見出し画像

催眠術師を接待して病みかけた話~私だけかもしれないレア体験~

広告代理業のベンチャー。新卒入社の営業マン。当時22才。
同期入社の中で営業部に配属された女子は私だけだった。

慣れないスーツ。満員電車。営業ノルマ。

社会の荒波にのまれまくってる中でなんとかコツコツと毎日の仕事を頑張っていた。

そんな頃のお話です。

取引先のひとつにデザイン会社があって、そこの会長がマジックと催眠術を趣味にしている人だった。

打ち合わせの時に見せてくれたコインマジックを大げさに喜んだことが、
あの混乱と気合いの夜を呼んでしまったかもしれない。


そう、ちょうどこの季節。
冬のイルミネーションがきれいな時だった。

場所は青山の夜景の見える洋風居酒屋の個室。
忘年会を兼ねた接待での出来事である。


社内でも私がお酒に強いのは有名だった。
実際にお酒好きだし、接待の飲み会であってもわりと楽しみにしていた記憶がある。
、、、でも今になって思う。あれは<酔っぱらってた方が楽>だった。

飲み会メンバーは
私の会社の社長、私の上司、私の同期、私、
取引先の会長(催眠術師)、取引先の担当、取引先の若手2名、、、の合計8人

若手も交えて親睦を!という感じのメンバーだった。

そこそこ全員に酔いが回ったタイミングで取引先の会長(催眠術師)がマジックを披露し始めた。

※以降、取引先の会長(催眠術師)→催眠術師、私の呼称はMとします。

催眠術師『次は催眠術も披露しましょう!じゃあMさん。目を閉じてもらおうかな?』

よくテレビで見るアレである。

目を閉じて~力をぬいて~今から僕の言うことが本当に起こりますよ~というアレだ。

素直に従い、目を閉じて、力を抜いた。

催眠術師『今から目の前にハトが現れますよ。はいっ!!』

覚悟を決めて目を開ける。
見えたのは白いおしぼりだった。

もう一度目を閉じて開けてみる。
うん。おしぼりだ。ハトじゃない。

でもこれは接待だ。全力で乗らねばならない。
やるしかない。のるしかない。
私は言った『うわぁっ!ハトだ!!』

飲み会のメンバーは大騒ぎだ。
皆は口々に『本当にハトに見えるのか?』『動いてるのか?』と聞いてくる。

何を隠そう私は元劇団員だ。一年間だけだけど、、、
まさかその演技力がこんな形で役に立つと思わなかった(号泣)

私『えっだってハトいるしっ…えっなんで?!』

催眠術師はノリノリでおしぼりをつかみヒラヒラと持ち上げた。
やるしかない。のるしかない。

私『あっ逃げちゃう!あっあっ!』

おしぼり、、、じゃなくてハトはヒラヒラしながら向かいの椅子の背中に消えた。
催眠術師が『はいっ目を閉じてっ』と手をたたく。
私は指示にしたがった。すでに息切れが激しい。

終わった、、、やりきった。私がんばった。
ハトじゃなく、お酒の酔いが飛んで消えていた。

、、、だが終わらなかった。

催眠術師『好きな芸能人は誰ですか?』
私『、、、嵐』

当時はナンバーガールの向井秀徳が好きだったが、
どう考えても催眠術師は知らないだろうから
脳みそフル回転でメジャーなアイドルを言った。

催眠術師『嵐のだれ?』
私『リーダー、、、の大野智』

とりあえず嵐のリーダーの大野智の名を出した。

催眠術師『今から嵐の大野智が目の前に現れますよ。』

難易度高いのが来た。
でも、やるしかない。のるしかない。

催眠術師『3、2、1、、、、はいっ目を開けて!!』

目が合ったのは嵐の大野智とはかけ離れた四角い顔の私の社長である。
しばし社長と見つめ合う。お互いに固まること数秒間。
でも。やるしかない。のるしかない。

私『えっ!どうしようっ!!恥ずかしい!!』
社長『えっ!嵐のヤツに見えてるのか!?』
催眠術師『告白すれば?』
私『えっ恥ずかしい!!無理です!!!』

地獄である。なぜに社長に告白しなきゃならないのか?
本当に大野智に見えたら良かったのに。

催眠術師『大野智のどこが好きなの?』
私『(知らんわっ!!)、、、歌?』
催眠術師『何か歌ってもらえば?』

さあ社長=大野智(仮)に飛び火したぞ。
社長はアワアワとした顔で周りを見渡した。
その場の全員が期待のまなざしを向けている。
社長は何かモゴモゴとつぶやいてからおもむろに歌い出した。

社長『♪You are my SOUL SOUL い~つ~もすぐそば~にあるっ♪』

マイク代わりに握っているのは、さっきまでハトだった白いおしぼりだ。
おしぼりはハトになり、マイクになりの大忙しである。

私は黄色い悲鳴を上げて目の前の社長に手を振る。
私『キャ~かっこいいーー!!』

社長『♪A・RA・SHI A・RA・SHI ふぉ~どり~む~♪』

私『あらしーーー!!大野智ーーー!!』

社長はアカペラで歌い続け、私は歓声を上げまくり、催眠術師はそれを満足げに見守り、周りの皆は手をたたいて笑い転げた。

私は延々と続く宴に精神の危機を感じながらも、
諦めたらそこで試合終了ですよ、
と強い責任感で演技力をキープし続けた。

そうしてゆっくりと青山の夜が更けていった。

その後もその取引先との関係は円満に続き、私はしばらくして諸事情で退職した。

今でも都内のイルミネーションを見ると蘇る、
混乱と気合いの思い出である。


ちなみに退職から数年後、私は嵐の大野智のガチなファンになっていた。
コンサートのために飛行機に乗り、グッツを買いまくる大野智担当である。



もしかしたら、催眠術が年月を経て効いたのかもしれない。

おしぼりがハトに見える方じゃなくて良かった。


みわ@湘南のすみっこ

〜私だけかもしれないレア体験〜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?