ミャンマークーデターで鬱になりそうな友人へ伝えたい、SNSとの優しい付き合い方【追記あり】
ミャンマー国軍がクーデターを起こし、アウンサンスーチー氏らを拘束して早1ヶ月が立ちました。国軍に対しての市民抗議デモは連日のように続き、BBCニュースによれば、この1ヶ月で少なくとも38人以上が亡くなり、「最悪の流血の日」とも言われています。
「これはまずい…」
こう思ったのは、ミャンマーの惨状に対してだけではありません。僕の友人、特にミャンマーと深い繋がりを持つ人たちのSNSでの反応や発信を見て、強い危機感を感じました。このままいくと鬱になる人が出るかもしれません。3年半前、ロヒンギャ難民危機を目の当たりにして鬱になった僕のように。
この記事では、以前ロヒンギャ難民危機を目の当たりにして、正確には、連日のようにSNSのタイムラインに流れる悲惨な投稿に触れ続けたことで、薬を飲まないと眠れなくなった自分が、あの時どうSNSと向き合えばよかったのかについてまとめます。
僕はSNSの専門家ではありません。ロヒンギャ難民危機の専門家でもミャンマーの専門家でもありません。それでも、他国で起こっていることが他人事とは思えず、SNSとの付き合い方で苦しんだ者として、僕なりに考えるSNSとの優しい付き合い方について紹介させてください。
※この記事では、NPO法人e-Educationの代表としてではなく、一個人としての考えについて紹介する記事になります。
【大事なお願い(2021年3月12日に追記)】
この記事は、僕なりのSNSの付き合い方について紹介する記事であり、ミャンマー国軍の活動を擁護する記事では決してありません。しかしながら、本文(特に後半の「発信」に関する記載)を読み、ミャンマーに縁のある方から「深く傷ついた」というコメントを頂戴しました。不快な想いをさせてしまったことを反省すると共に、同じような想いをされないよう、2つ大事なお願いがあります。
①この記事に対する感想やコメントをぜひください。批判も、修正提案も心を開いて受けとめます。
この記事に関するSNSでの反応やコメント、直接いただいたメッセージは極力記事の末尾で紹介いたします。批判も、修正提案も喜んでお受けし、希望される方はお名前を伏せる形で紹介しますので、忌憚のないご意見・感想いただけたら嬉しいです(匿名希望の方はPeing経由でコメントよろしくお願いします)
②ミャンマーの方とミャンマーに縁のある方にシェアする際は慎重にお願いします。
この記事の後半には「対岸にいる人(=ミャンマー国軍)にも届く愛を持って」という章があり、この内容は苦しい状況下にあるミャンマーの方や、ミャンマーに深く縁のある方の中には、上述のように心傷つく方もいらっしゃるかもしれません。ですので、この記事に「いいね」や「シェア」をされる時は、ぜひ慎重によろしくお願いいたします(もし感想をSNS以外で言葉ににしたい方がいらっしゃいましたら、ぜひ僕へのDMかPeing経由で教えていただければ幸いです)
はじめに:僕があの時学んだSNSとの付き合い方📵
2017年8月、ミャンマーの西武ラカイン州北部で激しい武力衝突が起こり、ロヒンギャの人々が一気に隣国バングラデシュへ避難し始めました。避難する人は日に日に増え、1ヶ月で40万人以上の人がバングラデシュへ。これがロヒンギャ難民危機の一部です。
当時バングラデシュを拠点に生活していた僕は、8月末から約1ヶ月、毎日のようにテレビや新聞で悲しいニュースに触れ続けました。新聞の一面には、ロヒンギャの人たちが置かれる悲惨や現状が生々しい写真と共に紹介され、Facebookではもっと悲惨な写真や動画が出回り、気がつけばタイムラインの投稿は悲しい話で埋め尽くされました。
僕にはバングラデシュの友人も、ミャンマーの友人もいます。そんな彼らがFacebookのコメント欄で口論になり、「ミャンマーが悪い!」「そもそもバングラデシュのせいだ!」と互いのことを非難し合うのを見て悲しくなり、「開人はどっちの味方なの?」と聞かれても答えられず、いつしか安定剤を飲まないと寝られなくなりました。
「三輪さん、いったんSNSから離れましょう」
こう提案してくれたのは、当時僕のドキュメンタリー番組を作るためにバングラデシュへ取材出張に来てくれたNHKの方でした。
テレビと異なり、編集や監修の入らないSNSの投稿は見た人が精神的に不安定になるような写真や動画が多いこと、それに対して、いいねやシェアで反応すると似たような投稿がタイムラインに流れるようになるSNSの仕組み(アルゴリズム)があること、Twitterのような文字制限のあるSNSでの発信は誤解を生みやすくて受け手に不快な想いをさせてしまう危険性があること。
どれも一度は聞いたことがあり、身に覚えのある経験でもありましたが、当時「なんとかしなきゃ」と思い続けていた僕にとって「SNSから離れる」という選択肢は全く頭にありませんでした。
「SNSから一度離れることも、とても勇気ある行動ですよ」
自分自身を護るために。周りの友人を傷つけないために。文脈を共有できていない遠くの人に誤解を生まないように。NHKの方から背中を押してもらい、なんとかしたい気持ちを抑えてしばらくSNSから離れてみることにしました。
あれから3年半。今では「フィルターバブル」をはじめとしたSNSのリスクを知り、相手を傷つけない言葉の選び方も学び、昨年は対立状態にある相手にも共感してもらえるようなコミュニケーションについてまとめた『100%共感プレゼン』という本も出版しました。
その経験や学びを踏まえて、SNSと優しく付き合うための受信・反応・発信のコツをそれぞれ紹介していきますが、今SNSに触れて心を痛めている人におすすめしたい1番の方法は「一度SNSから離れる」ことです。
ここから紹介していくコツを知っても尚、SNSに触れる不安が残る方は、かつての自分のようにぜひ一度SNSから離れてみてください。その勇気を、僕は心から尊敬します。
【SNS以外の方法でミャンマークーデターの最新方法をチェックする方法(2021年3月12日に追記)】
僕個人としてお勧めしたいチェック方法をお伝えすると、1つのメディア媒体からの情報を全て鵜呑みにするのではなく、例えばですが、NHK、日経新聞、産経新聞、BBC、Reuters、といった複数のメディアの情報を、心に余裕がある時にチェックするようにしています。
また、ミャンマーにいる仲間や知り合いの安否情報を素早く知るために、「たびレジ」というサイトに登録し、在ミャンマー日本大使館からのお知らせをメールでも確認できるようにしています。
※ミャンマーの最新情報を知る良い手段が他にありましたが、ぜひメッセージやコメントで教えていただけると嬉しいです。
1️⃣ 受信するときは、楽観的な疑いを👹
突然ですが、以下の文章をまず読んでみてください。
ある日、青い鬼が人間の暮らす村へやってきて、「何もかもぶち壊してやる」と言って暴れ、村の子どもたちを襲い始めました。すると、そこへ赤い鬼がやってきて、懸命に子どもたちを守り、青い鬼を村から追い出しました。村の危機を救った赤い鬼は、その後、村の住民たちと仲良くなりました。
これだけ読むと、青い鬼は完全な悪者で、赤い鬼は正義の味方のように見えます。
でも、実際は違います。これは有名な童話『泣いた赤鬼』の一部を切り取った話であり、人間と仲良くなりたい赤鬼のために、親友である青鬼が芝居を打って村を襲い、赤鬼が人間と仲良くなるキッカケを作った、という物語の一部です。
でも、上の文章だけ読んだだけでは、青鬼と赤鬼の関係性や青鬼の狙いまで考えられた人は決して多くないはず。文字数にして135文字。ちょうど1回のTweet分量で伝えられる情報が、どれだけ少ないか感じていただけたのではないでしょうか。
■ 真実の見極めは難しい
さて、ミャンマークーデターの話に戻ります。
「非暴力を訴えながら抗議デモをしている市民を、国軍が発砲して市民を傷つけた」といったSNSでの投稿を何度も目にしました。悲惨や写真や動画は見るだけでも胸が苦しくなり、顔も名前も知らないミャンマー国軍に怒りが込み上げてきそうになりますが、僕たちは何かを見落としているかもしれません。
軍人も人間です。上官の命令で仕方なく攻撃に参加し、心で泣きながら仕事をしている人はいないでしょうか?その手で命を奪ったこをと気に病み、眠れない夜を過ごしている人はないでしょうか?
「もしかしたら」を考え出せば、キリがありません。全ての可能性を否定できる根拠も多くの場合は見つかりません。専門家や有識者が何重にも事実確認や背景分析をしているテレビ報道とは異なり、SNSの1投稿から真実を見極めるのは、あまりにも難しいです。
だったら、どうすれば良いのでしょう?
3年半前のロヒンギャ難民危機で、僕が真実の見極めに悩んだ時に出会った素敵な言葉を紹介させてください。
■ 悲観は気分、楽観は意志
「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」
これは『幸福論』などで知られている哲学者アランの言葉ですが、この言葉には続きがあります。
「気分にまかせて生きている人はみんな、悲しみにとらわれる。否、それだけではすまない。やがていらだち、怒り出す」「ほんとうを言えば、上機嫌など存在しないのだ。気分というのは、正確に言えば、いつも悪いものなのだ。だから、幸福とはすべて、意志と自己克服とによるものである」
(和訳引用:PRESIDENT Online)
これはSNSとの付き合い方、特に「受信」する時にも活かせるのではないでしょうか。
悲惨な写真や動画を見ると、気分は沈み、悲しみや怒りがこみあげてきます。でも、写真や動画に触れるときに「明るい未来の可能性があるかもしれない」という意思を持って接することができれば、青鬼の心情が見えてくるかもしれません。
「青鬼なんていない、妄想だ」と思う人もいるでしょう。でも、いいじゃないですか。これは気分が沈まないようにする意思の話であり、自分がどんな意思を持ってSNSに接するかは、僕たち一人一人の自由です。
受信するときは、ぜひ楽観的な疑いを。
2️⃣ 反応するときは、明暗のバランスを⚖️
テレビとSNSの大きな違いの一つが、「いいね」や「シェア」をはじめとした反応の有無です。
SNSで流れる投稿への反応として、自分の感情を表現するシンプルな方法としての「いいね」と、友人や知人に伝えるシンプルな方法としての「シェア」は、どちらも当たり前になりましたが、その仕組みやリスクについて知らない、もしくは忘れてしまっている人も多いはず。
そこで、まずSNSの仕組みやリスクとして「フィルターバブル」「エコーチェンバー現象」「サイバーカスケード」という3つの言葉についてまず紹介させてください(全部知っているよ、という人は■ミルクティー同盟の箇所までスキップしてください)
■ SNSの仕組みとリスク
「フィルターバブル」という言葉が生まれたのは2011年。2007年に初代iPhoneが発売されたことを踏まえても、インターネットを活用することが日常の一部になり、SNSユーザーもどんどん増えていた時期に、“警鐘”として生まれた言葉でした。
インターネットの検索履歴やSNSのフォロワーが「フィルター」となって同じような情報ばかり表示され、その結果、まるで「泡」の中にいるように、自分が見たい情報しか見えなくなってしまう。これが「フィルターバブル」です。
この言葉が世に広く知れ渡ったのは2016年のアメリカ大統領選。共和党(トランプ氏)を支持するブログ記事が150万回以上シェアされたにも関わらず、民主党(クリントン氏)支持者のフィードに流れることがなく、知らず知らず情報の分断が起きていることが、大きな話題になりました。
そして、この大統領選以来、よく耳にするようになった言葉が「エコーチェンバー(共鳴室)現象」です。FacebookやTwitterでは、自分と考え方が同じ人や似ている人をフォローし、そうでない人をアンフォローすることが容易にできるため、自分の投稿に対して多くの同意や共感コメントがつき、フィードやタイムラインにはまるでエコーなのかという投稿がずらっと並ぶことで、自分の考えが自然と増幅・強化されていきます。
その結果、「サイバーカスケード」問題が発生しました。「サイバーカスケード」とは、同じ考えや思想を持つ人たちがインターネット上で強く結びつくことによって、異なる意見を一切排除する閉鎖的かつ過激なコミュニティを形成する現象のことであり、アメリカの選挙戦後にデマや陰謀論がはびこった原因とも言われています。
ここまで読んで、ピーンときた人もいるでしょう。
「フィルターバブル」「エコーチェンバー現象」「サイバーカスケード」は、選挙戦をはじめとした人の対立構造下で色濃く表れる問題であり、ロヒンギャ難民危機の時にも強く実感しましたし、今回のミャンマークーデターでもあるハッシュタグを見つけて「あー、まただ」と痛感しました。
それが「ミルクティー同盟」です。
(参考)3つの言葉について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧下さい。
・“知りたい情報”だけで十分ですか?
・SNSの落とし穴 「フィルターバブル」「エコーチェンバー」に注意を
・エコーチェンバーの責任はFacebookにある、そしてあなたにも
・極端な思想へ先鋭化する「サイバーカスケード」の問題とは 集団化により差別行為の助長も
■ ミルクティー同盟について
2月末からミャンマークーデターに関するSNS投稿に対して、新しいハッシュタグが加わりつつあります。
WhatsHappeningInMyanmar(”ミャンマーで何が起きている?”という意味)
SaveMyanmar(”ミャンマーを救え”という意味)
MarXXCoup(日付を示すハッシュタグ。Marは3月、XXには日にちが入り、Coupはクーデターを指す言葉)
これらのハッシュタグに加えて、MilkTeaAlliance(ミルクティー同盟)というハッシュタグも見かけるようになり、僕の友人をはじめとした多くの人たちが該当するTwitterやFacebookの投稿に対して「いいね」や「シェア」といった反応をしていますが、「ミルクティー同盟」の意味を知らない人がいる気がしてなりません。
「ミルクティー同盟」は若者たちを中心としたネット上の民主化連帯運動、と言われていますが、歴史的にミルクティーを飲む東南アジアの人たちが、紅茶を飲む際にミルクを入れない中国に対する反中国連帯の象徴を意味する言葉でもあり、MilkTeaAllianceのハッシュタグを追うと「今回のミャンマークーデターも中国による陰謀である」といった投稿が無数に出てきます。
今回のクーデターと中国の関係については、ここでは特に触れません。ただ、このハッシュタグのついた投稿に対して「いいね」や「シェア」といった反応をすることが、中国の人たちに嫌な想いをさせてしまう他、上で紹介したフィルターバブルに繋がり、自分自身の考えや思想が偏るキッカケになりうることを、ぜひこの機会に覚えてもらえたら嬉しいです。
「ミルクティー同盟」のように、知らず知らずのうちに進んでいくフィルターバブルやエコーチェンバー現象を避けるために、SNSで反応するときに何を心がけたら良いのか?
僕なりの答えは「バランス」です。
【ハッシュタグの怖さに関する補足(2021年3月12日に追記)】
ロヒンギャ難民危機に関するSNSの投稿において、SaveRohingyaというハッシュタグに賛否の声が集まりました。ミャンマーの人たちの多くはロヒンギャの人たちを「ベンガリ(ベンガル語を話す人)」と呼んでおり、SaveRohingyaというハッシュタグを見るたびに「僕たちが間違っていると指摘された気分だった」とミャンマーの仲間が打ち明けてくれました。
どう呼称すれば良いか、はとても難しく、当時ミャンマー大使館で働いていた方も、ミャンマーの方と話す時は「ラカインムスリム」と表現し、聴き手が不快な想いをされないよう細心の注意を払っていました。
SaveRohingyaという言葉を見てミャンマーの人たちが不快な想いを抱いたように、MilkTeaAllianceという言葉を見て不快な想いを抱くことがいることも受け止めた上で、どんな言葉なら誰も傷つかないのか、一緒に考えていきましょう。
(参考:「ロヒンギャって呼ばないの?」日本からは見えない難民問題の根っこ)
■ 明暗のバランスを
「AとBのどちらが正しいか?」
このような質問に対して「A 正しい」とGoogleで検索するとAが正しいと思っている人の記事がその後検索上位に来るようになり、Aを推している人の投稿に「いいね」や「シェア」をすると、その後フィードやタイムラインにはAを推す人の投稿ばかりが表示される。これが上で紹介したSNSの仕組みとリスクです。
では、どうすればこのリスクを回避できるか?
僕が意識していることは「バランス」であり、Aが正しいという意見とBが正しいという意見をできるだけ同じくらい見るよう心がけています。では、ミャンマークーデター関連のニュースとどう向き合ったら良いでしょう?
ここで僕の友人を紹介させてください。ミャンマーで起業している村上さんは、自身のTwitterでミャンマークーデターのニュースを「いいね」「シェア」されていますが、このような投稿を見かけました。
ミャンマーのネガティブなニュースだけでなく、ポジティブなニュースも発信し、ミャンマーの好きなところも紹介されています。
このようなバランスある発信をされている人をフォローしたり、自分が反応する時も明るいニュースと暗いニュースのバランスを取ることで、ここまで触れてきたSNSのリスクを回避することができます。
今、SNSで毎日のようにミャンマー関連の悲しい投稿に触れている方は、フォローしている人のバランスや、「いいね」や「シェア」といった自身の反応を少し変えてみてはいかがでしょうか?
反応するときは、ぜひ明暗のバランスを。
3️⃣ 発信するときは、対岸の人まで届く愛を持って💌
もう見出しの言葉で言い切った感はあるのですが、僕の苦い失敗談を紹介しながら、どうやったら対岸の人たちの心に響く言葉になるのか、僕なりの考えをぜひ紹介させてください。
■ ロジックでは人の心は動かない
いきなりですが、犬と猫、あなたはどちらが好きですか?仮に犬が好きなら、猫好きの人に犬の魅力をどう伝えますか?
実は、9割以上の人がこの伝え方を間違えます。猫派の人に向けて、いくら犬の魅力を伝えたとしても、それでは相手の心は動きません。
一例を紹介します。猫が好きな人である想定で、以下の文章を読んでみてください。
「あなたは猫が好きだと聞いたのですが、犬もとっても魅力的なんですよ。
犬の魅力は忠実で人懐っこいところです。先日、実家に戻ったら、尻尾をふって近づいてくれて、本当にかわいいと思いました。散歩が面倒に感じるかもしれませんが、実際には気分転換にもなりますし、散歩していたら自然とダイエットもできます。やっぱり、猫よりも犬の方が、魅力的じゃないですか?」
たしかに犬の魅力を論理的に伝えています。しかし、猫好きな人にとっては、猫を否定されたような気がしてしまいます。そんな論理は、猫派の人にとって受け入れにくく、それ以降の言葉は、きっと耳にも入ってこないでしょう。
では、どうすれば良いのか?簡単です。「猫と犬が似ている」と伝えて、自分が猫派と対立するつもりはないことを示し、猫と犬の共通の魅力を挙げていけばいい。相手がもらってうれしい言葉を選ぶ、これだけです。
「なんだ、それだけの話か」と思うかもしれません。しかし意外と、仕事でもプライベートでも、実践できていない人は多いのではないでしょうか。
違う意見を持つ相手に関して、その裏側にどんな背景や物語があるのかとしっかりと考えるだけで、意見の対立や口論は少なくなるはずです。
「相手の立場や境遇をしっかり考え抜き、相手が共感できる言葉を選ぶ」
これが1割の人しか実践できていない、相手の心を動かす話し方のコツであり、昨年出版された『100%共感プレゼン』に込めた想いになります。
「あたなが悪い」「あなたが間違っている」
以前の僕はこんな言葉をよく使い、パートナーや仲間たち、大切な人たちをいっぱい傷つけてきました。後悔しても仕切れず、なるべくこういった言葉を使わないよう意識しているからこそ、最近のSNSで流れるミャンマー関連の投稿を見て、とても胸がザワザワします。
「ミャンマー国軍が悪い」「ミャンマー国軍は間違っている」
果たして、こういった言葉は、どんな未来に向かう言葉なんでしょうか?
■ 対岸の人を傷つける加害者にならないように
先日、e-Educationでインターンをしていた仲間でもある佐々くんが、Twitterでこんな投稿をしていました。
「日本の大学を退学させろ」は酷い誹謗中傷だ、という意見には、きっと同意される方も多いでしょう。
でも、「軍が悪い」「軍が間違っている」という投稿と何が違うのでしょう?今、ミャンマー軍で働く人たちにも家族がいますし、親戚も友人もいます。そういった人たちが、どんな気持ちになるか、僕たちはしっかり想像できているでしょうか?
3年半前にロヒンギャ難民危機が起こった時、本人の希望もあってミャンマーの仲間をバングラデシュに招待したことがありました。難民キャンプで一緒に緊急支援の活動をしてきたバングラデシュの大学生たちが、ロヒンギャの人たちを取り巻く悲惨な状況と何も声明を出してくれないアウンサンスーチー氏への怒りを打ち明けたところ、ミャンマーの仲間が少し震えながら「So sorry」と返事をした光景を今でも忘れられません。
バングラデシュの大学生たちは、ミャンマーの彼を傷つけるつもりなんて全くありませんでした。ただ、本人を目の前にしてすら、相手を傷つける言葉を言ってしまう。それを痛感した今、顔が見えない相手に対して、暴力的な言葉を無意識にぶつけてしまうSNSの怖さを凄く感じます。
知らない間に、対岸の人を傷つける加害者にならないように。そのために想いやりや愛のある言葉を、僕たちは今選べているでしょうか?
■ 対岸の人まで届く愛を持って
ここまで書いておいてなんですが、この記事を公開するか、実は1週間近く悩みました。
特に悩んだことが、この一つ前に書いた「■対岸の人を傷つける加害者にならないように」について。この一節を読んで、きっとザワザワした人もいるでしょう。
ごめんなさい、でも、もう少し続けさせてください。
3年半前、ロヒンギャ難民危機が起こり、「結局、開人はどっちの味方なんだ?」とバングラデシュとミャンマー両国の若者たちから質問されました。悩んで悩んで悩んで、最後に出した答えは「どっちの味方でもありたい、どっちも好きだし、一緒に手を取り合って、ロヒンギャ難民危機を乗り越える未来を見たい」です。
期待した答えと違ったためか、悲しそうな顔をした仲間もいました。でも、やっぱり譲れませんでした。どちらの国も好きで。だからこそ、手を取り合う未来を諦めたくなくて。それを言える「よそ者」であったわけで。
そう、「よそ者」なんです。ロヒンギャ難民危機で、100万人近い難民を受け入れて自分たちの生活も不安定になったバングラデシュの人たち、国際社会から非難さ続けてきたミャンマーの人たち、どちらも「当事者」であり、そんな彼らに「まーまー、平和な道を考えましょうよ」と言ってもザワザワさせてしまうだけでしょう。
今回のミャンマークーデターもきっと同じです。どんなにミャンマーが好きでも、ミャンマーに大切な仲間がいても、少なくとも僕は自分を「よそ者」だと思っており、そんな「よそ者」にしかできないことがきっとあると思っています。
それが、対岸の人まで届く愛を持つこと、届ける方法を考えること。ミャンマーの軍関係者とミャンマー市民が笑い合い、手を取り合う未来を夢見ることだと、僕は本気で思っています。
・・・と、ここまで記事の下書きをしつつも「やっぱりザワザワする人もいるだろうから、記事の公開はやめようかな、このパートは削ろうかな」と悩んでいたところ、(記事執筆時点では)昨日、在ミャンマー日本大使館がFacebookページへ投稿した内容に批判のコメントが集まりました。
クーデターでミャンマーの全権を掌握した国軍が任命したワナ・マウン・ルウィン氏について、日本外務省は9日「外相」と呼称すると明らかにした。日本は軍政と独自のパイプがあり、外務省は呼称維持の「必要性」があるとして関係を重視。ただ現地では、軍政を実質的に承認する姿勢だとして非難の声が上がっている。
在ミャンマー日本大使館は8日夜にフェイスブックで、丸山市郎大使が首都ネピドーで「ワナ・マウン・ルウィン外相」に対し、民間人への暴力の即時停止やアウン・サン・スー・チー氏らの解放を申し入れたとビルマ語、英語、日本語で表明。市民らからは、非難のコメントが多数寄せられた。
たしかに、軍政を実質的に承認する姿勢だと思われても仕方ないかもしれません。ただ一方で、「外相」と呼称しなければ、ミャンマー軍関係者はどう思ったでしょうか?
僕は前職JICAで働いていた時から、ミャンマーの大使館をはじめ、各国の大使館の方々と一緒に仕事をしたり、議論をしてきましたが、両国の架け橋となるよう最善の道を常に模索されており、今回の「外相」呼称もきっと議論に議論を重ねた結果、市民からの批判を覚悟の上で、それでも対岸の人まで届く愛を持って選んだ言葉な気がしてなりません。
繰り返します、覚悟が必要なんです。
対岸の相手と手を取り合うのは決して簡単なことではありません。どちらに寄り添っても非難されますが、批難に同調しても反論しても対立の構造は変わりません。できることは非難の声を受けとめる覚悟を持って、和解・和平の未来が来るまで、対岸の人にまで届く想いやりや愛を持つ言葉を生み出し続けていくしかありません。
だからこそ、僕もこの記事を、このパートを、覚悟を持って公開することにしました。
発信するときは、対岸の人まで届く愛を持って。
言うはやすし、行うは甚だ難しいですが、「よそ者」として、ミャンマー国軍の人たちも含めてみんなが笑って笑って明日を迎えることを願って止みません。
おわりに: 批判よりも貢献を🤝
「関係の悪化したミャンマーとバングラデシュの若者同士を繋ぎ、一緒にロヒンギャの方々から生の声を聞く機会を作りたい」
ロヒンギャ難民危機が発生して半年たった2018年の2月。僕は小さな決意を固めました。
無理だ無茶だと色んな人から止められましたが、応援・協力してくれる方も多数おり、日本も含めた3カ国の若者たちが一緒に旅をして学び合う、実践型教育プログラム「LAMP」が生まれました。
2019年に第一期プログラムが開催され、バングラデシュとミャンマーの若者5名ずつを日本に招待し、ロヒンギャの方々と実際に対話する機会を作ることもできました。
もちろん不安はありました。プログラムが始まった当初は、バングラデシュとミャンマーの若者の間で少し口論になったこともありました。
それでも、「よそ者」である日本の若者たちが間に入り、みんなで対話を重ねているうちにどんどん仲良くなり、プログラムが終了して2年経っても互いのことを“仲間”と呼び合える優しく温かい関係が続いています。
どちらが正しいか・間違っていたかの白黒をつけるのではなく、白だと思う人も黒だと思う人も一緒に笑い合い、手を取り合い、共に社会を創る未来を信じて生まれた「LAMP」は期待通りの、いや、期待以上に笑顔あふれる素敵なプログラムになりました。
あの時行動して本当によかった。明るい未来を信じ続けて本当によかった。そう思う僕が大切にしている大好きな言葉を、最後に紹介させてください。
■ 批判よりも貢献を
僕の尊敬する友人であり、『ファクトフルネス』の共訳者である上杉くんが、以前ブログに書いていた「ディスる前に貢献する姿勢」の大切さを、今改めて感じています。
毎日のように見聞きするミャンマークーデターのニュース、まだまだ猛威を振るう感染症の影響で苦しい毎日が続き、心が沈み、怒りや悲しさが溢れ、誰かを批判せずにはいられない気持ちは痛いほど分かります...が、貢献できる方法を一緒に探していきませんか?
負の感情を言葉にするよりも、誰かから熱のこもった「ありがとう」をもらった方が心は軽くなるし、明日も頑張ろうという気持ちになれます。
・・・というわけで、この記事を読んで少しでも参考になったという方は、ぜひ以下のクラウドファンディングの応援を検討いただけたら嬉しいです。
まずはこちら。経済・社会が麻痺する中で、明日を迎えるための食糧支援は最も必要な支援です。僕自身、ロヒンギャ難民危機が起こったときは、二度にわたってクラウドファンディングで応援を募り、合計20万食の食糧支援を実施しましたが、 「ありがとう」と涙を流しながら感謝された当時の記憶は今もハッキリ覚えており、僕も喜んで田村さんたちの挑戦を応援しました。
そしてもう一つがこちら。プロジェクト実行者のウェイウェイヌーは、上で紹介したLAMPでも協力してもらった大切な仲間であり、彼女の挑戦を心から応援しています。ウェイウェイの活動はいわゆるアドボカシーと呼ばれるものですぐに効果が出るものではないかもしれません。それでも、絶対に挑戦を諦めない彼女のサポートになればと、今回も応援することにしました。
日本にいる僕たちにできることは限られていますが、今ミャンマーで苦しむ人たちを応援することはできます。微力は無力ではなく、お金だけでなく想いも挑戦する人たちの後押しになります。
よかったら、ぜひ一緒に応援しましょう!
追記(記事の修正履歴とコメント掲載)
この記事を公開した後、想像以上の感想やコメントをいただきました。
その中には「この記事を読んで深く傷ついた」という声もありました。申し訳ない気持ちが募り、この記事を削除することも考えましたが、「この記事に救われた」という声もいただき、追記することを決めました(2021年3月12日から追記開始)
先ほど紹介した『ファクトフルネス』の共訳者・上杉くんのブログにある「著者側は、指摘や貢献を歓迎する姿勢を大切に」という言葉に習い、この記事に関する指摘や感想は賛否問わず歓迎し、この記事を以下の方針で【修正】【追記】していきます。
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【修正】について
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noteの記事では、修正前後の文章を比較することが難しく、Googleドキュメントに本記事を転載し、修正履歴が見えるようにします。修正を加えた意図は極力コメント形式で残しますので、合わせてご参照ください。
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【追記】について
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この記事に関するSNSでの反応やコメント、直接いただいたメッセージは極力紹介いたします。賛同される方のみならず、この記事を読んでおかしいと思われた方や、不快な気持ちになったという方のコメントも、心を開いて受けとめますので、忌憚のないご意見・感想いただけたら嬉しいです(匿名希望の方はPeing経由でコメントよろしくお願いします)
※直接メッセージいただいた方も、希望される方はお名前を伏せる形で紹介しますのでご安心くだださい。
また、これから紹介する感想やコメントの中には、自分とは異なる意見もあり、心がザワザワする方もいらっしゃるかもしれませんが、「なるほど、こんな視点もあるんだ」と心穏やかに受け取っていただけたら嬉しいです。
■直接いただいたメッセージ
FacebookやTwitter経由で個別にいただいたメッセージ、直接伺ったメッセージから転載許可いただいたものをご紹介します。
《3月11日に匿名希望の方からいただいたコメント》
日本人は「落としどころ」や「対話」を考えているけれど、ミャンマー人の気持ちはそんなところにない。また、ミャンマー人はひたすら強く訴え、批判すればいいと思っているけれど、そのやり方一辺倒では日本人がミャンマー問題から距離をとったり逆に批判的になったりする。というすれ違いが起きています。今回の三輪さんの記事は、今後のコミュニケーションによって、そのすれ違いを拡大させることにも、あるいはギャップの存在を気付かせることにも、読み手によって、どちらにも転ぶ可能性があります。しかし、ひどく心に傷を負っているミャンマー人やミャンマー人に近しい人が見るには、あまりに危険な内容で、大勢の人を傷つけてしまうリスクのほうが高いと思っています。また、あまりミャンマー情勢を知らない人が読んだ場合、SNSの情報は偏っているから見なくてもよい、ミャンマーに関心を持つことはしなくていい、という風な気持ちになる記事だとも思います。そのため、鍵をかけて読むことに耐えられる精神状態にある方と、正確に記事の意図を読み取って対処できる方への限定記事とすることを強くお勧めします。
→いただいたご指摘を踏まえ、記事冒頭に【大事なお願い】を追記しました。
《3月11日に匿名希望の方からいただいたコメント》
素敵な記事をありがとうございます。ミャンマークーデターが起こってからSNSを見るのが辛くて、ずっと悩んでましたが、体調が戻るまで、しばらくSNSから離れてみようと思います(ミャンマーのニュースは新聞やWEBの記事などで追うようにします)
(中略)三輪さんの言葉はどれも温かく、勝手ながら救われた気分です。本当にありがとうございます。
→いただいたコメントへの補足回答として、「はじめに:僕があの時学んだSNSとの付き合い方📵」の末尾に、【SNS以外の方法でミャンマークーデターの最新方法をチェックする方法】を追記しました。
《3月12日に匿名希望の方からいただいた質問》
ロヒンギャ難民危機の時に起こったフィルターバブルについて、もう少し詳しく知りたいです。
→いただいた質問への回答・補足説明として、「2️⃣ 反応するときは、明暗のバランスを⚖️」の半ばに、【ハッシュタグの怖さに関する補足】を追記しました。
■noteなどブログ形式でいただいた感想
本記事の感想について、noteや個人のブログで紹介いただいた方を紹介します。
■SNS上での反応やコメント
本記事についてSNSでコメントや引用いただいた方の投稿をご紹介します。Twitterはそのまま転載しておりますが、掲載を望まない方は僕のTwitter経由でご連絡いただけましたら、すぐに対応いたします。
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