占い師見習い
昔、新卒で就職したアパレルブランドの新人研修が東京であった。全国の新卒が集まって、何十人いたか覚えてないけど、店舗の数と比例して大半が関東の子たち。私達関西から10人ぐらい、後九州とか北海道とかからも少し居たかな。全部で100人はいなかったと思う同期の中にちょっと変わった特技を持つ女の子がいた。
祖母も母も占い師だと言ってたように思う。自分もいずれその道に入るけど今はまだ見習いみたいなものだという彼女は、手相だったか、誕生日とかも聞かれたかな、記憶は曖昧だけれど占って欲しがる子たちを順番に見てあげてた。
私は占って欲しいわけではなかったけれど、流れで見てもらうことになった。
「もうすぐ結婚するね?来年か再来年?」と言われた。先月卒業したばかりだけれど、当時の彼と二人の間では結婚を決めていたので驚いた。
「子供も生まれる。男の子か女の子かはちょっと分からないけど2人かな。」
彼女が口にした言葉は私が当時望んでいた未来と同じだったので、ちょっとホッとした。
「でも弥和さん、あんまり体丈夫じゃないね。40代ぐらいで病気するかも。手術とかは……多分ないかな。少なくともお腹を開ける手術はないみたい。」
占って欲しかったわけではないけれど、やはり言われたことは心に残るから、あまり困った結果じゃなくて良かったな、ぐらいに思ってた。
私の後にも何人か占ってた彼女はある男子を見始めた時に「今日は疲れたのかもうダメみたい。ごめん。」と唐突に切り上げた。
次の休憩の時にその彼女から「さっきは疲れたわけじゃなくて○○くんを見たら何も見えなかったんだよね。こんなこと初めてでショックだった」と聞いて、そっか真面目に占い師になりたいんだな、ぐらいにしか思ってなかった。
3ヶ月後、1年後、と何度か研修で集まった同期は少しずつ減っていた。その多くは合わなくて辞めたようだったが、「何も見えない」と占ってもらえなかった男子が病気で亡くなったことを聞いた時は、病気自体もショックだったけど、あの占いのことを思い出すとちょっとゾッとした。
その次の年に結婚して会社を辞めた私はその後彼女に会った事もないし、正直名前も覚えていない。彼女の言ったとおり、当時の彼と2年後に結婚し女の子を2人産み育てた。
40代ではなく50代になってるけど、肩の手術を今日受ける。確かにお腹を開ける手術をではなくて関節鏡手術なのだ。
彼女は今どうしているのかな、とふと思う。