた。その繊細さと生きにくそうさに、さすが!と心打たれた。
そうして心打たれながらもわたしは、席についた途端に爆睡しちゃうし、大口あけて寝ちゃうから喉もカラカラだし、お肌どころか目もコンタクトつけたままでカピカピだし、機内食が配られたらまずいとわかっていても食べてしまうし、夜食にたこやきとわかめうどんがありますなんてメニューを見てしまったら、そのためにわざわざ起きてしまう。爆睡&たこやき。
ものをつくる職業につかせてもらっている人間として、大切ななにかが欠けているんじゃないかと、時々とても不安になる。
という企画に参加しております。
というテーマで今回は書きました。